大好きな貴方へ

あか

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ああ。今日もまた、あの人の夢を見る。


 
『あの国を総べる王は、悪逆の限りを尽くしていると聞く』
『そんな王を、これ以上放っておくわけにはいかない』
『俺にはもう、王位継承権は持たないけれど』
『それでも、元王族としてこれ以上』
 『奴の好きにさせておくわけには、いかない!』

そう言った、大好きな人ーーレオンは、数年の苦労からか、どこか表情は険しく、眉間には皺が強く寄ってしまっていた。…ああ、全ては、俺のせいだというのに。
なぜかそれが、ひどく誇らしくてならなかった。 




ーーーーーーーーーー

「クーデター?」
「ええ。国中から、あなたを批判する声が高まり、その中で征伐隊として、レオンハルト様の名前があがっているとか」
「そう…」


ほんの少し、申し訳なく思う。
せめて貴方を追い出した贖罪になればと思い、それなりに頑張ってきたつもりだったが、俺のやり方は駄目だったようだ。
けれど、そんなことよりも。

レオンハルト…レオン。彼は俺のことを、忘れていなかったのだと。
そのことを喜んでしまう自分が確かにいて。
醜い感情しか持ちえない自分自身が、愚かに思えて、仕方なかった。

これはこれで、良かったのかもしれない。


ーーーーーーーーーー

 


「少し、話せるか?」


クーデターの噂が出て、王宮の中がより雰囲気が重くなった頃。

いつになく神妙な顔で、ロイが俺に声をかけてきた。
そういえば、彼とは、俺が風邪でぶっ倒れた時以来だな。

「…前にも言ったが。こう見えて、俺は忙しいんだ。用がないならもう……」
「どうせ、この前みたいに書庫に行くんだろう?俺も、行く」
「どういう風の吹き回しだ?」
「……たまには、お前の手伝いでもしようと思ってな」
 「……。今度は貴方が、風邪でも引いたのか?」
「…っとに。相変わらず失礼なガキだな、お前は」


その、憎まれ口を叩く姿が。
少しだけ、昔の頃に戻ったような気がして。
直ぐに、そんな淡い期待は、心の中で重く押し潰した。

「本当に、書庫に用事があったのか」
「それ以外に何がある?」

ぱらぱらと参考文献に目を通しながら、俺はロイに誰何する。すると、彼は言いにくそうに少し口ごもらせてから。

「…まだ生きているであろうレオンを怪しい魔術で呪い殺そうと研究したりしてる、とか」
「そんな非科学的なことで、あの人を殺すつもりはないさ。そもそも、あの人を殺すんだったら、僕はとっくにあの人に会いに行ってるよ」

 馬鹿馬鹿しい、と呼んでいた本を元に戻す。

「持っていかないのか?」
「国王がわざわさ本を持って行くなんて姿。無学だということが皆に知られてしまうじゃないか」
「…そもそも、誰かに聞けばいいじゃねぇか」
「嫌われ者の王に、そんなことできるわけないじゃないか」
「……本当に、お前は馬鹿だな」
「そうだな。それでも、今は僕が王だから」

そう言った俺は、苦い顔をしたロイに、うまく笑ってやれただろうか?


ーーーーーーーーーー


ある日突然、均衡は崩れ。

遠くで、城門が壊れる音がした。
聞こえるのは、誰かが争いあう、醜い喧噪の音。

「陛下、ご無事ですか!?」

心配そうに俺の部屋に入るフェイスに、俺はにこりと笑いかけてやる。

「とうとう、来たのか?」
「ええ…本当に、あの方が仕掛けてくるとは思いませんでしたよ…」

「レオンハルト…元王位継承者にして、今ではクーデターのリーダー…!」


いつになく厳しい顔をしたフェイスの肩を、俺は優しく叩く。


「フェイス。こうなってしまっては、もう仕方がない。
私が、彼を出迎えるよ」

「なりません…っ!貴方は、私の王です!」

酷く、狼狽した姿で俺の腕に縋りつく。
それは、いつもの物腰柔らかい印象とはまるで違う姿であった。

「……ごめんね、フェイス。君は何も、悪くないから」

だからどうか、君は逃げてと。
お願いしたけど、頑なに首を横に振られてますます腕の力が強くなる。俺よりだいぶ年上なのに、ダメな人だなぁ。


「……フェイス。もう、終わりなんだよ」


愕然とした表情をするフェイスに、申し訳なく思うけれど。
この結果が全てなんだよ、フェイス。

そう伝えてから、ぷすりと、彼に針を刺す。
鋭い痛みに驚いたあと、何か口を開く前に、彼は倒れ伏してしまう。

よく、効いているようだ。

刺したその針ーー強烈な睡眠薬を仕込んだその針を改めて持ち上げて、しばらく見つめたあと。
雑に放り投げ、彼の元から立ち去る。


あの人に、会わなければ。







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