雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

7.温かい

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 3度目のディゾル家の目覚めは、メルさんのいたずらで起きた。
 メルさんは、どうも俺の頬がお気に入りらしく、スリスリとずっと触ってくる。

『おはよ?』
「メル様は、おはようございますと申しております」

 寝た状態で、頭だけうごかして挨拶を返すと、メルさんは、頭を撫でてくれた。
 メルさんの言葉は相変わらず分からなかった。けれど、近くに控えていたグレイさんが翻訳してくれる。

『やっぱり言葉が、通じないのは難があるわね』
『そうですね』

 メルさんはベッドから離れると、扉の近くに置いてあるワゴンに乗っている小さな寸胴鍋の蓋を開けて、手のひらを側面に当てる。数秒後、鍋から湯気が立ち上った。
 ゲームではメルさんの得意魔法が、炎魔法だったことを思い出し、その応用でスープを温めたんだと推測する。

「ウェイン様、スープを飲んで頂いてもよろしいでしょうか?」

 頷くと、グレイさんは身体を起こして、メルさんがスープを皿によそって持ってきてくれた。
 メルさんはベッドの端に座ると、その膝の上に皿を乗せて、スプーンで掬う。ふぅふぅと吹きかけて湯気を立つスープを冷まし、俺の口の近くまで持ってきた。

『食べて』

 じっと見つめる視線に、我慢出来ず口を開けると、口にスプーンを傾けて、ゆっくりとスープを口の中に入れていく。 

『かわい』

 俺が飲み込むと、メルさんは満足そうに笑う。

 とろりとしているスープは、甘くて少し塩っぱくて、そういえば、コーンスープってこんなに美味しかったんだなと、思い出す。温度も丁度良く、熱すぎず、冷たいままでも無い。ホッとするような温かさが身体中に伝わっていく。

『美味し?』
「美味しいですか?」

 グレイさんの言葉に頭を縦に振る。多分、メルさんも似たような質問だったんだろうな。

『そ。なら、いっぱい食べて』

 メルさんは、またスープを掬って少し冷まして、飲ませてくれる。俺のペースでゆっくりと。

 こんなに優しい人なのに、なんで、ゲームでは悪役令嬢になってしまったのだろう?思えば、メルさんが、直接いじめたという描写は無かった。
 俺がやったルートは王子様ルートの1つしか知らないから、情報は少ないけど、もしかしたら、冤罪だった?
 その答えにたどり着くと、ゾッとした。

『早く元気になってね』

 何かを言って、ニコリと笑う無邪気な少女に罪悪感を抱く。主人公は、なんで彼女を死に追いやったのだろう?何がそこまで許せなかったのだろうか?
 俺は、彼女の笑みが失われることを想像してしまった。ポタリと頬から何かが伝う。

『どうしたの?』

 ギョッとして驚くメルさんは、スプーンを持っていない左手の指で、何かを拭ってくれた。ついでに、口元についていたであろうスープをハンカチで拭いてくれる。

『きっと疲れちゃったのね』

 メルさんが、グレイさんに食器を渡し片付ける。それからメルさんの手が、俺の目を覆い隠して、俺の身体をゆっくり倒していく。

『寝て』

 何も寒くないベッドで、俺は安心して意識を手放した。
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