雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

62.アビゲイル視点

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 ポーションを複数の試験管に入れて、調べていく。
 錬金術の道具も無く作られたというポーションは、そう思えないほど、精巧で他の回復ポーションよりも段違いに効果があった。
 そして何より、あり得ないほどの魔力が込められていた。
 アビゲイルは、ジッとウェイン作のポーションを見つめていた。もしこれが。

 ドアが叩く音でアビゲイルは我に返る。

「失礼しまぁす」

 軽い声で部屋に入ってきた男を見て、変事が起こったと悟った。

「今日は代替わりしたので、そのお知らせに来たッス。元頭首はグレイの名のままでウェイン様の護衛になるッスよ。頭首は、先輩になるッス」

 男は軽い口調でアビゲイルの反応を待たずに話し続ける。

「何で、先輩なんスかねぇ?やっぱり、とう、じゃなかった元頭首の息子だからッスかねぇ?血なんか繋がって無いのに。そもそも2人共、先輩に甘いんッスよ」

 ブツブツと文句が言う男に、アビゲイルはそっと試験管を渡した。

「なんスか、これ?」
「飲んでみて」
「また実験台ッスか?熱心ッスねぇ?」

 元々アビゲイルは、騎士団に寄付する用のポーションを作成していた為、男は一切の迷いなく、グイッと試験管の中身を飲み干した。
 間もなくその中身の真価を発揮することになる。

「おぉ、凄いッスねぇ!何の痛みも無くなったッス!」

 男の体には清涼感のある魔力が巡り、任務で傷ついた体が癒えていく。古傷から生まれる痛みでさえも無くしてしまった。

「でも、味は要改良ッス。俺だったら飲めたけど、他の人は無理じゃないッスかね?」

 男の表情は平然としていたが、内心吐き出してしまいたいくらいのえぐ味と苦味、舌を針でチクチクと突かれているような冷えた辛味があとを引く。もし、彼が平然を装える訓練をしていなかったら、顔をしかめ地面に両手を付いていただろう。
 男はアビゲイルに醜態を晒さずに済んで、初めてあの訓練に感謝した。

「そう」

 アビゲイルは男の意見を書き留め、もう用済みとばかりに部屋を追い出した。
 誰もいなくなった部屋で彼女は「良かった」と呟いた。
 彼のいる部隊は、諜報活動だけでなく、暗殺や様々な工作活動までも請け負っている。そんな中でこれ以上、傷つくような立場になって欲しく無かった。だから、アビゲイルは今日の話を聞いて安堵したのだ。
 安心して流れた一粒の涙は、机に落ちる前に蒸発して消えた。

 一方、部屋の外に出た男は扉にもたれてギュッと拳を握っていた。彼はディゾル家を愛し、個人としてアビゲイルを愛していたが、自分は外から来た存在だからと、自らを卑下していた。それ故に地位を手に入れ、周囲に認められてから、アビゲイルに交際を申し込もうと思っていたが、今回の事でその望みは遠のいた。その時の男の激情はディゾル家の血が流れていたら、火が漏れていたはずだ。
 しかし、男はまだ諦めていない。今の頭首の寝首を掻いてみせると、闘志を燃やすのだった。
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