どうか僕のことを、忘れて

あか

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初めて

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先生の笑顔に見惚れてしまった瞬間、羽根はまたへにゃっと、机の上にまた戻ってしまったけど。ずっと動かせなかった僕にとっては、やっと動き出せた大きな一歩だった。

これでやっと、他のみんなと同じスタートラインに立てたのだから。

これで、ここから追い出さなくてすむ。

これで、やっとーー。



「……僕、ちゃんとした魔法使い、なれるんだ……」

「なれるさ。ちゃんと」


先生の突然の言葉に驚き、そちらの方に向くと、彼は優しく笑みを浮かべながら、僕に視線を合わせるように屈んでくれる。


「今の様子を見てるだけでも、わかるよ。君は真面目で、素直で。だから、コツを教えたらすぐモノに出来た」

……なんだろう。多分、僕のこと、良く言ってくれてるん、だと思う。
真正面からそう言ってくれる人は、初めてで。
お腹の中がむず痒いような、変な気持ち。勿論、嫌じゃないけど。
なんか、なんか、くすぐったい、ような。


そんな風に、僕が初めての気持ちに戸惑っていると、また先生が声をかけてくれる。




「そうだ。あの時も言ったけど、もう1回自己紹介するね。
ボクは、ロナウド・ケヴィンズ。この学校の、先生の1人だよ」
「……」
「君はエスペラント・レトランジェくん、だよね?あの後、他の先生方に聞いたよ」
「……そう、ですか」
「素敵な名前だね。君のことは、どう呼べばいい?」

これも初めて聞かれたことなので、どう答えればいいのか、分からない。そもそも、おじさん以外でこんなにまともに人と喋るのは、初めてかもしれない。
それも、こんな風に優しくしてくれることも。


「……おじさんは、エトって呼んでた」
「エト、かぁ。素敵な響きだね!ボクも、君のことをそう呼んでもいい?」
「……あなたが、それでいいなら」
「ふふ、ありがとう!君は優しい子だね」
「……えっ、と」

僕は、いつも通りだ。
それを優しいと言うのなら、あなたが僕に優しく話してくれるからだ、なんて、言ってしまいたかったけど。
せっかく笑ってくれたのに、また困った顔をされるのは嫌で。だけど、じゃあどんな風に返せばいいかわからなくて。
何も言えずに、固まることしか出来なかった。


「ね、ボクのこと、ロニって呼んで?こっちの方なら、覚えやすいかな」
「……」
思わぬ提案に、今度こそびっくりしすぎて何も言えなくなってしまった。

「……なんか、ごめんね?いきなり話したことがあんまりない人に言われても、困っちゃう、よね」
「ち、違う!そうじゃ、なくて……」

そう、謝られて。寂しそうな笑顔になってしまった先生に、僕は慌てて否定する。また、そんな顔させちゃった。

「……初めて、言われたから」
「え?」
「呼んでって、言ってもらえたの。初めてで、びっくりした」

そんな顔させて、ごめんなさい。

そこまで言おうとして、急に頭を押さえられる。
いや、それにしては、力が優しい。
なんというか、軽いというか、むしろ気持ちいい……気がする。

見上げてみれば、彼は怒った顔じゃなかったけれど。笑ってるような、困ったような。何だか、複雑そうな顔だった。


「……なら、ボクは君の初めての人かな?それはそれで、嬉しいかも。
ーーね、ボクの名前を呼んでみて?」

「……ロニ、先生?」


そう、呼んでみれば。彼はとても、嬉しそうに微笑んでくれたのだった。










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