Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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1巻~Beginning of the unreal〜第1章 ようこそ現実へ

8話

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 中には魔法を扱っているシーンを撮った動画もある。東条は迷わず再生した。


 ――「……ははっ」

 彼は夢見心地だった。
 動画を見ているだけで、それだけで彼の心は満たされていった。
 派手ではない、まだまだ未熟。しかしその動画は、ファンタジーがこの世に生まれた証明に他ならなかった。

 ――誕生日の蝋燭程度の【火】、

 百均の【水】鉄砲、

 幼稚園児が作った泥団子の方がまだ殺傷力がありそうな【土】塊、

 美人がいたら絵になりそうなそよ【風】、

【光】量豆電球、

 ほぼ静【電気】――

 人類が焦がれに焦がれた空想の産物。

 多くの人が成長するにつれその気持ちに蓋をし、諦めきれぬ者でも、次元を一つ落とすことでしか可能にできなかった夢の塊。

 ファンタジーの権化が、この現代に降り立った。




 ――「ふぅ~……」

 未だ冷めやらぬ興奮に侵されながら、東条は身体の外に熱を逃がす。
 そんな彼の中で、一つの覚悟が決まった。


 オタク街道を現在爆進中の彼にとって、魔法という存在はとても大きかった。

 大きかったからこそ、逃げ道を塞ぐ言い訳に使うことができた。

 明確な殺意に追い回され、目と鼻の先で人を撲殺され、気付かないわけがない。

 このままずっと安全を取り閉じ籠り続ければ、自分の意思を見失い、外の恐怖に怯え、助けを待つだけの最悪の結果が待ち受けている。

 それだけは避けなければならない。

 停滞の、孤独と退屈と恐怖に勝るものはなく、無謀に思える行動こそが活路を見出す。

 彼はそれを重々分かっていた。

 勿論、恐怖も不安もある。

 しかし東条の中に、これからの道のりに興奮してやまない自分がいるのもまた事実だった。

 今まで、何度異世界に行けたらと考えてきたことか。

 人類を問答無用で襲ってくる都合のいい【モンスター】に、その都合の良さで成り立っている職業【冒険者】、そして非現実の代名詞【魔法】。

 こんな世界が、向こうに行かずともこちらにやってきてくれた。


 彼は隠れてからずっと覗いてきたネットの中を思い出す。

 あそこでは、現実で数えるのも嫌になるだろう数の人間が死んでいるのに、終始乱痴気騒ぎだった。

 世界なんてそんなものだ、自分のあずかり知らぬ場所で、赤の他人が死んでも、表面上悲しむだけで後は今日の夕食の方が大事になる。

 それが悪いことだとは全く思わない。むしろ普通だ。

 ただ、倫理上非難されても文句は言えない。

 彼等はその痛みを、恐怖を知らないのだから。

 ……そしてそこが、自分と彼等の違いだと理解していた。

 自分は今、傍から見て絶望のどん底にいる。

 モンスターに追われ、血の海を生で見て、トイレの物置でガタガタと震えていた哀れな弱者だ。

 ここまでの経験をしておきながら、楽しみが勝つような心臓マリモ人間だとしてもだ。

 そんな、恐怖を知り、痛みを知り、それら一切合切乗り越えられる人間、いや、オタクにとっては、今の状況は最高のシチュエーションになる。

 血みどろの世界を満喫している自分が世間に見つかった時は、帰り道を探してたとでも言っておけば称賛に加えお涙頂戴必至だ。

 どれだけ楽しんでも非難されることなどない。

 唯一の問題は、この場所が日本一危険な場所、だということ。しかしそれも、冒険が長引くとポジティブに受け取ることにした。

 そして、この空想実現の大前提にあるもの、


 死なないこと


 当然のことだ。

 なぜ寝ても覚めても別の世界のことを考えている東条が、必要なものをリュックに詰めて嬉々としてトラックに突っ込んでいかないのか。

 決まっている、悲しんでくれる友が、家族がいると分かっているからだ。

 自惚れではない、理解だ。

 死ぬことなどはなから許されていない。

 なれば、前提の上に立つ空想など、現実であること以外の何物でもない。


 行動に移す理由付けはこれくらいで十分だ。生き延びる覚悟と未知への好奇心に、幾分か心も軽くなった。

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