雪も積もれば冬となる～悪役公爵家に愛されちゃった！？～

学園編

98.オーガスト視点

　グリフが石像のように凍った。そう喜ぶ暇も無く、雪が降る。
　体温も声もその雪に奪われる。ガチガチと歯がなって、身体が細かく震える。こんな寒いのは初めてだった。

　原因となったメルの付き人は、ゆらゆらと幽鬼のように揺れている。
　グリフの反対側からメルが優雅に歩いてきた。

　メルと付き人は何か話しているようだったが、全然聞こえなかった。それから彼女は付き人を抱えて、こちらに向かう。

「炎の守護を"フレイガード"」

　そう言って私達に守護の魔法をかけると、寒さが和らいだ。

「オーガスト様、ご無事そうで何よりです」

　メルの呑気な言葉に腹が立つ。

「これが無事だと？これが！？そもそもお前ならもっと早く助けに来れなかったのか？」

　どれだけリラが怖かったかと思っている。

「それは申し訳ありませんでした。私が呼ばれなかったので必要ないと思いましたので。それに側近は何をしていたのですか？この程度で狼狽えるなぞ修練不足では？」

　ギリッと歯を噛みしめる。許せない。自分が遅くなったことに対して言い訳するし、更にはエリルを貶すなんて！

「メル様」

　名前を呼ばれ、すまし顔が一転目尻を下げた顔になった。

「ウェイン、帰りましょうね」

　だらしがない顔に、嫌悪感を覚える。少しくらいは俺達にも愛想良くしてもらいたいものだ。
　私はリラに寄り添う。

「大丈夫かい？」
「はい、大丈夫です。オーガスト様」

　リラは健気に答えながらも、身体を震わせた。

「寒い？」
「少しだけ。でも、メル様の魔法のおかげでさっきより随分暖かくなりました」
「それしか取り柄のない女だからな」

　メルは私の婚約者だというのに、愛想が無ければこういう時にしか役に立たない。本当につまらない女だ。
　そもそも私は、暑いのが苦手なのだ。あんな女、公爵家で無ければ切り捨てたというのに。

「そんな言葉言わないで下さい」
「あぁ、ごめんよ」

　リラは優しいからメルの事を庇う。きっとこれからメルと関わりが多くなるだろうから、どれだけ意地の悪い人間なのか分かるはずだ。

「それにしても、ウェイン君。凄かったですね。雪玉でグリフを凍らせちゃうなんて」
「そんなのディゾル家の一族なのだから、出来て当たり前なんだよ」

　最初に聞いた時、雪玉とは何のことかと思いきや、グリフを倒してみせてやはりディゾル家の一族だったかと納得した。
　常識外れの邪神の一族から来たものが負けるはずがない。あぁ、そうだ。私はメルの付き人なんて心配するんじゃなかった。