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公爵家編

8.腕の中

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 意識が浮上して俺は、ドキリと胸が高鳴る。
 今は夜と分かるほど、暗い。唯一の光は、バルコニーに通じるガラスの扉からの月明かりだけ。

 俺はベッドで横になっていて、裸だった。流石に下着は着ていたけど。そこは問題じゃない。問題なのは、裸の俺を抱きしめる腕だ。

 だ、誰の?

 俺は一瞬、メルさんかと思ったが彼女にしては腕がゴツい。絶対に男の人だ。しかも、相手も裸同然だった。

『ん、起きたのか?』

 寝起き特有のカサついた低い声にまたドキリとする。その声は、グレイさんのものでも無い。
 ギジリとベッドが鳴り、男の人が動いた。俺に巻き付いていた腕も離れていき、それに寂しくなる。

 俺は男の人の顔を見たくて、身体を動かして振り向く。月に照らされる男性の顔が見え、彼は俺の頬を撫でた。

『まだ冷たいか』

 彼はメルさんの父親であるルダンさんだった。
 ルダンさんは、サイドテーブルの鈴を鳴らし、ノックされた扉に向かって喋る。

『グレイを呼んでくれ』

 彼が何かを言ってから、俺の身体を持ち上げ、シーツを巻き付けて、膝の上に乗せた。
 まるでイモムシのようにされた俺は、モゾモゾと抵抗する。ルダンさんは抵抗をものともせず、サイドテーブルにあったピッチャーからコップに水を注ぐ。

『飲みなさい』

 傾けたコップから水が口に流れてくる。飲み込めなかった水が、口元から少し溢れてしまった。それに気にすること無く、ルダンさんは飲ませ続ける。
 コップの中身が空になると、そのコップをサイドテーブルに起き、俺を片腕で抱っこして、身体を揺らし始めた。空いている手は背中をトントンと軽く叩く。

 ルダンさんには俺がいくつに見えるのだろうか。もしかして、赤ちゃんと思われてる?
 内心、不満だったが、だんだんと心地良くなってウトウトしてしまう。

 あとちょっとで瞼が下がり切るというところで、扉がノックされる。その音で覚醒し、眠気が飛んでいってしまった。部屋にグレイさんが入ってきて、ルダンさんは俺を下ろし、膝の上に座らせる。

『グレイ、ウェインに説明を』
『かしこまりました』

 グレイさんが俺と目線が合うように膝をついて、話しかける。

「今、ウェイン様の御身体の体温が、低い状態にあり、ルダン様に温めてもらっています」

 グレイさんの説明を受けて、今の状況を知る。俺は1週間も眠り続け、体温が低くなる度にこうしてルダンさんに温めてもらっていたらしい。この家には暖炉とかの暖房がなく、ルダンさんは炎の魔力を持っている為、身体を温めるのは丁度良いらしかった。

 それを聞いて、納得しまった。1週間もこうしてくれたわけでしょ、そりゃあ、赤ちゃんみたいな対応にもなるよ。

 俺は納得してルダンさんを見上げる。俺の視線に気づいたルダンさんは、俺を慰めるように、よしよしと頭を撫でた。

『湯浴みの準備を』
『お湯の種類はいかがいたしましょうか?』
『ミルク風呂で。それと蜂蜜も足してくれ』
『かしこまりました』

 ルダンさんが何かを指示して、グレイさんが動き出した。それから、ゾロゾロとメイドさんや執事さんが部屋に入ってきて、別の扉に入って消えていく。
 その扉の先には何があるんだ?

 俺がじっと扉を見つめていると、彼は何を思ったのか、ぎゅっと抱きしめてきた。

『何も怖くはないからな』

 ルダンさんの呟いた言葉は、やっぱり分からなかった。
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