どうか僕のことを、忘れて

あか

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その空の色は

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「逃げて、早く!!」

「へ、え?」


まだ魔物たちの足音に気付いてないのか、目を白黒するその人には背を向けて、僕は近くの石を拾って、先生とは反対方向に向かって石を投げる。

石が落ちた方向に気配が寄って行ったのを確認してから、僕は先生の手を掴む。

「ちょ、君!?」
「今のうちに、早く!」

考える暇を与えず、ひたすらその人の手を引っ張ってく。
力の加減とかは知らない。
この人をちゃんと、返さなきゃ。

それだけ考えて、ひたすら前を走っていると。







「……って、待ってってば!

うーん、聞こえてないよね、コレ……。
よし。



ーー僕らを抱えて、《風魔法ウィンド》!」


「!?」

いきなり足元から巻き上げられる風に、思わずバランスを崩してそのまま転けそうになったところを。
そのまま、腰から引き寄せられて抱きかかえられてしまった。


「ダメ、離して!早く逃げないと、魔物に襲われてっ」
「大丈夫だいじょうぶ。ね、落ち着いて。
……ほら、下を見てごらん」

全力で逃げ出そうとする僕を上手いこと抱きしめて、掴んだ腕はそのままに、肩を優しく叩いてくれる。
こんな状況にも関わらず、彼が僕にかける言葉は落ち着いたものだから、大人しく言われた通りに下を見てみると。










「ーーーえ?」


そこには、さっきまで居たはずの森が、いつの間にか小さく見えて。
周りを見渡せば、僕らは森の上空に浮かんでいた。


「え、え……なんで?」
「言ったでしょ?ボクは、君の学校の先生だよって。だから魔法を使うのだって、お茶の子さいさいだよ」


可愛い反応だなぁ、とケラケラ笑い出すその人に呆気にとられて。

逃げ出そうともがいていた身体の力を、素直に抜いた。
頑丈な僕の身体でも、森の中にあるあんな大きな木よりも高い場所から落ちてしまえば、さすがに怪我してしまうだろう。

「ボクのことを助けようとしてくれたんだよね。ありがとう。
でも、あのまま進んだら奥に入り込んでしまって、もっと危ないことになるから。気持ちは嬉しかったよ」

そう言ってからもう一度、彼はありがとう、と言ってくれて、僕を抱きしめ直してくれた。
誰かにこうされたのは、いつぶりだろうか。
……小さい頃に、おじさんの布団に潜り込んだ時にしてもらった時以来、だろうか。

「……」

先生の背中越しに、空を見つめる。
日はだいぶ傾いていて、目の前には夕焼けが広がっていた。
今までにも、勿論見たことがあったはずの景色なのに。
茜色に染まるその色が、やけに鮮やかに見えて。


今まで見た空の中でいちばん、綺麗に見えた。





「……僕、悪いことしちゃった」
「なにが?」
「子供、力いっぱい突き飛ばしちゃった。……怪我させちゃった、と思う」
「君も子供なのに、変なこと言うね。まあでも、回復術が得意な先生がいるし。多少なら、大丈夫だよ」
「そう、かな」
「うん、そうだよ。……でも、後でごめんなさいはしようね。痛かっただろうから」
「……うん」


本当は、話すつもりはなかったけれど。
空が綺麗だから、思わず言葉にしてしまったことを、彼は優しく受け止めて、応えてくれた。
彼の腕の中は、とても温かくて。
時折僕の頬に当たる、ふわふわした髪の毛は擽ったくて、だけど案外心地よかった。
なんとなくその首元に鼻を寄せてみる。日向に干した布団と同じ、いい匂いがした。



ーークルル。クルルルルル。


「? 今の音は……」

不思議そうに、辺りを見回すその人の声を聴きながら。
不意に降りてきた眠気に、意識が微睡んでいく。


クルルル。クルルル。


自分のどこからかする、その音と、彼の優しい匂いに包まれながら。

僕は、いつぶりかの眠気に、意識を囚われていったーー。




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