雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

6.ただの水

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 次に目を覚ましたのは、美味しそうな匂いにお腹が耐えきれなくなった時だった。目を開けると、グレイさんと目が合う。グレイさんは、目尻にシワを寄せて笑った。

「目を覚まされましたか」

 グレイさんは俺の身体を起こしてくれて、その背中の部分に倒れないようにクッションを入れてくれた。

 その後、俺の足を跨ぐように置かれる小さなテーブル。テーブルにナフキンを敷いて、その上にガラスのコップと黄色いスープが入った皿を乗せる。
 黄色いスープから嗅いだことのある匂いが······。多分、コーンスープだと思う。

 最後に俺の一番手前に、スプーンが置かれ、コップには無色透明な液体が注がれる。

 俺の視線は、目の前のテーブルとグレイさんを交互に見る。

「どうぞ、お召し上がりください」

 俺は心の中でいただきますと言って、最初はコップに口をつけた。コップを持つ手は震えて、多分、中身が多かったら零れていただろう。
 無色透明な液体は、水だった。ゴッゴッゴッと喉から音が鳴る程の勢いで、飲んでいく。乾いた身体に染み渡っていくようだった。
 何も気にしなくても飲んで良い水とはこんなにも美味しいものなのか。
 勢いをつけ過ぎて、今度はむせてしまう。ゴホゴホと咳をすると、グレイさんは落ち着かせるように背中を軽く叩いた。

「落ち着いて飲んでください。ここにはあなたのものを取り上げる人も、虐げる人もいませんから」

 空っぽになったコップをテーブルに置くと、コポコポとまた水を注いでくれた。今度は、ゆっくりと飲み込む。美味しい、美味しい!

 それを何度か繰り返すと俺のお腹は、水で一杯になってしまった。
 しかし、まだスープが残っている。残すのもったいないし、美味しそうだから食べてしまいたい。けれど、これ以上何かを口にしたら、全部戻してしまいそうだった。

「満腹になられましたか?」

 グレイさんの顔を見て、様子を伺いながら頷く。残したら怒られてしまうかもしれないと思ったがそんな様子もない。

「それは良うございました。スープはまたお腹が空いたときにご用意させていただきますね」

 そう言って、食器やテーブルを片付け始めた。それから、俺を支えながら背中のクッションを外していく。
 ゆっくりと身体を横にしてくれた。しかし、さっきまで眠っていたせいか、まだ眠気は来なかった。

「眠れませんか?」

 グレイさんに尋ねられたけど、顔を動かすのも億劫だった。しかし、グレイさんは俺の事を理解してくれたのか、話を続けた。

「では、ここのお家の事を教えますね。眠くなったら、寝ても構いませんから」

 グレイさんは、まるで幼子に話すようにわかりやすく教えてくれた。
 話を聞くと、ここはやっぱりあの悪役令嬢のメルのディゾル家だった。ディゾル家の当主がルダンさんで、その子供がメル。メルさんは年齢は13歳で、今年、学校に入るんだって。
 アビーさんは、本名をアビゲイルと言って、このディゾル家のお抱えのお医者さんらしい。
 グレイさんはマルチリンガルな執事で、こうして俺との会話も分かるんだって。優秀だよね。

 俺がここにいる理由はまだ教えられないと言われ、理由があることに安心し、それを最後に俺はまた深く眠りについた。
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