2 / 22
新しい場所
しおりを挟む
新しい場所での生活は、淡々と進んでいった。
驚いたのは、周りにいっぱい人がいることだ。教えられた部屋に向かうと、僕と同じくらいの年の子供たちがいた。買い出しの時に街の人と顔を合わせることはあったが、大人ばかりだった。それに、基本的にはおじさんが対応してくれたので、喋ることも少なかった。
彼らとは何を話せばいいか分からなかったので、とりあえず距離をとって様子を見ることにした。たまに話しかけられたりちょっかいもかけられたが、よくわからなかったので適当に頷いたりしてみた。とはいえ、1人でいることの方が多かった。
また、知らない大人の人が何人も入れ代わり立ち代わり部屋に入ってきては、黒い板のようなものに文字を書いて説明して行った。そういう大人を先生、というらしかった。
先生たちが話してくれることは、勉強したこともあれば、知らないこともあったため、とりあえず貰ったノートに書き込んで知識に溜め込んでいく。
たまに、実技だと言って知識の披露するための時間もあった。運動や実験は問題なかった。元々、家では力仕事をすることもあったし、実験は教えられた通りやれば上手くできるのでよかった。
問題は、魔法の披露だった。
魔法で、火や水、風を扱えることは知っていた。けれど、僕自身が使えるかどうかは分からなかった。おじさんが使うところも、僕は見た事がなかった。ただ、本は貰っていたので、とりあえず勉強だけはした。だから、先生からの質問には問題なく答えられた。
けれど、実際に出そうとするとテンでダメだった。
呪文は完璧だけど、空のコップから水が増えることは無かったし、たき火をつけることも出来なかったし、羽根はピクリとも動かせなかった。
魔法の先生の顔が、だんだん固まっていくのがわかったけれど、どうすることも出来なかった。
部屋の中で、毎日空のコップに水がたまるように呪文を唱えてみた。でも、何十回も、何百回やってもダメだった。
「他の学問は優秀なのに、よりにもよって魔法だけ使えないとは」
「テストは問題なかったが、ここまで魔法が開花してない子供はこれ以上おけないのではないか」
……なんて、たまたま通った部屋から、そんな声も聞こえた。
困ったな。
おじさんに置いてかれた僕に、帰る場所なんてないのに。
その日から回数を増やして、毎日千回以上、呪文を唱えることにした。
それでも、空のコップはそのままだし、木の枝に火がつくことは無いし、羽根はピクリとも動かなかった。
驚いたのは、周りにいっぱい人がいることだ。教えられた部屋に向かうと、僕と同じくらいの年の子供たちがいた。買い出しの時に街の人と顔を合わせることはあったが、大人ばかりだった。それに、基本的にはおじさんが対応してくれたので、喋ることも少なかった。
彼らとは何を話せばいいか分からなかったので、とりあえず距離をとって様子を見ることにした。たまに話しかけられたりちょっかいもかけられたが、よくわからなかったので適当に頷いたりしてみた。とはいえ、1人でいることの方が多かった。
また、知らない大人の人が何人も入れ代わり立ち代わり部屋に入ってきては、黒い板のようなものに文字を書いて説明して行った。そういう大人を先生、というらしかった。
先生たちが話してくれることは、勉強したこともあれば、知らないこともあったため、とりあえず貰ったノートに書き込んで知識に溜め込んでいく。
たまに、実技だと言って知識の披露するための時間もあった。運動や実験は問題なかった。元々、家では力仕事をすることもあったし、実験は教えられた通りやれば上手くできるのでよかった。
問題は、魔法の披露だった。
魔法で、火や水、風を扱えることは知っていた。けれど、僕自身が使えるかどうかは分からなかった。おじさんが使うところも、僕は見た事がなかった。ただ、本は貰っていたので、とりあえず勉強だけはした。だから、先生からの質問には問題なく答えられた。
けれど、実際に出そうとするとテンでダメだった。
呪文は完璧だけど、空のコップから水が増えることは無かったし、たき火をつけることも出来なかったし、羽根はピクリとも動かせなかった。
魔法の先生の顔が、だんだん固まっていくのがわかったけれど、どうすることも出来なかった。
部屋の中で、毎日空のコップに水がたまるように呪文を唱えてみた。でも、何十回も、何百回やってもダメだった。
「他の学問は優秀なのに、よりにもよって魔法だけ使えないとは」
「テストは問題なかったが、ここまで魔法が開花してない子供はこれ以上おけないのではないか」
……なんて、たまたま通った部屋から、そんな声も聞こえた。
困ったな。
おじさんに置いてかれた僕に、帰る場所なんてないのに。
その日から回数を増やして、毎日千回以上、呪文を唱えることにした。
それでも、空のコップはそのままだし、木の枝に火がつくことは無いし、羽根はピクリとも動かなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結


楓の散る前に。
星未めう
BL
病弱な僕と働き者の弟。でも、血は繋がってない。
甘やかしたい、甘やかされてはいけない。
1人にしたくない、1人にならなくちゃいけない。
愛したい、愛されてはいけない。
はじめまして、星見めうと申します。普段は二次創作で活動しておりますが、このたび一次創作を始めるにあたってこちらのサイトを使用させていただくことになりました。話の中に体調不良表現が多く含まれます。嘔吐等も出てくると思うので苦手な方はプラウザバックよろしくお願いします。
ゆっくりゆるゆる更新になるかと思われます。ちょくちょくネタ等呟くかもしれないTwitterを貼っておきます。
星見めう https://twitter.com/hoshimimeu_00
普段は二次垢におりますのでもしご興味がありましたらその垢にリンクあります。
お気に入り、しおり、感想等ありがとうございます!ゆっくり更新ですが、これからもよろしくお願いします(*´˘`*)♡

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。
夜のトラフグ
BL
シエル・クラウザーはとある事情から、大貴族の主催するパーティーに出席していた。とはいえ歴史ある貴族や有名な豪商ばかりのパーティーは、ただの平民にすぎないシエルにとって居心地が悪い。
しかしそんなとき、ふいに視界に見覚えのある顔が見えた。
(……あれは……アステオ公子?)
シエルが通う学園の、鼻持ちならないクラスメイト。普段はシエルが学園で数少ない平民であることを馬鹿にしてくるやつだが、何だか今日は様子がおかしい。
(………具合が、悪いのか?)
見かねて手を貸したシエル。すると翌日から、その大貴族がなにかと付きまとってくるようになってーー。
魔法の得意な平民×ツンデレ貴族
※同名義でムーンライトノベルズ様でも後追い更新をしています。

光と闇の子
時雨
BL
テオは生まれる前から愛されていた。精霊族はめったに自分で身籠らない、魔族は自分の子供には名前を付けない。しかしテオは違った。精霊族の女王である母が自らの体で産んだ子供、魔族の父が知恵を絞ってつけた名前。だがある日、「テオ」は消えた。
レイは生まれた瞬間から嫌われていた。最初は魔族の象徴である黒髪だからと精霊族に忌み嫌われ、森の中に捨てられた。そしてそれは、彼が魔界に行っても変わらなかった。半魔族だから、純血種ではないからと、蔑まれ続けた。だから、彼は目立たずに強くなっていった。
人々は知らない、「テオ」が「レイ」であると。自ら親との縁の糸を絶ったテオは、誰も信じない「レイ」になった。
だが、それでも、レイはただ一人を信じ続けた。信じてみようと思ったのだ。
BL展開は多分だいぶ後になると思います。主人公はレイ(テオ)、攻めは従者のカイルです。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる