雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

69.俺の全て

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 話し始めるのが、1番の難関だった。
 覚悟を決めてもおいそれて話せるものじゃない。唇を噛んで、身体が震え、両手を握りしめて力を込めた。話そうと思っても言葉が喉をつっかえて、「グッ」という音しか出ない。

 それを見かねた、ルダン様が俺の顎を掬い上げ、唇を重ねた。
 噛んで血が出始めてきた唇をなめ取り、舌でノックして開けさせ、俺の舌と絡める。力の入りすぎた両手を開かせて、手を繋ぐ。
 ルダン様は俺の心を宥め、身体の強張りをとる。

『君の全てを知りたい。教えてくれ』

 俺の母国の言葉でそう言われて、俺は勇気を振り絞って本当の事を話した。
 俺が転生者だということ。前世での俺のこと。本当のウェインじゃないこと。
 この世界を題材にしたゲームが前世であったこと。そのゲームではウェインが魔王となって、世界を滅ぼそうとすること。俺を倒す主人公達がいること。
 そして、メル様が悪役令嬢として、断罪されて処刑されてしまうこと。それを黙っていたこと。

 全部、全部。俺が覚えていること、全部。
 ルダン様は俺の話が終わるまで静かに聞いてくれていた。

『私はその程度で、君の傍を離れるとでも思っていたのか』

 俺の身体を向かい合うように座らせ、ギロリと睨む。
 その程度と言われてしまったが、俺にとっては大事なことだった。ぷくぅと頬を膨らまして、ルダン様に怒ってますという意思表示をする。

「君が世界を滅ぼしたいというのなら、私が先に魔王と言うものになろう。そうすれば、君は誰にも倒されない。逆に君がゲームのシナリオに背きたいといのなら、全力で手を貸そう」

 ギラギラとした瞳に反して声は落ちつていた。

「君が心配すべきなのは、私のいや、私達の愛を受け止めきれるかどうかだけで良い。私達の愛は、重いぞ」

 ギュゥウと隙間なく抱き寄せられて、俺はルダン様の言葉を頭の中で反芻する。

「……そもそもメルが処刑されるのは、あの子が認めたのだろう。そんなに気に病むことではない」
「えっ?」

 優しいルダン様が、そんな事言うなんて思いもよらなかった。聞き間違いかと思って聞き直そうとするが、先にルダン様が口を開いてしまい、逃してしまった。

「それよりも君のことだ。君の名前は、何と言う?」
「ウェ、ウェイン・バディッドです」
「言い方が悪かったな。前世での名だ。教えてくれ」

 質問の意図が分からず、俺は首を傾げた。

「……み、御宿、雪信です」
「ミヤド、ユキノブ。ミヤドが名前か?」
「いえ、雪信の方が名前です」
「では、ウェインとユキノブ。君はどちらを呼んだほうが嬉しいんだ?」

 そこで、ようやくルダン様の意図が分かった。俺が、俺の存在が偽物だと言ったから、ルダン様は前世の俺ごと認めようとしてくれているのか。思わず、涙が溢れた。

「ウェインが、良いです」

 そう答えたのは、ようやく俺という存在が誰かに認められて、受け入れることが出来たからだ。
 御宿雪信は前世の俺で、もう既に死んだ人間だ。だからこそ、雪信に戻ることも出来ず、ウェインにもなれない偽物で、本当はこの温もりを受け取る資格なんて無いんだと思っていた。
 ふと、ルダン様の昨日の言葉を思い出した。そうだ、ルダン様は言っていたじゃないか。「君が良いんだ」と。
 ゲームの中のウェインじゃなく、俺を選んでくれた。それだけで天にも昇る心地だった。
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