雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

文字の大きさ
上 下
45 / 114
公爵家編

42.ルダン様の涙

しおりを挟む
「お父様!正気に戻ってください!」
「退け!」

 殺気立つ2人に俺は震える。
 メル様の燃やす炎は強くなり、痛みによって息が荒れる。グレイさんも息が苦しそうに膝をついた。
 戦いを止めて欲しくて、でも、俺にはそんな力は無くて。雪の魔力はあるのにどうしてこんな時に使えないんだろう。

「お父様!」
「邪魔をするな!」

 2人の叫びに、俺はグレイさんを突き飛ばして立ち上がる。グレイさんは突き飛ばされた衝撃で倒れ、動けないらしい。

「ウェイン様!」

 支えがないままの状態だと、骨が無いみたいにフラフラしている。
 一歩一歩が辛い。でも、進まなくちゃ。

「ウェイン、近寄らないで!ダメよ!」

 メル様が叫ぶ。多分、止めてくれているんだろう。
 メル様の心配してくれている心を踏みにじって、俺はルダン様に近づいた。

「ルダンサマ」

 いつも彼が抱きしめてくれるから、暖かった。だから、その心を返したかった。

「ルダン様」

 ルダン様の身体は大きいから、抱きしめられず縋り付くしかない。
 いつもよりずっとルダン様の身体は熱かった。
 俺に気づいた彼は、剣から手を離した。

「ウェイン……」

 振り絞った力が抜けて、ズルズルと身体が下に落ちるのに合わせて、ルダン様も地面に座り込む。俺の身体をいつもより力を込めて、抱きしめる。

「すまない。ウェイン、すまなかった。もっと早く、早くに見つけられたなら、出会えていたならば、長い間、独りにさせることは無かったのに。すまない、すまない。誰も頼れないのは、辛かったよな」

 そっとルダン様の顔に手を当てて、俺の方へ向かせる。
 ルダン様の瞳から、涙が零れていた。泣いているなんて思わなかった。

「私は、ずっと君を待っていた。しかし、待つだけではいけなかった。もっと早くに君を知っていたら、独りなんかさせなかった。すまない、すまなかった」

 どうやら、ルダン様に悲しいことがあったらしい。零れる涙は止まらない。

『大丈夫ですよ。大丈夫』

 何があったのか分からないけど、俺はそう言って、頭を撫でて慰めるしか出来ない。

「すまなかった」
『大丈夫ですよ』

 ルダン様の心が癒やされますように、そう願いを込めて、彼の真似をした。ルダン様の目尻の涙をチュッと吸う。
 ルダン様は目を見開いた後、ギュッと抱きしめられ、俺もルダン様の背中に手を回して、ポンポンと背中を叩いた。
 落ち着いてきたのか、屋敷の炎はゆっくりと消えていく。ふと、上を見上げると、空が見えた。焼けて屋根が無くなったようだ。

『ルダン様、今日は良い天気ですよ』
『……あぁ、ほんとうだ』

 俺に釣られるように、ルダン様も空を見た。
 空は青く、白い雲が流れている。彼の顔にはうっすらと笑顔が浮かんでいた。

 あぁ、良かった。ルダン様の涙を止められた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...