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第二章 光でも闇でもなく

コミヒ姫の能力

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 「そういえば、パンをありがとうね。嬉しかったわ。」

 コミヒがフォリーの頭を撫でながらディランに言った。

 「すみません。直接お渡ししたかったのですが、人命がかかってるかもしれないとなると、そちらを優先したくて。入国して管理局内の配達関連の店に直ぐに行き、頼みました。」

 「そう。それは間違ってないわ。命が優先で合ってます。
 その過程でフォリーが倒れた。医師の診断の説明は教えて頂かなくてもいいわ。“はっきりとはわからない。”でしょうから。」

 クルーが驚いた表情をした。

 「あら、そんなに驚く事ではないのよ。私見た目こんなだけれどこの辺では誰よりもおばあちゃんよ。知ってますでしょ?
 まず完全に安心できるような診断結果なら、貴方達がどよ~んとしてないでしょう。まぁ、おばあちゃんでなくても気付けるかな?」

 「おばあちゃん・・・数十年前に子供産んでるくせによく言う。」

 小声でディランが呟いたがコミヒにしっかり聞き取られてしまった。

 「そりゃあ、中身も若いままなのは事実よ。今はね。」

 「それよりも、今回の目的は達成したの?助けたい人の命は何とかなるのかしら?」

 クルーがピクっと反応し、答えた。

 「ワイスの花はご存知ですよね?わずかに残った種が私では手の届かないところにありまして、手にするためにお二人に来ていただいたんです。」

 「ワイスの花・・人命・・・風土病ね。そうか、他の薬もあるけど、直ぐに効果が必要な状況になっているとしたらワイスの花が確かに確実ね。種は何とかなったの?」

 「手にできました。しかし、種が生きてるのか不明のため、至急保護施設へ送りました。」

 クルーが不安そうに下を向く。

 「なるほど・・・では、その種を一粒、今、私に貸してくれないかしら?この国に住み着いてから、私に身分関係なく皆様親切にして下さるし、たまには私からもお返ししたいわ。それに、フォリーが倒れてまで頑張ったのでしょう?」

 「お返しなど。あなた様は我が国とご自身の母国どちらにも利益をもたらして下さってるではないですか。それに種を一粒だけお渡しして何か案でもあるのですか?」

 「そうね、ちょっとした奇跡が起きるかもね?」

コミヒはディランに視線を向ける。

 「クルー、私・・いや、俺からも頼む。一粒とはいえ、大事な種なのはわかる。でも、コミヒ様を信じてもらえないだろうか?種が生きていればコミヒ様の能力が使えるかも知れない。」

 しばらく沈黙となったが、過去コミヒがファイアルに危害を加えたことはないし、むしろ国を気に入ってくれてずっと住んでいるという事実にクルーは目を向けた。

 「少々お待ちを。」

 クルーが手首に付けていたブレスレットに話しかける。
 「私だ。フーリーに保護施設へ向かい、私が施設に預けた種を一粒だけ持ってくるように伝えてくれ。」






          *





 半時程過ぎ、フーリーがあらわれた。

 「ありがとうフーリー。」

 「どういたしましてって、あれ?コミヒ様?!」

 「ご無沙汰ね、フーリー。あなたも立派になって。」

 「相変わらずの美しさで驚いてます。本当に歳を取らないのですね。」

 眼を大きく開きフーリーが言った。
微笑みを浮かべながらコミヒが答える。

 「あら。それは間違ってるわ。歳はとってますよ。不老なだけです。」

 「頭でわかっていてもやはり驚いてしまいます。100年を超えているという話は聞いたことがありますが
・・・正確には何歳なのですか?」

 「こら、フーリー!!何て失礼な事を言うんだ!女性に歳を聞くんじゃない!」

 「いや、だってクルー、聞きたくなるじゃん?」

 クルーは慌ててフーリーの両頬をぐーっと手で伸ばした。

 「い、いひゃい、いひゃい、痛っ!」

 「あなた達、それくらいにして。さ、種を私の手にのせて頂けるかしら?」

 その騒ぎの中、ディランがフォリーの様子に気付いた。

 「どうしたの?ディラン。」

 「え、いや、何・・何となくフォリーの表情がうるさそうにしているような気がして・・・。」

 「あら。自分も大変な状況なのに。何をのん気にうるさがってるのかしら、このお嬢さんは。ま、でも私達の声は何となく聞こえる状態なのね。」

 コミヒの手のひらの上に種が置かれた。

 「さて。滅多に見れないものが見れるかもよ?
そしてこの力こそが次代に継がれる力。余程の時でないと使わない力。見た目はたまに見かける能力と間違えられますけどね。」

 コミヒはそう言うと何かに集中するかのように種をじっと見つめる。

 「生きてる波動はあるわ。」

 「機械等使わなくてもわかるのですか?!それが『能力』?!」

 「いいえ。これは序の口。これからが本番よ。」

 コミヒが再び種を見つめる。コミヒの手のひらから淡い光が発せられ、それは温かさを伴い始め、光は大きなオーブ状になっていく。 

 「「え?!」」

 クルーとフーリーが声を出した。
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