どうか僕のことを、忘れて

あか

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衝突

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「……。そのまま弾けて、《水魔法ウンディーネ》」



桶に佇む狼を水に戻したついでに、ありったけの水量でそのままビシャリと勢いよくウィズに顔面から水をぶつけていく。

「冷た!?いきなり何すんだよ!」
「……なんか、イラッとした」
「だからってなんも言わずに攻撃してくる奴があるか!」
「じゃあもっと静かにして」
「今は俺のターンだったからいいじゃん!」
「知らない。嫌なもんは、いや」
「理不尽!」
「あー、こらこら。とりあえず2人とも、落ち着いてねー?」

ギャーギャーと僕らが口喧嘩してしまっていると、頃合いを見計らって止めに入られた。
お人好しな先生は、さっき僕がぶつけた水で濡れてしまったウィズを風魔法で乾かしてからこちらに向き直り、困ったように眉を下げてから、視線を合わせてきた。

「今のは、傍から見ているとエトが悪く見えちゃうよ。先に手を出すのは、ダメ」
「……知らない。ウィズがうるさいのが、悪い」
「教室ではいつもこっち無視する奴が何言ってんだよ」
「何か嫌だなぁ、と思ったら、まずは話し合いをしなきゃダメだよ。いきなり攻撃したら、そうした人が悪く見られる」
「……」

先生からもお小言を貰って。なんか、面白くなくて、拳を強く握って俯く。
……最近、こんなんばっか。
僕がウィズにつっかかると、こんな風に、先生はウィズの味方ばかりしてくる。
2人でいる時は、そんなことないのに。

「エト。ウィズにごめんなさいしよ?」
「……嫌だ」

せっかく先生が話しかけてくれたのに、胸のムカムカが止まらなくて、視線を逸らしてしまう。こんなんじゃ、僕の方が子供みたいだ。

「いーよ、先生。こんなの、兄貴達とするのに比べたらじゃれ合いみたいなもんだって」

先生も気にしすぎー、と言ってヘラヘラとウィズが何故か仲介してきた。子供のくせに、生意気だ。

「大体、コイツがこんなメンドくせー奴になんの、先生の前だけだから。教室だと何言わせてもされてもスルーするんだから」

だから俺はわりと楽しんでる、とにっかりとイヤらしい笑みでこちらを見てきた。……イヤな奴。そっちが先につっかかってきたくせに。

「……じゃあ、ここに来ないで。邪魔しないで」
「いいじゃん、居残りして勉強すれば?って言ったのはお前だし」
「1人でやればいいでしょ」
「毎日は来てねーじゃねぇか。むしろそのことに感謝してほしいくらいだけど?」
「じゃあ改めて。もう二度と先生に教えを請わないで」
「ヤだよロニ先生の説明分かりやすいし」
「あー、待って待って!2人とも、喧嘩の続きしないの!」

お互い言い合いになれば、先生また間に入って、慌てて制止してくる。

「してない」
「大丈夫だよ、ただのコミュニケーション、ってヤツ」
「えっと、うーん……」

先生は困った顔するし。
それにウィズは、悪巧みを考えてるかのようにほくそ笑む。

……はぁ。もう、ヤだ。


「……帰る」
「エト?」
「さよなら」

戸惑う先生の声が聞こえたけど、知らない。

僕は俯いたまま、そのまま駆け出して、教室から出ていった。

今はアイツとも、先生とも。
一緒に、いたくなんかなかった。






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