上 下
8 / 104
第一章

止まっていた歯車に油差し①

しおりを挟む
 〘こちらはお空、地面はあっち〙

 焦げ茶色の髪の男が東の城の手前の看板を見ていた。
学校か、孤児院と思われる子ども達の手書きの看板を。
 「・・・えーっと。」

 ピューっと男の背後を風が通り過ぎた。


      *
 
 「ディラン王子、何やら王都が一部騒がしくなっているようです。大地の姫について尋ねているようですが、失言であちこちから人々の怒りをかってるとのことです。」

 「先程報告のあった獣のようだな。最もその者はわざと目立ってるようにも思うが。それよりも・・」

 話しながらディランは窓の外の様子から目を離さない。
 「獣は獣でも猛獣はこいつの方ではないのかな。」

 焦げ茶髪の男が看板の前からそっと離れていく様子をディランは静観していた。

 「あとを追いますか?」

 「いや、こちらの城の様子を確認に来たんだろう。私達が城ではなくこの屋敷にいるとは思ってなさそうだが。放っておいてもあちらの城に向かっただろう。」

 「何故あちらの城だと?」

 「王都で騒いでるやつが大地の姫のことを聞いてるんだろ?そしてあの焦げ茶は看板を見ていた。フォルガイアに用があるならば西の城のほうへ行く。『地面はあっち』だから。騒ぎの様子は弟達が教えてくれるだろう。あの二人そろそろ戻って来る時間だろ?」



         *


  一時間後


 男が西の城の手前の看板を見ていた。

 〘こちらは地面 お空はあっち〙

 「・・・だからさぁ、何なの。いくら子ども達の作品とはいえ、道しるべにこの文って。観光客用になるの、これ?」

 「おや、評判は良い方なんですよ。子ども達の絵と文字が萌えると。」

 突然後方から声がかかり、男は数歩飛び退いた。


 何だこいつ?近寄る気配が無かった。魔法移動にしても現れた気配も無かった。


 「これはこれは、驚かしてしまって申し訳ありません。私は城に使えるジョーンズと申します。ジョーンズ・ヘリオ・レテリス。お見知りおきを、お客様。」

 ジョーンズは笑顔を浮かべながら話を続けた。

 「ところで先程あちこちの騒ぎの元となった金髪男が一人捕らえられ、こちらに運ばれました。あなたのお知り合いですかね?」

 「・・・はっ?!・・ええっ?!さーわーぎー?!あの馬鹿!!!」

 思わず大声をだしてハァーとため息をつく焦げ茶髪男だった。

 「すまない。あいつが何を考え、騒いだのか予想はつくが、あいつの思い違いだ。あの者の上に立つものとして謝罪する。誠に申し訳無かった。そのうえで、お願いがあるのだが聞いてもらえないだろうか?」

 「今、案内人をよこしましょう。城の中でお待ち下さい。ファイアル国からようこそ、御人。」

 「何故ファイアルと?それに内容聞きもせず詳細不明な男を、あなたの自己判断で城に招いていいのか?」
 
 「内容?大地の姫について捕らえたものが散々尋ねてましたよ。結果、国民があちこちで切れましたが。私も先程騒ぎに遭遇してます。それに私の記憶が正しければですが、あなた様のお顔、拝見したことがございます。ただ、確証がないので浮かんだお名前を呼ぶことは省かせて頂きます。お名前は直接西王にどうぞ。」


         *



 案内された部屋に入ると、一瞬6、7歳位の金髪の少女らしきものが佇んでいたように見えた。
 
 幻覚か?それとも何かの術?まさか幽霊?

男は一度目を閉じ、再び開くが少女は居なかった。

 お茶を飲みながら待つこと数分、コンコンとドアがノックされ、先程のジョーンズが姿を見せた。

 「お待たせいたしました。西王が参られます。」
 「え?王がこちらに足をお運びに?私が向かうのではなく?」

 ジョーンズの返事を聞く前に白金の髪の背の高い男性が入室してきた。金に近い、澄んだ薄茶色の瞳か客人の姿を捕える。

 「待たせて申し訳なかったな。支度に準備がかかって、何分先程まで力仕事を・・」

 と、話を始める王の右頬に何か汚れがついていることに気付き、目が向く。

 「王、右、右です、右頬に泥がまだ。」と、ジョーンズが王に囁き、あわてて王が頬を拭う。

 ・・・力仕事って言ってたよな?顔のあれ、泥だよな?え、あれ?西王だよね、この顔。

 焦げ茶髪の頭は?を頭に浮かべつつ次の声を待った。

 「ところで、何用かな?非公式に、気晴らしに、気ままな日帰りにきたという風に一見見えるが。挨拶に来たわけでもなさそうだ。隣国のクルー王子よ。」

 「幼き頃の私の顔を覚えていて下さり、そして成長した私だと気付いて頂き、至極光栄でございます。ご無沙汰しております。連絡もせず、無礼なのも覚悟の上で参りました。どうしてもフォルガイア姫にお聞きしたいことがございます。どうか、どうかお目通りを。」

 「・・その前に確認したいことがあるのだが、よろしいか?」

 西王の言葉にクルーは頷いた。
それを見て、西王はドアの向こうに声をかける。

 「クトニオス、入れ。」

 声に従い、クトニオスが金髪の男を連れて入室した。
 「こちらの男性はご存知かな?」と王が尋ねると、クルーは頷き、答える。

 「私に付いて来た配下であり、友人である者です。名をフーリー・ディル・ポーカーと申します。おそらく、私が手順を踏まずコソコソしながら急ぐ様子を見て、何か見つかってはいけない事をしようとしてると勘違いし、私が動けるようにと思って目立つ行為をしたかと。」

 それを聞いてフーリーが目を大きく開けた。

 「猿轡を外してやれ、クトニオス。」
 
 「御意。」

 「クルー王子(泣)申し訳ありませんでしたー。でも勘違いって酷くないですか?私、この人(クトニオス)に押さえつけられて凍ってしまうかと思うくらい冷たい視線を浴びてたんですよ!」

フーリーはクルーの足にしがみつき、泣き言を言った。

 「いや、勘違いは勘違い。確かに手順踏まず急いだから勘違いさせたのかもしれないが、囮になれとは言ってない。目くらましになれとも言ってない。母上の病に何もできない自分が不甲斐なく・居ても立っても居られなく、旅立ったんだ。疑問の鍵は大地の姫が知ってるかもしれないから。そ、それよりお前いい加減に離れろ。みっともない。」

 しばらく二人の会話を聞いていた西王は小さく吹き出した。

「フッ。あ、いや、すまない。
笑ったのは、そなた達のことをそなたの父王が見抜いて先に私に連絡をくれていてな。来るか来ないか確証ないから私も特に他の者たちには伝えてなかったのだが。あ、東王も連絡内容は知ってる。『たまに猪突猛進になってしまうせがれと、頼んでもないのに道化役をやりだす配下の者が迷惑をかけるかもしれない』とな。」

 「猪突猛進・・・。」

 「ど、道化。」

 だが、猛獣になりうる若者でもある、と西王は思いつつ声をあげた。

 「我が子ども達、入っておいで。」

 ルーカスとフォルガイアが姿を見せた。

 「さて、うちの娘を散々人形呼ばわりしたフーリーとやら。目の前の娘が意思がないように見えるかい?歩いてきた姿は今確認できたろう?」
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...