どうか僕のことを、忘れて

あか

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疲れる悩み

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魔法が、うまくいくようになって。あの小さな部屋の中での、肩身の狭い思いは薄れていったけれど。今度は、別のことでそわそわしてしまうようになった。

部屋の中の子供たちの好奇な視線が、前よりも多く俺に注がれるようになった気がする。だから、僕は話しかけられる前に、その場を離れるか、寝たふりをすることにした。今まで向けられたことのない視線が、なんとなく気になって、困ってしまうのだ。
街でよくされてた嫌なものとは、違う、と思う。それでも、やっぱり。よくわからないモノの視線は、何度注がれても、慣れることはなかった。そしてそれは、居残り練習にも影響が出るようになった。


「……」
「今日は、うまくいかないねぇ」

まあ、そんな日もあるよ、と優しく頭を撫でてくれるけど。原因はわかりきってるけど、どうすればいいかわからなくなっていた。

「……疲れた」
「おや、珍しいね。君が弱音吐くなんて」

何か悩みでもあるのかい?と聞かれて、首を横に振る。悩みというよりは、なんというか……。

「……集中できない、というか。視線が、うるさい」
「というと?」
「前より、みんなから見られていて」
「どうして?魔法は、うまくいくようになったんじゃないの?」
「……なんか、話しかけられそうになってて」
「うんうん」
「それが嫌で、寝たふりしてる」
「うーん……どうして、嫌なの?」
「…………」

そこまで聞かれて、僕は黙ってしまった。

どう、言えばいいのか分からない。
昔、子供に関わって、その子に怪我させたら、いっぱい迷惑かけてしまったからだって。しかも、それをまたここでも繰り返してしまったから、もう関わりたくないんだって。正直に、言えばいい?


……でも、この人には。

冷たい顔、されたくないなぁ。




「……。まあ、言いたくないことも、あるよね」

いっぱい聞いてごめんね、と。俯いたまま、黙り込んでしまった僕に謝って、また頭を撫でてくれた。
僕も、ごめんなさい、と。心の中で、謝る。


「……ロニ先生」
「んー?」
「…………。なんでも、ない」


また、ロニ先生の匂い、嗅ぎたい。

なんて、言えなかった。


だって、そんなの。
出会ったばかりのこの人には、迷惑だから。



顔が見れなくて、俯いていれば。

「こーら。そんな顔、しないの」

また、頭の上に、優しい温度と重さがのっかかる。
顔を上げてみれば、俺を見つめて優しく微笑んでくれる。なんというか、木々の間から降ってくる優しい光、みたいな。


「言いにくいことは、無理に言わなくていいよ。でも、今みたいに、しんどい時は、しんどいっていってね。それだけでも、君のことをわかってあげられる気がするから」


柔らかな、この人の声音と、僕にかけてくれる優しい言葉に。
ほんの少し、心が落ち着く、ような気がする。


「……先生」
「ん。なーに?」
「……もう1回。魔法、練習するから、見て」
「ふふ。勿論、いいよ」


机に置かれた、空っぽのランプを、もう一度とってから、優しく唱える。


「ーー《炎魔法ファイア》」


今度こそ、その中に。
小さなあかりが、灯るように。









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