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1巻~Beginning of the unreal〜第1章 ようこそ現実へ
12話
しおりを挟む漆黒が彼についていこうとした反動で一緒に飛んでった鼻折れが、片目の横についたところで、
ボスが低く唸り、二匹が同時に駆けた。
さっきの攻撃が来る。そう身構えた東条の横腹に、
「ぐッ!?」
横腹を背中に食らったものと同じ衝撃が走る。
右に飛ばされながらも、見逃すまいと自分を飛ばした犯人に目をやり、
しっかりと見た。
空気が揺らぎ散っていく瞬間を。
(風魔法!!)
彼が見たものは動画のそれと同じ現象。
恐らく使っているのはボス。自分は全体を見れる位置に立ち、サポートに回る。危険な雑務は手下にやらせる。合理的な戦い方だ。
彼は横に転がりすぐに二体に目を向けるも、既に回り込まれている。
飛びかかってきたところで全力で後ろに飛び、二匹を無理やり視界に入れた。
鼻折れに狙いを定め突進。
飛びかかってきたところを下顎から蹴り抜く。すぐさま襲いかかり脇腹を引き裂いた。
急いで振り返るも、そこまで牙が迫っている。
「くッ」
やむを得ず左腕でガードしようとしたところに、
――漆黒が現れる。
漆黒が片目の顔を遮り、勢いを『完全に』止めたところで、東条は正体不明の感触を感じながらその場を離脱する。
それも束の間、真横から違和感を感じ振り向くが、ボスの攻撃の方が速い。
空気の揺らぎと共に風の塊が直撃
……するところで、又もや漆黒が間に割って入った。
漆黒の範囲外から残風が顔を叩く。
しかし来るはずの衝撃は訪れない。代わりにあの感触が東条の中に溜まっていく。
彼はここで、ようやく自分の能力の秘密の一端に気付いた。
一つ、視界に入っている場所なら反射並の速さでガードが可能。
二つ、『衝撃の吸収』。ガードを可能にしているであろう能力。
そして三つ、――
東条は獰猛な笑みを浮かべ、二度の攻撃を防がれ様子を見ていた二匹に向かって地を蹴る。
(吸収が可能で、あの感触の正体が今まで溜めた『衝撃』なら)
片目が先陣を切って正面から飛びかかってくる。
彼は漆黒を片目の眼前に出し、衝撃を『吸収』。瞬間、お返しとばかりに今までため込んだ全てを『放出』する。
「ぶッ飛べやァッ!!」
動きを止められ、落下途中だった片目が、刹那、面白いくらい簡単に後方へぶっ飛んだ。
錐揉みしながら空中を散歩した後、激しい音を立て商品棚に突っ込んでいく。
片目は血混じりの泡を吹いて起き上がらない。脳震盪でも起こしたのだろう。
あとで始末すると決めた東条が、依然と動かないボスを睨みつける。
「……よぉ、やっと二人っきりになれたなぁ?」
怒涛の追い上げと能力の覚醒から、全身を駆け巡る快楽物質が彼に痛みと疲労を忘れさせる。
その笑みが、初めてボスに牙を剥かせた。
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