雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

28.偽物だけど

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 正気に戻った俺は、さっきまでの癇癪が恥ずかしくなる。ぎゅうと抱きしめられたまま、動けないので顔を見られなくて済むのは、不幸中の幸いだ。
 グスグスと垂れてくる鼻水をすすった。はぁ、全く、中身は良い歳した人間なのに。こんな子供みたいな事するなんて恥ずかしくてしょうがない!

 雪の勢いは弱くなっているだけで、未だに降っているのを感じる。俺は一度も魔法を使ったこと無いけど、もしかして、これは俺の魔法?

 雪の魔法でこんなにも制御が効かないなんて、ゲームの中のウェインもこんな状態だったのかもしれない。
 あの雪が降り続けるフィールドは、主人公達にデバフを与え続けるフィールドは、魔法を抑えきれなかったのか。
 もしかしたら、止めて欲しかったのかも。本当は国を滅ぼしたく無かったのかも。

 そう思うと、ゲームの中のウェインが苦しんでいる姿を想像してしまう。俺と全く似ていない、ゲームの中のウェイン。王座に座るその横顔は愁いを帯びていた。俺のように誰かを求めていたようにも見える。
 
 そうだ。この世界がゲームのように進むとは、限らなかった。もしかしたら、本物のウェインがここにいるはずだったのかもしれない。俺が奪って……。

「ルダン、サマ」
「どうした?」

 ルダン様を呼ぶと、腕を緩めて顔を合わせてくれる。彼の回りはキラキラと赤く輝いて見えた。雪は止まないけど、温もりをくれる彼なら、俺はラスボスにきっとならなくてすむ。ごめんなさい、ウェイン。俺はもうこの場所を手放せない。

 どうか、すてないで。俺を見捨てないで。

 そういう意味を込めて、名前を呼ぶ。

「ルダン、サマ」

 零れた涙が頬を伝い、ゆっくりと凍って粒になり、離れていく。
 それをルダン様は、目尻に口を寄せて吸い、涙さえも作らせない。反対側は指で拭って、舌でなめ取る。まるで俺の涙は、全て彼のものだと言われているような気がした。
 思い返せば、ルダン様は前の時も俺の涙を食べていた。あの時はワンちゃんに見えたけど、今は……。

「何も怖くはないからな」

 彼の声が心に響く。

 彼は空を奪わない。
 俺を閉じ込めない。
 お腹が空いたら、食べさせてくれる。
 わがままも許してくれる。
 何よりも、何よりも抱きしめてくれて、暖かい。

 さっきまで否定してたのに、なんて都合の良い奴だと自分でも思うが、今の俺には彼しかいないと知ってしまった、分かってしまった。
 黒も白も、赤に染めてしまう彼に、俺は惹かれてしまった。

「ルダン、サマ」

 彼は俺を見ても、優しく笑ってくれる。俺はその微笑みに答えるように、笑った。
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