雪も積もれば冬となる～悪役公爵家に愛されちゃった！？～

学園編

87.”大人のデート”

　連れて行ってもらったレストランは、弦楽器の音色が響く夜景が綺麗な場所だった。
　壁はガラス、天井もガラスで出来ていて、周りの風景がよく見える場所だった。床は流石にガラス張りでは無かった。もしそうだったら、怖くて、ルダン様から離れられない状態になってたかも。
　どうやっているのか分からないけど、暖炉の火意外の光は無いのに部屋全体が明るい。でも、その明かりが、星空や夜景を邪魔することは無かった。

　その真ん中にテーブルが１つ、椅子が２席あった。
　ウェイターに案内されて、席に座る。少し高めの椅子だったので、ルダン様の手を借りて座る。

「今日は楽しめたか？」
「ハイ」

　トポトポとグラスに飲み物が注がれていく。ルダン様のものには、多分ワインが、俺のものにはオレンジ色のジュースが注がれていく。
　ルダン様が、グラスを掲げたので俺もグラスを持った。すると、ルダン様のグラスが近づいて、グラス同士を軽くぶつけ、軽い音が鳴った。

　内心、俺が大人のデート！とパニックになりながら、飲み物をイッキ飲みした。

「あっ！美味しい！」

　スッキリと爽やかで、甘さが控えめの柚子のような柑橘類のジュースだった。

「フッそれは良かった」

　俺の子供じみたような行動をルダン様に笑われて身体を縮こませた。
　子どものような俺とは反対にルダン様は、大人っぽかった。グラスを回して、香りを嗅いで一口含む。たったこれだけなのに、まるで何処かの俳優さんのようにカッコよくて色っぽい。それに、屋敷にいる時とまた別の雰囲気のルダン様だった。

　この夜景にも負けないような美しい人。自分とルダン様は、まるで月とスッポンだ。
　食事だって、俺の料理は食べやすいように最初から切ってもらって一口サイズになっているけど、ルダン様はちゃんとナイフとフォークを使って食べている。
　それに一つ一つの所作だって上品で非の打ち所が無い。

　本当に俺は、ルダン様の隣にいて良いのかと不安がよぎってしまうが、そんなネガティブを顔を振って、吹き飛ばす。
　頭の中で、ルダン様が言ってくれた言葉を反芻しながら、大丈夫、大丈夫と落ち着かせる。

「どうした？」

　ルダン様は、いつだって俺の異変に気づく。その事に嬉しさで胸を締めつられながら、決意をする。

「頑張って、ルダン様に似合うような人にナリマス！」

　キョトンとした顔になってからルダン様は、それからフハッと吹き出して肩で笑う。

「それなら、私ももっと努力しなければならないな」
「えっ！？」

　思わぬ言葉に仰天してしまう。

「私はウェインに頼られるのが、存外好きなのようだ。だから、沢山頼りにされるように努力しなければならない」
「そ、そんな！じゃあ、俺は一生、ルダン様に追いつけないデス！」
「その時は、私が連れて行ってやろう。ウェインも抱き上げられるのは好きだろう？」

　質問されて、俺はつっかえながらも答える。

「す、好きです」
「フッ私もウェインを抱きしめるのは好きだ」

　好きなんて真正面から言われると、照れてしまう。
　って、あれ？何の話してたんだっけ？

　俺とルダン様は顔を見合わせて笑いあった。それから俺が不安に思うこと無く、食事が終わり、屋敷に帰った。