どうか僕のことを、忘れて

話してみる

それは、いいんだけど。


「エトは紅茶で、ウィズはココア、でよかったかな？」
「……」
「まあ、それで」
「じゃあ、ちょっと待ってて！あ、あとお菓子も色々用意してくるね」

とか言って、初めて来る先生の部屋に、あの子供と一緒に残らせて、どこかへ行ってしまった。
正直、困る。早く帰ってきてくれないかな。
というか。

ちらり、と隣でそっぽ向いたままぶすくれる子供の表情を盗み見しながら、つらつら思う。


……なんで、先生はこの部屋に、この子供も呼んだんだろうか。
先生は、この子と初対面なのに。
僕が、先生と先に仲良くなったのに。
なんか。なんか、嫌だ。

なんて、今までにない、よくわからない思考にモヤモヤしていれば。




「……変な奴。いつもは、涼しい顔してるくせに」


そう言って、子供がこっちに話しかけてきた。
いつも思うけど、急になんなんだ。
でも、今は先生を待ってるから。いつもみたいに気にしないふりをするわけには行かない。気がする。


「涼しいって、なに？」
「何も面白いことありませーん、みたいな？」
「……まあ、そうだね」
「そうだねって、なんだよ……」

それは僕が言いたい。
でも、この子供には、きっと理解できないだろうな。

「……視線がうるさいのは、困ってる」
「どういう意味だよ、それ」
「……魔法が出来ない時も、困ったけど。出来るようになったらなったで、視線がうるさい。それが、嫌」
「……」

今までで、1番子供と喋った気がするなぁ。なんて、思ってたら。

「お前さぁ。ひとりで、つまんなくねぇの？」
「……つまんないって？」
「教室でも、誰ともつるまねぇし、つまんなそうだし。せっかく魔法も出来るようになったなら、他の奴と喋ればいいのに」

言ってる意味がわからない。
別に、つまらなくはないんだけど。関わりたくないだけで。

「……。子供は、嫌い」
「いやお前も子供だろ」


それ、先生も言ってた気がする。
子供、子供か。まあ、確かに僕と体格は似てる、けど。


「……子供は。遠慮なく、僕に近づくくせに、ちょっとでも力加減間違えると、すぐ泣いて、怪我して、大人を呼ぶ。そしたら、僕を住まわせてくれた人が、いつも謝って、困ってた」


だから、子供は、嫌い。

そう、言葉を終えると。

隣からは、しばらく沈黙が続いた。




「ーーごめん」

唐突に、謝られた。
ずっと視線がうるさいのが困るって、分かってくれたのかな？

「いいよ、別に。だから、もうーー」

もう、俺に話しかけてこないで。
そう、言おうとしたけど。それより前に、子供が言葉を被せてきた。

「……っ、俺、は！すっげえ、悔しかったんだ！！」
「……何が？」
「俺、この学校に入るまで、すげぇいっぱい、勉強して！1番になれるように、頑張ったのに。
お前が、俺の邪魔したから！」
「……ええ、っと」


なんの話？