雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

30.アビゲイル視点

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 私はウェイン様の診察を終えて、自室に戻った。椅子に座り、これまでの診察結果を見直す。

 最初にお会いした時、ウェイン様は生きているのも不思議なくらいボロボロだった。
 呪いと毒に塗れ、全身には古傷だらけ。メル様よりも小さい身体は、栄養不足によるもの。
 グレイさんから貰った報告書には、年齢は18と記載されもう成人であるはずの身体は、年相応に成長出来ていない。救いなのは、成長期はまだあるということだけだ。

 呪いは心臓に食い込み、どんな呪いなのかも判別出来ず、他者であれば死んでいてもおかしくない。この呪いはそれほどまで強力であった。

 毒は基本的に植物から来ているものだった。足があまり動かせないのは、毒の蓄積からくるものだ。ただ摂取さえしなければ、徐々に回復するだろう。

 古傷は、打ち身による痣、刃物で傷つけられた切り傷、鞭などによって抉られた傷など、まるで拷問を受けていたかのように様々なものがあった。私に出来ることは、なるべくその跡を消すこと。その為に塗り薬を処方し、入浴後にしっかりと塗ってもらっている。

 一番の問題は心だ。彼の心は傷ついている。精神がまだ幼いままなのも、このせいだろう。
 そして魔力は心と繋がりがあり、暴走するのは心を守るためだ。

 魔力暴走が初めて起こったとき、屋敷は極寒の地となった。それはこのディゾルの領地ではあり得ないことだった。
 彼に触れられるのは、唯一、同等の魔力を持ち、尚且つ炎の魔法を持つルダン様だけ。その為、当主であるルダン様が彼の世話をした。
 ほどなくして、彼は目覚め、魔力暴走は治まる。
 普通なら、魔力暴走は対象の心が癒えるか魔力が尽きて死ぬまで続く。しかし、彼は荒れ狂う魔力を心のうちに仕舞った。それは自分の身を犠牲にしても、他社を傷つけたくないことの現れであり、彼は優しい心の持ち主だということが推測できる。
 けれど、それで癒えるわけでも死ぬわけでもなく、眠り、意識が無くなった状態になると、また表面に出てくる。
 私達に出来るのは、彼が癒える時間と安心できる環境を作ることだけ。

 信じられないほど過保護になったルダン様とメル様のおかげで、彼の心が安定していくうちに頻度が少なくなった。

 そして今回、意識のある状態で魔力暴走が起こる。屋敷の外に出て、負担がかかり、起こることは想定内だが、意識があるとは思わなかった。意識があるということは、ウェイン様はようやく自分の心と向き合い始め、癒そうとしているのだろう。
 最初の頃は、意識が混濁していたとの話があったが、今は私達が会話が出来て、近くに入れる程度には威力が弱かった。

 今回の魔力暴走の詳細をまとめ、息を吐いた。
 彼には健やかに暮らして欲しい。
 そして、出来るならばルダン様の初恋も叶って欲しい。その為には、まずルダン様がそれを認識しなければ。周りから見れば分かるのだが、本人はきっと自覚していない。

「一騒動、起きるような気がする」

 私の感が当たらなければ良いのだけれど。
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