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第一章

クリスタルからの警告

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 暗い緑色のクリスタルに大きなヒビが縦に入っていた。ディランもフォリーも続けて力をクリスタルに流してみるが、そこから変化はない。

 「ディラン兄、テオの時は割れたのではなく光が出たのよね?」

 「ああ、フォリー。最も、眼を閉じてしまったからひび割れが起きたかどうかは知らない。でも、さっきのような音はしなかった。しかも眼を開けた時にはクリスタルは消えてたからな。割れたのかどうか。」

 改めてフォリーがクリスタルを見つめる。

 あれ?・・・もしかして石が何か困ってる感じ?何かそんな気がする。何か石からして予想外のことが起きている?

 ディランはあの時と今からを頭の中で比較していた。共通点は一見なさそうだったが、悲壮な表情のクルーに視線を向けた時にある事に気付いた。

 そうだ。あの時の俺はテオに戻ってきてほしいと強く願っていた。そしてさっき割れる音がする前にクルーが叫んだんだ。“母上を助けて”と。

 「もしかしたら・・・・・・

 クルー、もっと近くへ来て。俺とフォリーの間に。そして2人と手を繋いでくれ。」

 ディランが左手をクリスタルに当て、クルーがディランの右手とフォリーの左手を握る。フォリーは右手をクリスタルに当てていた。

 「フォリー、お前は神力を注げ。できるだけ大事な者たちを思い浮かべながら。俺は同じように思い浮かべながら魔力を注ぐ。そしてクルー、君はさっきのように、いや母親を助けたいともっともっと強く願うんだ。」

 「いくぞ、せーの!」

 しばらくするとヒビ割れから暗い緑の炎のようなものが出てきた。あの時の光とは違い、見た目は炎。熱くも焼くこともないような。やがてそれはクリスタル全体に広がる。

 『手を離して。離れて!』

 緊張を煽るような声が再び聞こえた。慌ててクリスタルから距離を置く3人。護衛たちが再び剣を構える。

 『気を付けて。まさか一緒にコレが紛れ込んでいたとは。こいつの腐った根性や性質が濁りを出してたと思ったんだ。それにしては濁りを浄化するにやけに緩やかだった。こいつだけじゃない。』

 「こいつだけじゃない?どういうことだ?中には一人しか!」

 クルーが声を出した。

 クリスタルの姿が半透明になったりはっきり見えたりし始める。

 『開放となる。こいつを裁いてね、王子様。それからもうひとりいる!気を付けて。気を付けてあの時のおチビさん!あの時あそこにいたのはここでは君だけだ!』

 声が大きな声で話し終えるとほぼ同時にバシッと炎のような光が消え、クリスタルの姿はなく、床にあの悪人が転がっていた。息をしているのがわかると護衛達が即行動に移し、意識のない男を捕えた。

 「そいつを牢屋へ。その前に魔道具等荷物や服のポケットにないか調べ、外せ。逃げれないよう力を抑制しろ。その袋はワイスの花の種のはずだ。至急保護施設に届け、種の命が無事か確認するよう指示を出してくれ。」

 クルーが命令をだし、護衛2名が男を担いで地上へ向かった。1人は種を保護施設へ。残りの2人は護衛として残った。

 「あと、『もうひとり』って?」

 声はもうひとりとフォリーの事を言っていた。ディランは何かあったら直ぐ対応しようとフォリーのほうへ近寄ろうとした。
 その時フォリーはクリスタルが消えたその奥、部屋の隅の異変に気付いた。
 
 「っあれは!」

 小さいけどあの時の黒いモヤ!
 そう思って防御姿勢を取ろうとするより先に黒いモヤが物凄いスピードで、まるで槍のような形でフォリーの体に向かった。

 「フォリー!!!」

 ディランが叫ぶ。

 黒いモヤはフォリーの体を、まるで貫くかのように入り込み、消えた。

 そしてフォリーが駆けつけたディランの腕に支えられながら倒れていった。

 「フォルガイア姫!」

 クルーが慌てて2人に駆け寄る。そして残りの護衛に向かい大声を出した。

 「お前達!至急陛下に伝えるんだ。それから医師の手配を!」





          *




 アレックスが父の書類を手伝っている時に、突然悲鳴が頭に響いた。幼い時のフォリーの声だ。

 あっちで何か起きた?

 不安がよぎる。あっちの世界は夢でしかわからない。あっちの、自分が見てるものを知るには夢を見るしかない。

 「どうした?アレックス。」

 「父上、何か異変が起きてるかもしれません。でも、寝ないとわからない。」

 「・・・・・なるほど。では昼寝してこい。侍女に軽い睡眠導入薬を用意させる。そのかわり、何もなかったら手伝いを倍に増やすからな。」
 
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