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最愛の夫だった義理の兄に再び溺愛される 12

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羅漢は電話の通り仕事終わりにすぐに来てくれた。オレを1人にするのは危ないからって先輩やみんなもいてくれた。
「アイン!」
「羅漢……。ゴメン。オレ……。」
オレは羅漢を見るなり、謝った。こんな事に巻き込んでしまったから。
「なんでアインが謝るんだ。悪いのはあいつだろ。アインを睨んでると教えたのは?」
「わ、私です。あの、今日たまたま見かけて写真撮ったんですよ。この人で間違いないんですか?」
そう言って画像を見た羅漢は。目を見開いて。
「ウソ、だろ。なんであいつ。今になって。ごめん、アイン。オレがあいつと関わらなかったら。アインにまで狙ってるって事は。まだオレを婚約者とでも思ってるんだろな。」
「え、婚約者って。どういう事?」
「誓って言うが、オレはこいつに告白もしてないし結婚してくれとも言ってない。」
羅漢がこれほど関わった事を後悔してるくらいだからアインは
「もちろん信じてるよ。羅漢を疑ってなんかいないよ。」
「……。ありがと。あいつは。」
羅漢が話すには何でも高校を卒業して社会人1年目の5月に出会ったらしかった。その時羅漢は五月病になってしまい、それほど深刻では無かったが女遊びしてストレス解消したいと思ってた時に出会ったのが仁奈らしい。
「旧家の娘って言われて。そんなのウソだろって思ったんだ。そんな旧家の娘が男遊びが派手なんてあの頃は思わなかったしな。それにあいつは何を思ったのか。オレに一目惚れしたらしくて。それで一方的に告白して断ったらオレに付きまとうようになったんだ。会社に駅にとな。挙げ句のはてまでには家にまで来るようになって。毎日毎日結婚してって言われてウンザリしてたから。これ以上付きまとうなら通報するって怒鳴ったら。オレだけでなく母さんにまで。付きまとうようになったんだ。」
「え、そんな母さんが……?」
「そんな……。」
愛桜先輩はこの事を知らなかったみたいだ。泣きながら羅漢に
「本当にごめんなさい!私の妹がなんてこと!」
「アイン、この人は。」
「怒らないであげて。仁奈さんの双子のお姉さんなんだ。先輩もあの人に、あの家に嫌気が差してたんだ。」
「そう、だったのか。お姉さん、この事になったのは全て関わりを持ったオレの責任です。お姉さんは悪くありません。話を戻すと。オレが今のアパートに暮らした切欠はあいつなんだ。オレが出ていけば母さんの負担が軽くなると思ったから。それで引っ越して今の会社に異動させてもらってから何の被害も無くなったんだ。母さんも付きまとわれる事が無くなったと聞いて安心して。なのに今度は。なんで今になってアインを。」
その話を聞いて、羅漢が仁奈さんからストーカーされたのは約5年前になると思ったオレは先輩に聞いてみた。
「先輩、5年前に妹さんに何か無かったですか?」
「5年前。そうだった。丁度あの頃、あの子にたくさん見合いの話が出てたの。顔と表面だけは良かったし、あの子の好きなイケメンばかりだったからお見合い相手に夢中だったの。それで、仁奈は確かその間だけ男遊びを止めたんだったわ。けど確か。2年前私が家を出る頃になっても全くお見合いが上手くいかなくて。あの性格だからお見合いしたって上手くいくわけないから当たり前だと思ったの。お父さんとお母さんはなんで仁奈をもらってくれないのって言ってたけど。この学校の受験も控えてたし、合格してこの学校に入学してからは家族のことは全く分からないの。多分お見合いが何回やっても上手くいかなくなってあなたを探してたと思うんです。じゃなきゃ探偵なんて雇わないもの。あの子ブランドとか高級品好きなのに。」
そんな金あるなら自分磨きに使えよと思ったが。そう思わないのが仁奈なのだろう。
「………………。」
「羅漢!まだオレが悪いとかバカな事考えてるの?言ったじゃない!羅漢は何も悪くないって。一緒に解決していこうよ。」
「アイン……。ああ。」
バカな事考えて悪かったって謝った。そして
「もしまたあいつを見かけたらすぐメールでも電話でもしてくれ。オレが言うのもなんだが、あいつの執着心は相当だ。アインを睨んだ顔してたあいつの画像見てまだオレに執着してると思ったからな。」
「そうね。あたしもそう思うわ。あの子は昔から欲しい物を手に入れるなら何でもしたわ。それこそ欲しいと思ったのが誰かの彼氏なら付き合ってる子を不登校にもしたり退学にさせたりもしたの。私も何回も止めるように言ったし、お父さんたちにも言ったけど聞かなかったわ。私もあの子を見かけたらすぐ教えるわ。」
「そう、だね。彼氏さん。連絡先教えてくれないですか?」
「俺も!アインのピンチなんだから助けますよ!」
黙って聞いてたみんなは協力してくれると約束してくれて。連絡先を聞いてきた。
「ありがとみんな。……。あれ?」
「アイン?どしたの?」
「誰かいたの?」
「今、あそこに。誰かいたような。」
なんか、イヤな感じがしたけど。それにあの感じ、どっかで感じたような。
羅漢はどうだろうと思ってチラリと見たら
「……………………。まさか……。」
「あのさ、みんな。先輩。ちょっと羅漢と話したい事あるから戻っててくれないかな。」
「え、うん。」
「良いけど、二人だけでアインたちは大丈夫なの?」
「すぐ戻るから。ね。」
何かあると思ったみんなはこれ以上は言わないで寮に戻っていった。みなが見えなくなると。
「ねえ、羅漢。羅漢は感じた?」
「ああ。あの頃は間違いなく感じてはいなかったが酷くなっている。」
「そう、なんだ。だけど、そもそも《アイツ》が地球にいるのかな?それに、もう。オレたちがあの時に間違いなく倒した筈だよね?」
「…………。分からない。」
もしもアイツだったら、どうすればいい。そもそも。本当にアイツなのかと思っている羅漢。その頃アインの友達たちも。
「ねえ。アインが誰かいたような。って言ってた先にさ、なんか気味悪いの感じなかった?」
「あ、思った。」
「なんていうか、人の気配じゃなかったよね?」
「だけどさ、幽霊みたいに死んでるって感じでも無かったよな?」
「そう、ね。私も家を出る前から仁奈から不気味な何かを感じてはいたけれど、あんな酷くなかったわ。」
何なのかしら。あの気配。そう思った愛桜とアインの友達は言い知れぬ不安を覚えた。
「…………。何なのよ。アイツ。」
仁奈の方が可愛いし、羅漢のお嫁さんに相応しいのに。
「どうしてやろうかしら。あの人吉アインって奴。そ、れ、に。やっと見つけたわよ、羅漢。あたしと一緒になってって言ったのに都内に行くなんて酷いじゃない。今はあの人吉アインって奴の義理のお兄ちゃんなんだぁ。良いこと知っちゃった♪」
坏麻仁奈。彼女さえ気付いていなかったが。彼女はかつて前世のアインたちが倒した魔物の王である魔王だった。いや、魔王は倒されたが魔王そのものもアインたち同様で転生してしまったのだ。
「羅漢、ねえ。羅漢。あたしを愛してよ。アイツみたいに愛してるって言ってよ。羅漢が仁奈を愛してくれないなら。」
こんな退屈な世界いらない。

この事件がきっかけでオレは学校の行きと帰りは羅漢が迎えに行くことになった。父さんと母さんに仁奈の画像を見せて見かけたのか聞いたら
「いや、まだ見かけてはいない。」
「ま、またあの子……。」
今度はアイン君まで。と困惑してた母さん。オレたちは
「父さん、母さん。コイツの狙いがオレならオレは解決するか警察が動くまで帰らないから。」
「まだ被害はアインはただ睨まれてるだけなんで他の被害とか無いんだ。これだと警察も動かないと思う。」
「確かに……。」
「睨まれてるだけだと警察も動かないわよね。分かったわ、羅漢。だけど約束して。もし何かされたらすぐ電話でも何でも良いから連絡しなさい。」
「アインもだ。いいな。」
そしてオレはこの騒動が落ち着くまで学校が休みの日は羅漢の部屋で暮らすことになった。
本当は。こんな形で一緒に暮らしたくはなかった。
「…………ふぅ。」
「アイン。」
「あ、ゴメンゴメン!ちょっと荷物運ぶのに疲れてて。」
「…………。ああ。」
食事の支度が終わるまでゆっくりしてもらう。アインにはああ言ったが。オレが仁奈に、アイツなんかに関わらなかったら。アインにまで被害が出るわけ無かった。
オレが羅漢として転生してアインと再会した時。オレは今度こそ、アインと幸せになる。幸せにすると決意した。なのに。オレはアインを苦しませている。これまでのツケが今やってきた。
昔から女に困らなかった。アインに会いたい思いばかりが募って、アインの代わりを女で処理してた。身体の関係があれば付き合えると勘違いした女しかいなくて。付き合った女はいなかった。所謂セフレ、身体だけの関係を繰り返した。ほとんどは最低と罵って別れた。だが
アイツだけは坏麻仁奈だけはストーカーかとばかりにオレにも、そして母さんにまで付きまとった。そして今度は今になってアインにまで付きまとうようになった。アイツなんかと関係を持って後悔したが遅すぎる。警察に通報したら最悪出てきたらアインは狙われる。最悪、オレの家族全員も。
単なる社会人のオレに、何が出来るんだろな。
「………。ふぅ。アイン、できたぞ。」
「うん。ねえ、羅漢。」
抱き締めて。少し不安げな瞳でそう言ってきたアインを抱き締めて頭を撫でる。
「ああ。大丈夫、大丈夫だ。何があってもオレがいるから。」
「うん……。」
そうだ、何があったとしてもオレがアインの側にいよう。アインと再会した時オレは。何があったとしてもアインを守っていこうって、側にいようって決めたじゃないか。
「羅漢……。」
「うん。」
「不安なの全部忘れさせて……。」
綺麗な瑠璃色の瞳を涙で濡らしたアインは忘れさせてと頼んで。
「忘れさせるな。」
アインの抱える不安なんか全部無くなれば良いのにと願いながらキスした。

それからアインは不安になる度に、オレの部屋に来る度にセックスするようになった。加えてコンドームを着けてするのも嫌がった。
「…………。すぅすぅ……。」
「おやすみ。…………。」
眠るアインの頭を撫でて1人物思いに耽る。今のところまだ仁奈はオレたちに接触してはいない。
「…………。まさか、な。」
そう《まだ》接触してないんだ。アインを睨む事も無くなった。それが妙に可笑しい。自己中なあいつがそんな事するのか?もしかしたら仁奈の目的は
そうやってアインの不安を煽る作戦なのでは。そして何時部屋に来るのかという不安を掻き立てるつもりでもあるのだとしたら。
「……………………。」
間違いなくあいつは魔王として転生している。オレたちが倒した魔王もまたそうだった。力だけでなく、知識に策略に戦術にも長けた奴だった。
オレと知り合った頃のあいつは少なくともそんな奴では無かった。……。
「まて……。」
何故今まで気付かなかった。前世でオレたちが倒した魔王の名前は
「ニルヴァーナじゃないか。」
魔王ニルヴァーナもまた自己中心的な性格と野望を持っていた。人を魔物へと変貌させて魔物だけの星にする事が目的だった。魔物になれない人間は殺した。人間は魔物以外の生物だから生きる価値も無いからだ。
人を魔物にしてきた黒幕である魔王を倒し、平和になってからアインと一緒に暮らしてきた。オレが言うのもなんだが、戦いが終わってから平和で平穏な生活に慣れすぎてしまってた。
「……………………。」
羅漢として転生しても。戦争も戦いも無い毎日を過ごしてきて平和に慣れすぎてた。だとしても
魔王ニルヴァーナが転生したとしてもオレはアインを守るだけだ。仲間がいないなら。アリカたちがいないならオレとアインだけでどうにかしないと。考え事してたら突然
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!とドアを叩く音とインターホンの鳴る音が響いた。ついに来たみたいだな。予想は当たって
「羅漢!開けて!あたしよ!」
「…………。たく……。…………。」
スマホを懐のポケットに入れる。その前にカメラを起動させている。もうこの行動は録音されている。
仁奈の家が大企業を経営してる、しかも名家ならSNSに拡散されたら炎上は免れない。
最悪あいつのせいで会社は潰れる。社員は生活出来なくなるが。アインを守るためならオレは何を犠牲にしても構わない。
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