少年と少女の狭間

露月ノボル

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後編

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遠く爆発音があちこちで聞こえる。多分政府軍の攻撃ヘリだ。「我が国に不当に介入するロシアの、エルメニア人民を虐殺する悪魔兵器」とか言ってたけど、ロシア語使っててUSA製の兵器使ってる僕らが言う事じゃないと思う。まあ、それはいいさ。問題は今、人がツイッターを車載バッテリを変換したコンセントから充電しながらやってる時だからだ。やり方は車両整備員のホッシュにコーク0.1gで教えてもらった。

ExFox、僕もお気に入りでカセットテープに入ってる!何だか嬉しくなる。でも、まさかニッポンでも内戦が起きてるとは思わなかった。TACkyは狙撃兵らしい。なんとなく、親近感が湧いた。「射撃なら僕も得意です。敵の狙撃には気をつけて、無事でいて下さい」と返信した。いつか平和になったら会ってみたい。

「おい!隊長が呼んでるぞ!早く来いよ!」と衛生兵のロマートが、隣のテントをテント越しに叫んできた。うるさい、お前だってさっきまで襲った村から攫ってきた女と隣でうるさくしてただろ。ふと斜め向かいの寝台を見ると、頭を抱えて震えてイェルシャが涙顔でイヤイヤしている。仕方ないからツイッターを止めてバッテリと共にバッグに隠し、テントから顔を出して、「隊長、またイェルシャの奴が。お願いします」と叫ぶ。

 隊長はテントに入り、またか、と吐き捨てた後、腕を出せとイェルシャに命じる。おずおずと腕を差し出すイェルシャにクリスタルメスを注射器で一発ぶち込む。途端にイェルシャは泣き顔もどこへやら、「ウオオオ!!やってやる!敵なんか殺してやる殺してやる!!」と繰り返し興奮し始め、隊長にビンタをされて正気を取り戻した。間の抜けた顔のイェルシャと僕に「隊列に並べ」と言いテントから出ていく隊長の後を慌てて追ってイェルシャが出てくので仕方なく僕も隊列に加わる。

テントを出て隊列に並ぶと、隊長が「敵の攻撃ヘリと歩兵が我が軍の石油採掘所を攻撃している。そうだな…イェルシャ!あと、エコンダ!お前らにレッドアイを渡してやるからロシア製のハエを撃ち落とせ!他の奴は援護してやれ。ヘリを落としたら、全員に良いモノをくれてやる。上質のだぞ」となかなかイカス事を言う。
 
「運転はミルシエだ。トラックに乗れ!」と怒鳴ると隊長は指揮車に乗り込む。僕達は急いで「TOVOTA」と書かれたニッポン製のトラックに、【(有)中原工務店 】と知らない文字で書かれた車体に飛び乗って、今日の狩場に向かった。
 
 狩場はあちこちに友軍、敵軍の死体と、爆発したクレーター、歩兵同士の銃撃戦音、そしてヘリのヒュンヒュンという音で満ちていた。あのハエめ。レッドアイで僕がカッコ良く撃ち落として、上物のコークを頂きだ。皆林の中に止まったトラックからバラバラと降り、すぐに散開して僕とイェルシャを中心に地に伏せ匍匐前進していく。
 
 僕は林の木の影からイェルシャと共に重いレッドアイを構え、先手必勝、照準を旋回していたヘリに合わせ、発射する。撃ったミサイルが、ヘリに当たる…所だったのに、うまく回避しやがった!旋回するヘリに、僕達は焦ってAK47を構え、向かってくるヘリに乱射した。

だが敵のチェーンガンがドドドドド!とすごい音を立てて僕達を援護してたオビエト達が居る方向に走り、僕達はレッドアイを捨てて、ヤバイ!ヤバイ!逃げないと、上を旋回して戻ろうとするヘリを横目に林の奥へ駆け出し…ぐわっ?!こっちにミサイルがっ!?
 
ううぅ…吹き飛ばされた僕は激痛を全身に感じる。立とうと思うが激痛とヘンな感じ…そう、右足の付け根が焼けるような激痛が走る。顔を向けると右足が太ももの途中から無かった。隣を見ると、脳みそをぶちまけたイェルシャらしき身体が転がってた。
 
 僕は悲鳴を上げ、「足が足が足が!隊長!衛生兵!ロマート!痛いよ、誰か助けてよう!」と涙が出てきて、止まらなくなってきた。燃えた林の中に足音が聞こえる。泣きながら「誰か!誰か助けて!僕、痛い!足が!痛いよう!助けてよう!」煙の中から現れたのは…僕より年下らしき少年。星マークのベレー帽。政府軍だ!

「あ、あ、た、助けて、お願い、降伏するよ、僕、まだ14歳だよ、お願いだよう、足が痛いんだ、助けて、そ、そうだ!君にとっておきのゴ、コーク、上げるから…!」

 足が痛い…僕が死ぬ?そんなバカな…ウソだ!死ぬなんてそんなの嫌だ!あんな無様に転がる肉塊になりたくない!なっていい訳がない!近づいて見えたのは煙に頬が黒くそまった、氷のような目の少年。それが急激に歓喜の目に見開き、口を吊り上げて…。



「死ね」

 パンと乾いた音が響き渡る。ぐぉ…い、ぼく…死…!?

「さて、耳切り取って、それと『コレ』の持ってるコークをゲット!」

 エコンダの胸を撃ちぬいた少年は、上機嫌にナイフを取り出そうとし…思い出したように、銃を再び構え、エコンダの頭を面倒臭そうに撃ちぬいた。
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 畜生!これじゃ損が膨らむぞ…!困る、俺も主任になったばかりなんだ。ヘッジはかけているが、だからと言って…!冷房がキンキンに効く東京工業品取引所のトレーディングルームで、木村浩介は冷や汗をかいていた

 天然資源の宝庫である、中央アジアでの内戦へ、アメリカの援助が確認されたとロシアが反発、欧州へのパイプラインでの供給の停止を匂わせ、第二の冷戦だとアメリカを激しく非難。ベネズエラがOPECから追放された事もあって、原油、LPGの先物相場は上昇グラフへと転じ、乱高下しながら上がり具合は着実に角度をあげていた。商社マンやブ
ローカーがせわしなくSの注文や「Lだ!」と携帯に向かい叫び慌ただしい。俺も反射的に本社に電話を入れ、LCの報告をし、今日も残業かと妻にメールを入れた。

 木村家のリビングにちゃらりーんちゃららららんらん♪と着信音が鳴る。この音は夫からのメールだ。「あら、あの人、また残業なの?」と、ソファーに横になりながらメールを見ていると、玄関がガチャリと鳴る音がし、「ただいまー、今帰ったー!」と娘の貴子の声が聞こえた。

木村佳子は身体を起こし、「貴子ー!夕ご飯温めるだけだから、宿題しなさいよ?」と叫ぶと、「わかったよ!まったく、人がワンダーウェイと渋谷で遊んでゴキゲンなとこなのに…」と不満を漏らす声と階段を上がる音がした。

貴子はまだワンダーウェイのガンシューティングで敵のゾンビをトモと一緒に撃ち殺して、ワンコインとは行かず5回コンティニューしたけど全クリできた余韻と、渋谷で遊んだ男の子達の中の、レイジという、なかなかカッコいい少年の顔を思い浮かべて、ベッドの上でくまのぬいぐるみを抱きながら、メアドとツイッターのID交換もしたし、脈あり?ときゃーきゃー言いながら、はしゃいでいた。
 
 ID…ツイッター、そういえば最近、Echoからのリプがない。最後のリプは「僕もシューティングを得意とします。敵の狙撃を気をつけて、安全にしてください」だった。警備員の仕事が忙しいのかな?だいぶ治安の悪いとこらしいから心配だ。急にさっきの受かれた気分から一転し、寂しくなった。

上の貴子に「うるさいわよ!」と怒鳴ろうとしたが、急に静かになった。佳子はかりん糖をかじりながら、テレビを見ていると、「緊急速報:ベネズエラ派兵の日本陸軍の第五普通科歩兵連隊がベネズエラ軍と交戦、300名死傷以上か」と流れた。「へえ、大変ねえ」と言うと、佳子が夕食のカレーを温めるために台所のIHクッキングヒーターを着け居間に戻ると「お母さん、ご飯ある?」と貴子がようやく降りてきた。「今温めてるとこだから」と佳子は答え、貴子はつまらなそうに、ちょど始まったNMM7時のニュースの方を見た。
 
 カレーが暖まるまでニュース一覧を表示し次々と流れるテレビを見ながら、2人でかりん糖をかじり、何気なく番組を見ながら何気なく会話を交わした。

「あら、ガソリン値上がりしてるの?ほんと、家計は厳しいし…ガス代電気代の値上げに、パパのガソリン代、貴子の塾や学校の学費に、お小遣い、とキリがなく上がるわね」

「アタシのはそれと関係ないよ!アタシが良い高校大学行けなかったらお父さんお母さん困るでしょ?って、あ、あの女優と芸人、前から熱愛だったってネットじゃ普通に言われてたよ」

「ふーん、そうなの。あらやだ、また中学生が、集団リンチで同級生殺しちゃったのね。殺意がなかったって、鉄パイプで頭を殴れば死ぬのくらい分かるでしょうに」

「少年犯罪かあ…人の痛みを分からない子供を大人が作るから、いじめとか殺人が起きるんだよ。えへへ、私の社会派っぽい?」

「はいはい、貴子も気をつけなさいよ。冷戦って…嫌ね、昔じゃあるまいし。さっきも陸軍の軍人さんがベネズエラだかどこだかで死んだって言うし…」

「へえ、ベネズエラってどこの国だっけ、物騒な話だね。でも…Echoが自警団の仕事、怪我したら嫌だし、早く世界が平和になりますように…」

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