31 / 114
公爵家編
28.偽物だけど
しおりを挟む
正気に戻った俺は、さっきまでの癇癪が恥ずかしくなる。ぎゅうと抱きしめられたまま、動けないので顔を見られなくて済むのは、不幸中の幸いだ。
グスグスと垂れてくる鼻水をすすった。はぁ、全く、中身は良い歳した人間なのに。こんな子供みたいな事するなんて恥ずかしくてしょうがない!
雪の勢いは弱くなっているだけで、未だに降っているのを感じる。俺は一度も魔法を使ったこと無いけど、もしかして、これは俺の魔法?
雪の魔法でこんなにも制御が効かないなんて、ゲームの中のウェインもこんな状態だったのかもしれない。
あの雪が降り続けるフィールドは、主人公達にデバフを与え続けるフィールドは、魔法を抑えきれなかったのか。
もしかしたら、止めて欲しかったのかも。本当は国を滅ぼしたく無かったのかも。
そう思うと、ゲームの中のウェインが苦しんでいる姿を想像してしまう。俺と全く似ていない、ゲームの中のウェイン。王座に座るその横顔は愁いを帯びていた。俺のように誰かを求めていたようにも見える。
そうだ。この世界がゲームのように進むとは、限らなかった。もしかしたら、本物のウェインがここにいるはずだったのかもしれない。俺が奪って……。
「ルダン、サマ」
「どうした?」
ルダン様を呼ぶと、腕を緩めて顔を合わせてくれる。彼の回りはキラキラと赤く輝いて見えた。雪は止まないけど、温もりをくれる彼なら、俺はラスボスにきっとならなくてすむ。ごめんなさい、ウェイン。俺はもうこの場所を手放せない。
どうか、すてないで。俺を見捨てないで。
そういう意味を込めて、名前を呼ぶ。
「ルダン、サマ」
零れた涙が頬を伝い、ゆっくりと凍って粒になり、離れていく。
それをルダン様は、目尻に口を寄せて吸い、涙さえも作らせない。反対側は指で拭って、舌でなめ取る。まるで俺の涙は、全て彼のものだと言われているような気がした。
思い返せば、ルダン様は前の時も俺の涙を食べていた。あの時はワンちゃんに見えたけど、今は……。
「何も怖くはないからな」
彼の声が心に響く。
彼は空を奪わない。
俺を閉じ込めない。
お腹が空いたら、食べさせてくれる。
わがままも許してくれる。
何よりも、何よりも抱きしめてくれて、暖かい。
さっきまで否定してたのに、なんて都合の良い奴だと自分でも思うが、今の俺には彼しかいないと知ってしまった、分かってしまった。
黒も白も、赤に染めてしまう彼に、俺は惹かれてしまった。
「ルダン、サマ」
彼は俺を見ても、優しく笑ってくれる。俺はその微笑みに答えるように、笑った。
グスグスと垂れてくる鼻水をすすった。はぁ、全く、中身は良い歳した人間なのに。こんな子供みたいな事するなんて恥ずかしくてしょうがない!
雪の勢いは弱くなっているだけで、未だに降っているのを感じる。俺は一度も魔法を使ったこと無いけど、もしかして、これは俺の魔法?
雪の魔法でこんなにも制御が効かないなんて、ゲームの中のウェインもこんな状態だったのかもしれない。
あの雪が降り続けるフィールドは、主人公達にデバフを与え続けるフィールドは、魔法を抑えきれなかったのか。
もしかしたら、止めて欲しかったのかも。本当は国を滅ぼしたく無かったのかも。
そう思うと、ゲームの中のウェインが苦しんでいる姿を想像してしまう。俺と全く似ていない、ゲームの中のウェイン。王座に座るその横顔は愁いを帯びていた。俺のように誰かを求めていたようにも見える。
そうだ。この世界がゲームのように進むとは、限らなかった。もしかしたら、本物のウェインがここにいるはずだったのかもしれない。俺が奪って……。
「ルダン、サマ」
「どうした?」
ルダン様を呼ぶと、腕を緩めて顔を合わせてくれる。彼の回りはキラキラと赤く輝いて見えた。雪は止まないけど、温もりをくれる彼なら、俺はラスボスにきっとならなくてすむ。ごめんなさい、ウェイン。俺はもうこの場所を手放せない。
どうか、すてないで。俺を見捨てないで。
そういう意味を込めて、名前を呼ぶ。
「ルダン、サマ」
零れた涙が頬を伝い、ゆっくりと凍って粒になり、離れていく。
それをルダン様は、目尻に口を寄せて吸い、涙さえも作らせない。反対側は指で拭って、舌でなめ取る。まるで俺の涙は、全て彼のものだと言われているような気がした。
思い返せば、ルダン様は前の時も俺の涙を食べていた。あの時はワンちゃんに見えたけど、今は……。
「何も怖くはないからな」
彼の声が心に響く。
彼は空を奪わない。
俺を閉じ込めない。
お腹が空いたら、食べさせてくれる。
わがままも許してくれる。
何よりも、何よりも抱きしめてくれて、暖かい。
さっきまで否定してたのに、なんて都合の良い奴だと自分でも思うが、今の俺には彼しかいないと知ってしまった、分かってしまった。
黒も白も、赤に染めてしまう彼に、俺は惹かれてしまった。
「ルダン、サマ」
彼は俺を見ても、優しく笑ってくれる。俺はその微笑みに答えるように、笑った。
31
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる