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エトという奴は ウィズ視点
しおりを挟むそいつーーエトという奴は、この学校に来たばかりの頃から、他のクラスメイトと違う雰囲気をしていた。
見た目は地味なのに、雰囲気がどこか固い、というか。周りのことなんか我関せず、というか。
俺たちも含め、教えを受ける先生方に対しても、特別興味がないように見えた。
勉強だけは何故か異様に出来たが、その代わり、肝心の魔法の実技がからっきしで、簡単な魔法すら、まるで出来ていなかった。そんな状態でこの学校に居続けたのは、俺を超える学力に他ならない。
だが、出来ないことを同じクラスの俺らには勿論、先生達にすら頼ろうとせず、いつも1人で何とかしようとしていた。不器用な奴だなぁ、とも思った。
ただ正直、わざわざ手を貸してやりたいとは、到底思えなかった。誰にも興味ありません、みたいなスカしたように見える態度が、気に食わなかったこともあるが。
そもそも。あいつがいなかったら、今年の入学した生徒のなかで、俺が主席を取れていたはずだった。だけど、それは叶わなかった。そのせいで、家族だけでなく家庭教師や使用人にまで、全員をガッカリさせてしまった。
勿論、自分の力不足なのは分かっている。それでと、ソイツが魔法が使えない事実があることで、なんとかへし折れかけてた自分のプライドを保てていた。
だから、話しかけることで何とか俺の方が上だとわからせてやりたかった。それでも、あいつは何を話しかけても、こっちを振り向くことはなかった。
なんだよ、自分の方が上だからって見下しやがって、と。
あの日、あいつに絡んだのは大して意味はなかった。
強いていえば、いつもは無視してくるくせに、この日はイラついているようだった。いつもなら引っかからない言葉にも、不愉快そうに眉をひそめたのを俺は見逃さなかった。
そうだよ、こっち見て話せよ!
そんな調子こいたことをしていたら、想像以上の馬鹿力で吹っ飛ばされた。
本当に、しばらく息ができなかった、と、あとから思い返す。
次に目を覚ました時に目に映ったのは、顔が青を通り越して白くなっていた先生の顔だった。
身体は大丈夫かね?と真剣に心配されたから、大丈夫です、と伝えたら、少しホッとした顔をして。
「怪我は、ちゃんと治せたが。何があったか、話せるか?あの生徒と、何があったのか」
「え、っと。…ちょっと、喧嘩しただけ、です」
「ふむ。……喧嘩、ね」
そういった後、その先生は目を細めて。
「君の怪我は、魔法がなければ、家に送り返さなければならないほどの状態だったが。
それに値するほどの『喧嘩』、だったのか?」
先生の、その言葉が。何故か、ひどく冷たく感じて、背筋にゾッと怖気が走る。
ただ、なんとなくわかる。
俺の言葉で、あいつが、とんでもないことになるかもしれない、と。
俺の家では、たまに。
使用人が、俺の両親や兄弟の機嫌で、いつの間にかいなくなったような、そんな空気。
この先生からも、同じモノが醸し出されていた。
「……ちょっと、言いすぎただけ、です。あいつ、冗談通じないから」
唾をゴクリ、と飲み込んでから。咄嗟に、彼を庇うようなことを口にしていた。いつもはムカついて、仕方の無いあいつに。
ただ、そんな奴相手でも。決定的なことを言ってはいけない。そんな、気がした。
「あの、だから。あいつが謝れば、それでいい、です」
「本当に?それは、君が、本当に、そう考えていることかい?」
「………」
正直言えば、腹が立っていないといえば、嘘になる。痛かったし。元はと言えば、あいつが変なのが悪いし。
でも、それを言ってしまえば。
「ーーはい。俺が、思ったこと、です」
この、冷たい目をした先生に。
あいつが、どこか連れ去られてしまうような。
そんな、嫌な予感が、したのだ。
※ ※ ※ ※ ※
結局。俺の意見が届いて、あいつは俺に謝ったあと、特に何もなく、いつも通りだった。
いや、しばらくしたら、いつの間にか魔法も使えるようになった。
よかったけど、全然良くなかった。
俺が庇ってやったから、お前はここにいられるのに。
あいつは、いつも俺を通り越そうとする。
気に入らない、気に入らない!
でも、今更声をかけるのも、癪に触って。
イライラしながら、あいつのことをじっと見ていた。
どうせあいつは、俺のことなんて、どうも思ってないんだろうから。
そう、思ってたけれど。
どうやら、違ったようだ。
アイツは基本、周りの人間なんて興味がなく、一人でいることが多い。ただ、例外が1人だけ、いる。
ーーロナウド・ケヴィンズ先生だ。
受け持ちのクラスもない、まだ若い先生。愛称のロニ先生、で呼ばれることが多いようだ。
普段は上級生のクラスで教えてるらしく、その人柄をよく知らなかったのだが。あいつ関連で色々あって分からないところを聞いてみれば、細かいところまで丁寧に教えてくれる、良い先生だということが分かった。人嫌いのアイツが懐く気持ちも、わからなくはない。
それに加えて、ロニ先生は最近話すようになった俺にも分かるくらい、エトに甘い。
正直、物好きな先生だなと、最初は思った。
だって、いつものアイツは誰に対しも興味を持たず、ただひたすら勉学に励むガリ勉野郎だ。そのせいで、座学であいつになかなか勝てない。
その代わり、魔力の使い方がド下手くそだ。だから、実技は俺の方が得意だ。……だったのだが。
何故かロニ先生と出会って、秘密の特訓するようになってからは、魔力の使い方が上手くなってきた。正直、いつか追い越されそうな程に思うくらいには、日々上手くなってる、気がする。負けるのが嫌になって、思わず俺がヤケになるくらいには。
けれど、奴のことを出し抜こうとして、あいつの放課後の様子をこっそり覗きみようとすれば。……何故かすぐ気付いて、先を越されてしまう。
しまいには、俺の完璧な追跡を見破り、ガチ切れされた。……もう、怖いし情けないしどうすればいいのか分からなくなって、その場で固まってしまった。
それを助けてくれたのが、やっぱりロ二先生だった。正直、頼りなさそうに見えたけど、無表情氷仮面なアイツを説き伏せ、俺に対して謝罪させた。見かけによらず根性のある先生だ。
つまり、何が言いたいかと言うと。
アイツは、独りにしておくと面倒なことこの上ないが。
ロナウド先生がいれば、まともなやつとして振る舞える。
そんな風に、俺は思ってる。
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