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第四章 緑石の力に潜む意思
墓標に名はない
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沈黙の森の奥のはるか深い地下に、王家の霊廟のひとつがある。
王家の霊廟があるとされる場所は誰もが知っている。だが、この霊廟は王家しか知らない。
始祖の2人は子孫達と同じ場所に葬られてはいない。
ティラーディスとティラードルの2人は、この霊廟に葬られている。いや、本人達の遺言に基づき、子孫らの霊廟は他に建てられた。それが俗にいう王家の霊廟。
ティラーディスとティラードルは生前の姿のまま同じ部屋の右隅と左隅に安置されている。
魔力で人工的に作り上げられたクリスタルの中に。
最後の瞬間に自らクリスタルに身体を閉じ込めた。
セステオとは違い、彼らは間違いなく亡くなっている。
彼らはある者の意思を封印するために、死期がきた時に自らの身体を封印道具として使った。
部屋の中央に棺が安置されている。彼らが封印しているある者の棺。死して尚、強い感情が、意思が旅立てないでいる。彼らは封印するしかなかった。
いや、本気になれば消せたはずだ。だが、彼らはそれをできなかった。できるのに、出来なかったのだ。
やらなかったのではなく、出来なかった。
彼らが棺の主に向ける感情がそれを許さなかった。
棺には名前が記されていない。
そして彼はとうの昔に記憶が曖昧になっていた。時すらもわからない。彼ら2人が亡くなっている事は知ってるはずなのに、わからなくなっていた。
自分の『死』すらも曖昧な状態でいた。長年、2人の身体を元に神力で浄化され続けていた。全て浄化され、棺の主はいつかは天に登る日がくると2人は考えていたという。
だが、浄化に抵抗し、意地になっていた彼は、浄化されていくうちに、自分の存在が曖昧になってしまった。執着した結果だった。素直に浄化を受け入れ続けていれば曖昧にならず、スムーズに登れたはずだった。
黒いモヤは、死して尚、感情を持て余し、そして曖昧になった彼の棺から、出てきたものだった。
彼の執着はティラードルとティラーディス。
2つの王家の子孫はどちらの血も受け継いでいる。
彼は、王家の子孫は2人と同じと認識した。本人達ではないのに。それ程彼は執着していた。封印から僅かに抜け出た感情の一部。様々な偶然が重なり、あの日、テオ王子に気付いたのだ。
セステオはあの頃病弱だったからこそ、気付かれてしまったのだ。
気付かれた理由こそがフォリーが記憶の奥に封じた思い出。
弟のある事について語られ、衝撃をうけ、さらに味方のはずの緑石までもがそれに関しては肯定した。そこに彼の一部はつけ込んだ。
ファイアルで黒いモヤがフォリーの身体に入った時も、幼い頃に封じられた記憶とともに封じられたモヤの一部は反応しなかった。封じられ、自分の一部が彼女の身体に数年後に更に入ってきた事には気付けず、記憶とともに眠り続けていた。
そしてその眠りは動き出した運命の歯車によって、目覚めようとしていた。
王家の霊廟があるとされる場所は誰もが知っている。だが、この霊廟は王家しか知らない。
始祖の2人は子孫達と同じ場所に葬られてはいない。
ティラーディスとティラードルの2人は、この霊廟に葬られている。いや、本人達の遺言に基づき、子孫らの霊廟は他に建てられた。それが俗にいう王家の霊廟。
ティラーディスとティラードルは生前の姿のまま同じ部屋の右隅と左隅に安置されている。
魔力で人工的に作り上げられたクリスタルの中に。
最後の瞬間に自らクリスタルに身体を閉じ込めた。
セステオとは違い、彼らは間違いなく亡くなっている。
彼らはある者の意思を封印するために、死期がきた時に自らの身体を封印道具として使った。
部屋の中央に棺が安置されている。彼らが封印しているある者の棺。死して尚、強い感情が、意思が旅立てないでいる。彼らは封印するしかなかった。
いや、本気になれば消せたはずだ。だが、彼らはそれをできなかった。できるのに、出来なかったのだ。
やらなかったのではなく、出来なかった。
彼らが棺の主に向ける感情がそれを許さなかった。
棺には名前が記されていない。
そして彼はとうの昔に記憶が曖昧になっていた。時すらもわからない。彼ら2人が亡くなっている事は知ってるはずなのに、わからなくなっていた。
自分の『死』すらも曖昧な状態でいた。長年、2人の身体を元に神力で浄化され続けていた。全て浄化され、棺の主はいつかは天に登る日がくると2人は考えていたという。
だが、浄化に抵抗し、意地になっていた彼は、浄化されていくうちに、自分の存在が曖昧になってしまった。執着した結果だった。素直に浄化を受け入れ続けていれば曖昧にならず、スムーズに登れたはずだった。
黒いモヤは、死して尚、感情を持て余し、そして曖昧になった彼の棺から、出てきたものだった。
彼の執着はティラードルとティラーディス。
2つの王家の子孫はどちらの血も受け継いでいる。
彼は、王家の子孫は2人と同じと認識した。本人達ではないのに。それ程彼は執着していた。封印から僅かに抜け出た感情の一部。様々な偶然が重なり、あの日、テオ王子に気付いたのだ。
セステオはあの頃病弱だったからこそ、気付かれてしまったのだ。
気付かれた理由こそがフォリーが記憶の奥に封じた思い出。
弟のある事について語られ、衝撃をうけ、さらに味方のはずの緑石までもがそれに関しては肯定した。そこに彼の一部はつけ込んだ。
ファイアルで黒いモヤがフォリーの身体に入った時も、幼い頃に封じられた記憶とともに封じられたモヤの一部は反応しなかった。封じられ、自分の一部が彼女の身体に数年後に更に入ってきた事には気付けず、記憶とともに眠り続けていた。
そしてその眠りは動き出した運命の歯車によって、目覚めようとしていた。
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