どうか僕のことを、忘れて

あか

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新しい場所

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新しい場所での生活は、淡々と進んでいった。

驚いたのは、周りにいっぱい人がいることだ。教えられた部屋に向かうと、僕と同じくらいの年の子供たちがいた。買い出しの時に街の人と顔を合わせることはあったが、大人ばかりだった。それに、基本的にはおじさんが対応してくれたので、喋ることも少なかった。
彼らとは何を話せばいいか分からなかったので、とりあえず距離をとって様子を見ることにした。たまに話しかけられたりちょっかいもかけられたが、よくわからなかったので適当に頷いたりしてみた。とはいえ、1人でいることの方が多かった。


また、知らない大人の人が何人も入れ代わり立ち代わり部屋に入ってきては、黒い板のようなものに文字を書いて説明して行った。そういう大人を先生、というらしかった。
先生たちが話してくれることは、勉強したこともあれば、知らないこともあったため、とりあえず貰ったノートに書き込んで知識に溜め込んでいく。
たまに、実技だと言って知識の披露するための時間もあった。運動や実験は問題なかった。元々、家では力仕事をすることもあったし、実験は教えられた通りやれば上手くできるのでよかった。


問題は、魔法の披露だった。

魔法で、火や水、風を扱えることは知っていた。けれど、僕自身が使えるかどうかは分からなかった。おじさんが使うところも、僕は見た事がなかった。ただ、本は貰っていたので、とりあえず勉強だけはした。だから、先生からの質問には問題なく答えられた。
けれど、実際に出そうとするとテンでダメだった。
呪文は完璧だけど、空のコップから水が増えることは無かったし、たき火をつけることも出来なかったし、羽根はピクリとも動かせなかった。
魔法の先生の顔が、だんだん固まっていくのがわかったけれど、どうすることも出来なかった。


部屋の中で、毎日空のコップに水がたまるように呪文を唱えてみた。でも、何十回も、何百回やってもダメだった。




「他の学問は優秀なのに、よりにもよって魔法だけ使えないとは」
「テストは問題なかったが、ここまで魔法が開花してない子供はこれ以上おけないのではないか」


……なんて、たまたま通った部屋から、そんな声も聞こえた。

困ったな。
おじさんに置いてかれた僕に、帰る場所なんてないのに。

その日から回数を増やして、毎日千回以上、呪文を唱えることにした。



それでも、空のコップはそのままだし、木の枝に火がつくことは無いし、羽根はピクリとも動かなかった。
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