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第一章

緑の石と緑のトゲトゲ

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 西王は連絡を受けてフォルガイアの姿を探しに娘の自室へ向かっていた。そこへ前方からルーカスが妹を抱きかかえて歩いてくる姿が見えた。

 「ルーカス、フォリーは大丈夫か?」

 「・・・・・・。」

 「ルーカス。ルーカス?」

 ルーカスは父の声が聞こえないかのように暗い瞳で妹を見つめながら歩みを止めない。

 「ルーカス、そっちにはフォリーの部屋はないぞ。おい、ルー!しっかりしなさい。」

 ゴチっと頭にげんこつを落とされ、ルーカスが我に返る。

 「父上・・・。」

 ルーカスの顔が無表情になってはいるが、父には息子が幼子のように怯え、心の中で泣きそうになっているのがわかった。

 「ルーカス、フォリーは?」

 「わかりません。」

 「は?」

 「わからない、わからない。机の上に臥せった状態で目を閉じてた。とにかく横にしてあげようと抱きかかえてここまで・・」

 フォリーの顔色が特に悪いわけでもないが、目の下のクマはわかった。目を閉じたその表情は険しい様子もない。父はピン!とくるものがあった。

 「・・・ルーカス、もしかしてこいつ、寝てるだけじゃないのか?とにかく医師にみせるか。」




         *



 「セス爺、こんにちは。」
 
 「おや、いらっしゃい、おチビさん達。」

 艶のある栗毛の男の子と金髪の女の子が元気よく走ってきた。

 「セス爺。お兄ちゃま達、今日ここでお勉強なんでしょ、だから私、ついて来たの。セス爺に会いたかったんだもん。」

 「おやおや、ちょっと会わない間におしゃまさんになりましたね、お姫さん。こりゃあ、将来大変だ。一体誰と結婚するのかね。お姫さんなら王家でも外でも幸せを見つけそうだ。」

 「けっこん?」

 「はは。姫さんや、花屋のちびちゃんや門番のところのガキ大将達とも仲良くしてるかい?」

 「うん、街のみんな、毎週仲良くしてるよ。もっとみんなと遊びたいけど週に1回しかお城のお庭、外へ開けないって。」

 「そりゃあね、毎日開けて変なのが紛れ込んできても困るからね。でも、出会いは大切にするんだよ。もしかすると大きくなった姫さんに身分問わず結婚を申し込む人が沢山くるかもね。」

 バシっと栗毛の男の子がセス爺の足を叩いた。

 「ひどいよ、セス爺。フォリーの側にいるのは僕だもん。僕がフォリー守るんだから!」

 眼に涙をためて真っ赤な顔でバシバシ叩き、抗議する男の子。

 「アレックス様、落ち着いて下さい。爺がからかいすぎました。」

 「ひどいよ、ひど・・・うわ~んっ!」

 「アレックス、アレックスどうしたの?ねぇ、泣かない、泣かない、アレックス・・・うわ~ん!」

 アレックスがポロポロ涙を流して泣き出したのを見たフォリーがつられて泣き出した。

 「ちょっとセス様、どうするんですか、これ。」

 側にいた弟子が声をあげた。

 「うーん、まいったねぇ。」

 偉大なる魔力研究者が頭をポリポリ掻いてると、パタパタと足音が近づいてきて、扉が開いた。

 「「二人して何泣いてるの?!」」

 ルーカスとディランが泣き声につられて顔を出し、同時に声を出した。



         *
 



 ああ、これは夢だ。小さい頃の思い出・・・
 楽しい思い出・・・。
 あ、場面が、変わったわ。これは・・・・・



         *



 「アレックス、あの緑のキラキラの調べもの、またはじまったの?」

 「うん。実験だよ。でも近寄るとこの間みたいに怒られちゃう。」

 ガラス窓の向こうを見ながら、邪魔をしないようひそひそと二人で話していた。

 ガコーンっと大きな音がした。

 調査の機器が停止した。

 「また壊れちゃったみたいだね、フォリー。」

 「うん。あの、キラキラ、泣いてるみたい。」

 「泣いてる?石が?」

 「何となくそんな気がするの。」

 「あれ?ねぇ、フォリー、あそこ。部屋の隅、緑色の小さな煙出てない?」

 「さっき音がした時、何か飛んだように見えたよ。虫かなと思ったけど何だろう、アレックス。」

 大人たちが調査をやめ、片付け、去った後に二人は中にコソコソ入り込んだ。

 フォリーがそれを見つけた。

「あ・・何かトゲトゲがある。」

 部屋の隅の石畳のすき間からチクチクした棘のようなものがついた小さな植物が生えていた。

 「いつからあったのかなぁ?煙と関係あったのかなぁ?」

 首を傾けるアレックス。

 持って帰っていいのか、それともこのままにしたほうがいいのか子供なりに考えた結果、やっぱりよくわからなかったので、とりあえずそのままにすることにした。


        *



 また場面が変わる。




        *



 これは・・・この場面は・・・嫌、だ。見たくない。



        *



 「助けて、お兄ちゃま、助けて」ガタガタしながら震える声をあげるフォリー。
 テオが、テオが。お兄ちゃま・・・

         

         *

 「・・・リー、ォリー、フォリー!!」

 ハッと眼を開けるとフォリーの両肩を掴んだルーカスの顔が上から見下ろしていた。

 「お兄様?私?」

 「今うなされていたぞ。さっき小部屋行ったらお前は机に臥せっていたし、医者に見せたら睡眠不足と精神的な疲労の可能性が指摘された。どうしたんだ?」

 「・・・心配かけてごめんなさい。多分色々考えちゃって寝不足なだけ。」

 「色々考えて?」

 「あ、気にしないで。大したことではないわ。例えば小部屋のトゲトゲちゃんはどうすればもっと大きくなるのかなとかこれ以上大きくはならない植物なのかなとか。」

 フォリーが小さな笑顔を浮かべ、言い訳をする。

 「とにかく、お前が眼を覚ましたことを父上に伝えてくるよ。もうじき母上もお戻りだろうからきっと何があったかと聞いてくるぞ。」

 「はい。本当に申し訳ありませんでした。」

 ルーカスはフォリーの作り笑いに気付かないフリをして部屋から出た。

 扉を閉めたあとルーカスは呟いた。

 「お前、うなされながらお兄ちゃまと言っていたんだぞ。」

 間違いなくあの時の、人形になる直前の夢をみているとルーカスは手を顔にあてた。
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