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第一章

セステオ

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 「夢か・・・。」

 大きな溜息とともにアレックスは伸びをした。本を読みながらうたた寝をしてしまったようだ。

 コンコン。
 小さな音が扉からきこえた。

 「あにうえ、僕です。入ってもいいですか?」

 「セステオか。大丈夫だよ、入っておいで。」

 「・・・失礼します。」

 セステオは中に入ってきたものの、悲しそうな表情でチラッとアレックスの顔を見て、手をもじもじさせていた。

 「どうした?」

 「あ・・・あのね・・僕、悪い子なの?・・ぼ、私のこと、あにうえも・・王様もお后様も要らないって思っ・・。」

 悲しそうな、悔しそうな顔でポロポロと涙を流し始めた義弟にアレックスは目を大きく開いた。
 手を伸ばし、そっとセステオを抱きしめ、頭を撫でる。

 「何故そのように思ったんだ?誰かに何か言われたのか?」

 「さっき、お部屋戻ろうとしたら柱の陰で侍女達が話してるのが聞こえたんです。末っ子殿下は可愛い顔して周りが放っておかない。今の年齢からこの調子だと色々面倒が起こりそうだって。陛下達も必死に目を光らせてるって。」

 「ぶっ。それって、お前・・・ちょっ・・。そ、そうか、うん、素直というか、言葉の意味を違ってとったかと思う。」

 「素直?」

 「どうせメイ辺りが話してたんだろう?恐らくマリーやレイラと。」

 セステオはびっくりし、ピタっと涙が止まった。
   
 「・・・何でわかるの?」

 「あの人等、あの辺でたまに無駄話してるからね。それからお前が可愛くて可愛くて仕方ないみたいで、何かを届けてくる時についでに俺にまでその可愛さを報告してくるぞ。まぁ、他国からすれば俺らがフレンドリー過ぎる王族なのかもしれないけど。国民の愛国心信じてある程度自由にさせてるし、してるし。王族2つの2王制だしなぁ。昨日だって母上が不在だと思ったら日に焼けて帰ってきたから、きっと国民の様子確認とか言いながらどこかの畑か店を手伝ってたんだと思う。」

 「・・でも、面倒が起こるって言っ・・。」

 言いながら再び泣きそうになるセステオに慌てて面倒が意図するものが何か教える。

 「変な虫が寄ってくる事を心配してるんだよ。身分だけでも媚売られそうなのに顔が可愛らしく整ってるから『私と結婚して攻撃』が、今から想像しただけで恐ろしいって事。」

 理解できたセステオの顔が真っ赤になった。

 「つまり、あにうえは今面倒抱えてるんですね!あにうえの顔も所作も格好良いし、キャーキャー言ってる人見たことあります。」 

 「えっ・・突っ込みは無しにして。それより、公の場でないところで陛下やお后様なんて言うな、泣くぞあの二人。」

 「はい・・・あと、もうひとついいですか?」

 「お、調子がでてきたな。勿論1つでも2つでも。」

 「今日の講義で〘光の涙事件〙を少し教わりました。あの事件に出てくる王子って、あにうえですか?」

 途端に先程の夢の内容が蘇る。あの日の意識がなくなる前の場面。そして消えてく意識の中かすかに泣き叫ぶ声が聞こえた。

 「・・・どうしてそう思った?」

 「だって、あにうえのわき腹に薄くピンク色のスジありましたよね?前聞いたら小さい頃の傷跡だって。治療でその傷跡消せるのに消したくないって残してるって。」

 「うーん、さっきの取り消し!1つでも2つでもではなく、1つだけに変更。確かに俺は関係者だよ。以上。」

 「わかりました・・・グスッ・・ちょっと・・姉様に会いたくなってきちゃいました。」

 「な、何で。」

 「ちちうえもははうえもあにうえ達も僕のこと嫌いじゃないってわかったら安心したのと、事件であにうえが傷を追ったんだと思ったら辛くて・・そうしたら姉様の顔見たくなったの。姉様の笑顔、安心するの。」

 「そうか。でももう、暗くなる時間だから今日は我慢しておきなさい。それから、フォリーに事件の話はしないようにね?頼むよ?」

 「わかりました。では自分の部屋に戻ります。あにうえ、大好き。ちちうえもははうえも大好きです。ディランあにうえも大好き。姉様も大好き。ルーカス兄様も、父様母様も大好き。僕は素敵な2つの家族に恵まれてます。」

 にっこり微笑むとセステオは扉を開けて戻っていった。その後ろ姿にボソっとアレックスは呟いた。

 「どちらの王家に居てもお前は大事な家族だよ。そのまま向こうの親元に居たとしても将来的には義弟になってる予定だよ。俺の中では。」

 大地の姫の微笑みを思い出し、胸の疼きを自覚しながらアレックス自身もまた笑顔を浮かべていた。

 「むしろお前より俺のほうが会いに行きたい。」
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