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公爵家編

27.心の内

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 心に火が灯って、手を伸ばすと、誰かが握ってくれた。暖かく力強いのに、不思議と痛みはない。

「ウェイン」

 目を開けると、白い雪が、降っていた。あの塔にいた時と同じく、白い雪だった。
 どうして?あの時、止んだはずなのに?

 止んだ?それはいつ?

 分からない。

 考えが纏らず、吹き荒れる雪に、また心が凍りそうになる。
 
 また?俺はいつ心を凍らせたんだ?

「ウェイン」

 名前を呼ばれて、握られた手に温もりキスが贈られる。頬を触られ、横を向かされた。

「ウェイン」
「ルダン、サマ?」

 最初は分からなかったが、ジッと見ているとぼやけていた視界が徐々に鮮明になる。
 そこにはいたのはルダン様だった。

「起きてるのか……」

 彼は悲しそうな目で俺を見ている。赤い瞳が揺れる。彼は白い以外の色。暖かな色。あの塔にも狭いあの場所にも無かった色だ。あの日の色でも無い。
 思考が滲んで、過去に戻っていく。視界も同様にぶれていく。

 外は、何色だった?

 そう。あの日、雪が止んだ。青色の空があったんだ、あの日は。天気が良く、風は穏やかで太陽さえみえていた。冬が終わって春が来たんだと思った。ようやくこれで俺を、お父様もお母様も許してくれると思ったんだ。だって、冬が終われば生贄じゃなくなる、そう言ってたんだ。

 でも、外に出たら、沢山の人に囲まれて奪われた。雪の白さえも許されない黒に染められた。狭い場所に、声も出せず、動けず。
 裏切られたと思った。本当は、あの人達は俺を許さない事なんて初めから分かっていたはずなのに、あの空を見て、希望を抱いてしまった。
 そこにどのくらいいたのか、分からない。動けないのにお腹は減るばかり。閉じ込められ、思うのは、叶わない望みばかり。
 止めて欲しかった。助けて欲しかった。せめて、褒めて欲しかった。頑張ったね、と、言って欲しかった。どうか、抱きしめて欲しかった。

「何も怖くはないからな。私が守ってやるから」

 ぎゅうと抱きしめられて、俺は酷いことを思ってしまった。

 どうして、貴方なんだ。
 どうして、あの人達じゃ無いんだ。
 抱きしめてくれたのが、貴方なんて。
 どうせ、貴方も俺から離れていく癖に!

 暖かな胸板に、俺は叫んで、押し付ける。今まで考えないようにしていた心の中にある酷く冷たい悲しみを。

「あァああ"ぁぁぁ!」

 泣き叫ぶ俺をルダン様は、抱きしめ続けた。心と同調するように、雪は更に勢いを増す。ごうごうと風の音も鳴っていた。

『誰か、助けて』
『わたしがたすける』

 冷たいだろうに、ルダン様は俺を離すことは無かった。
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