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27. side.???
しおりを挟む「……仲直りして欲しいよなぁ」
「分かる。桜花は正直羨ましかったけどさぁ、良いコンビだなって思っちゃってたし……なんか、寂しいよな」
「俺のホワホワが……」
ボソボソと小さく囁き合い、ため息を吐く友人達。そんな彼らを横目に、俺は件のクラスメイトをチラリと一瞥した。
自分の席にポツンと座り、ぼんやりと何処かを見つめている佐野君。端末を弄るでもなく、窓の外を眺めるでもなく、ただ虚空に視線をやる彼は、誰の目にだって「空虚」に映った。
仲良しな彼等が喧嘩(暫定)をしてからというもの、彼はずっとこんな感じだ。誰かが話しかけない限り動くこともせず。
「いよいよ明日かぁ。歓迎会。……桜花、勝てると思う?」
「無理無理。あいつの体育の授業絶望的だったじゃん」
「……佐野様は運動神経抜群っていうね……」
佐野様、と呟く彼は本人に無許可で作られた非公認親衛隊の会員だ。ちなみに会員番号は「0005」。最古参である。
いずれは本人公認を目指すらしいが、本人の性格的にその道のりは険しいだろう。
「それに、桜花が佐野様から離れて『好都合だ』と思ってる奴の方がA組以外には多いから……絶対邪魔されるぜ。下手したら桜花襲われそう」
「「それな」」
ピクリと身動ぎした佐野君から視線を逸らし、俺も友人達の会話に参戦する。気配に敏感過ぎるのも考えものだ。
「親衛隊としては、桜花が彼の『良い友人』だと認識してる。制裁をするつもりはない。でも隊長の意向でにわかは隊員になれないから……ソイツらが何をするか」
「……成程な。つまり制御しようがないと」
「Yes」
ダメダメじゃねぇか。なんの為の親衛隊だ。まぁ親衛隊がちゃんと理解ある奴らの集まりなら良い事だけれども。
露骨に呆れた顔をしてしまったのだろう。友人はプリプリ怒って頬を膨らませた。
「なんだよ、ヤバイのはどっちかって言うと桜花じゃなくて、佐野様なんだからな」
「は?なんで」
「F組トップが佐野様に接触した」
「……は、」
おいおい。嘘だろ。
俺は慌てて端末を弄り、主人にメッセを飛ばす。すると即座に『どういう事だ』と返ってくるのだから彼の保護者っぷりは素晴らしい。
俺も目の前の友人を見つめ、続きを促す。他の友人達も事の深刻さを理解しているからか、先程よりも余っ程真面目な顔をしている。
より一層身を縮めて1つの机に張り付く俺達は、さぞかし気持ち悪かろう。
「詳しい話までは聞けなかったらしい。盗み聞きしてるのがバレたらそいつが殺されかねないし。でも、少なくとも友好的な風には見えなかったって」
「……それ、把握してる人はいるのか」
「その後佐野様は紅林様の茶室に行ったから、紅林様に報告してるかも………………してると思う?」
「してないと思う」
「してないと思うわ」
「………………だよなぁ」
佐野君がそう簡単に周りに頼るタイプには思えないので。
頭を抱えて息を吐く友人は、「それが親衛隊の総意です」と呟いて机に突っ伏してしまった。俺は彼のふさふさの癖毛をワシワシ撫でつつも思案する。
佐野君が相当な「実力者」である事は知っている。ーーけれど。
F組のトップーー否、「中立派」のトップの頭のおかしさは異常なのだ。「彼に認識されるな認識されれば逆らうな」とは帝華学園の暗黙のルール。逆らったが最後、ソイツの社会的な尊厳は完膚なきまでに潰される。
自分の思い通りに生徒達を動かして、思い通りの結末を迎える事を楽しむ彼は、狙いを定めた生徒が自分の思い通りにならない事を許さない。
あるいは部下に襲撃させて、あるいは自身が出向いて脅して、その生徒を自由に動かすのだ。
何故かそれは恋愛方面に偏っているが、なんにせよ害悪なことに変わりはない。実際彼が黒幕であろう、と思われるレイプ事件やリンチ事件などが後を絶たないのだから。ーーそれも、風紀の監視をすり抜けた完全犯罪。
彼が佐野君に接触したということはつまり。
佐野君が彼の思い通りにならなかったという事に他ならない。
「風紀は?」
「今委員長に連絡してる。お前は?」
「もう連絡済み。会長親衛隊も動かすって」
「おっ、委員長返事はや……風紀の監視も付けるって」
風紀委員の友人が委員長のメッセを見せてくる。
流石佐野君。「ABYSS」はおろか「Noah」のトップをも動かすとは。まぁ並の襲撃なら彼一人で何とか出来そうなものだけれど。……いや、あの痩せ方なら、危ないかも。
外野の慌てっぷりとは反対に、ボケーッと遠くを眺める佐野君。いや手首ほっそ。食えよもっと。紅林様は何をしとるんだ。
「……委員長は?」
「委員長は桜花と一緒に無視されてしょげてる」
「巻き込まれ事故で草」
「くさって何?」
「うるせぇ」
「なんで?」
机に突っ伏した友人の上に寝そべった友人を鼻で笑う友人。良い関係性だ。
「委員長の親衛隊は桜花の味方するって。桜花の運動神経を上げることは諦めて佐野様の妨害に徹するらしい」
「賢明な判断だな。じゃあ委員長の親衛隊もF妨害に使えるんじゃね?」
「いや、あんまり『こっち』が知ってるっていう情報が流れたら不味い。対策される」
「それもそっかぁ」
通知音と共に『会計にさっさと捕まえさせる』というメッセージが流れ、苦笑する。あの会計様にかかれば流石の佐野君も型なしだろう。ーーというか、大体のF組は倒せるだろう。なんなら心配すべきはF組の命だ。
優しい俺は彼等の命を慮って主人にメッセージを送る。
『せめて副会長様では……会計様加減って言葉を知らないじゃないですか』
『副会長は司会進行があるから無理だ』
『じゃあ書記様』
『書記は駄目だろ』
『ですね。俺が悪かったです。庶務様方の間違いでした』
『庶務は親衛隊が過激すぎる』
そうでした。
……生徒会問題児多すぎ。
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