雪も積もれば冬となる~悪役公爵家に愛されちゃった!?~

コータ

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公爵家編

4.目の前には

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 温かい。

 ふわりと柔らかくそれでいて弾力のよい雲のような感触。ささくれのない肌触りのよい服。

 こんな幸せな夢は初めてみた。いつもの夢だったら、寒くて、凍えるような雪の中にいるのに。

『早く目覚めないかしら?』

 誰かの声が聞こえて、でも、何を言ってるかわからなかった。何処か聞き覚えのあるような?
 俺はまだ眠っていたくて、聞こえないふりをする。だって、こんなにも眠たいのは久しぶりなんだもん。
 スルリと、柔らかくて滑らかな何が頬を撫でる。

『あぁ冷たい。これで肌が荒れてい無ければ、良かったのに』

 この世界に産まれてから、一度も聞いたことの無い優しげな声。いつだって俺に向ける声はトゲトゲしていて、心は荒んでいくばかりだった。
 優し気な声で何を言ってるかは分からないけど、ポロリと涙が流れた気がした。

『たくさんたくさん、ご飯も食べせて、たくさんたくさん、遊んであげる。たくさんたくさん、愛してもあげるわ。だから、早く目を覚まして?』

 その声に促されるように俺は、ゆっくりと目を開けた。目を開けた先には、優しく笑う少女がベッドの縁に両腕を乗せて、手の上に乗せていた顔を傾けている。
 少女の赤い瞳はキラキラとして、黒みを帯びた赤色の髪は艷やかだった。

『おはよ?』

 彼女はまた俺の頬を撫でてから、サイドテーブルに置いてあった小さなハンドベルを鳴らした。

 チリンチリン

 涼やかな音色の後に、扉をノックする音がする。

『冷ややかな坊やが目を覚ました事、お父様に伝えて。それから、アビゲイルとグレイも呼んで頂戴』
『かしこまりました』

 扉の外にいるであろう誰かと彼女は喋っている。俺はそれをただ聞いているだけ。やっぱり何を言ってるか分からない。
 言葉が分からないって事はここはバド王国じゃないことは確かだ。ここはどこ?それとも、俺はまだ夢を見ているのか?それともまた転生でもしたのかな?そうだったら、優しいところだったら良いな。

 夢か現か、未だに判断できていない俺は、また目を瞑ってしまおうとした。それを彼女は頬を抓って阻止する。

『まだ寝ちゃダメよ。もう少しだけ我慢して』

 その力加減は絶妙で、痛みは感じないが頬を触られている違和感で眠れないようにしている。

『肉をつけなきゃね?触り心地が悪いわ』

 何やら喋っているが、理解できないので返事のしようがない。俺は触ってくる指先の温もりにうっとりとする。

 それにしても、彼女は誰だろうか?見たことはあるが思い出せない。
 俺が思い出そうとしているところに、また扉がノックされる。

『メル、入るよ』

 扉の外から聞こえた声は、男の人の声だった。その人の「メル」という言葉に俺はハッとする。

 そうだ、この少女はメルだ!悪役令嬢のメル!

 こんな風に出会えるなんて、思いもよらなかった。俺が彼女に気が付かなかった理由は、ゲームでの彼女よりも幾分か若いからだと思う。
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