佐野国春の受難。

千花 夜

文字の大きさ
上 下
16 / 29

15. side.紅林 桃李

しおりを挟む





『うるさいです』
『明日は多分行かないです』
『あのお菓子なら、もうちょっと苦い方が有難いです』


 消灯後。
 随分前に送ったメッセージの返事が律儀に帰ってくるのを見つめ、俺は頬を緩めた。
 こういう、先輩の言葉を無視できないところがいじらしくて可愛いと思う。

 茶室での彼の様子を思い出しながら『了解』『次はまた違うお菓子で出すよ。楽しみにしてて』『ところで好きなタイプ何?』と素早い手つきで即レスする。
 あ、既読無視だ。……こういう、思い切りのいいところも可愛いと思う。

 端末を見つめたままニヤニヤしていると、「中立派」の仲間達が恐ろしいものを見るような目で俺を見て徐々に距離を取り始めた。失礼な。


「ーー機嫌良さそうだね~」


 向かいのソファから、男にしては高めの声が聞こえてくる。


「ふふ、国春君と連絡先交換したんだ。既読無視なんかしちゃって可愛いなぁ……」
「わぁ。トーリを無視するってすごいねぇくにはるくん。どうだった?中立派、入ってくれるって?」
「いや、保留」

「は?」
 
 
 ザァッと部屋の中に広がる殺気に、集まっていた雑魚共が次々に逃げ出していく。中には気絶する奴もいて。

 弱い奴がなんで此処にいるんだろう。殺しちゃっていいかな。ーーあぁダメだ。父上から殺しは禁止されてるんだった。
 雑魚を殺すことはとりあえず諦めて、明らかに不機嫌になった目の前の男に視線を移す。

 僅かな月明かりしか入ってこない真っ暗な室内では、表情を伺うことは出来ない。最も、興味があるかと言われれば全くないし、どうせわざとらしい笑顔を浮かべていることくらい予想できる。

 とりあえず気休めに国春君のメッセージにスタ爆をしつつ、ニコリと微笑んでみせる。
 目の前の男(予想)とは違って作り物には見えない、感情を上乗せした笑顔。これもまた、殺人の技術と共に地獄のような裏切りとその粛清を経て手に入れたものだ。


「なんでぇ?おれ、くにはるくん中立派に入れろって言わなかったっけ~?あれ?トーリ、俺に逆らうの~?ねぇなんでぇ?酷い~~」
「だって好きになっちゃったんだもの」
「………………ぇえ?今の、聞き間違い?トーリ、好きになったって言った?」
「言ったね」
「それは話変わる。詳しく」


 入学式で見た時点で、好みのタイプだと思った。

 周囲からの関心も好意も、全てがどうでもいいと言わんばかりの生意気な目。如何にも栄養が足りてなさそうな細身の体躯に青白い顔。
 ぐちゃぐちゃに壊して、自分好みに作り上げて小さな茶室に置いておけたら、さぞかし楽しいだろうって。

 それで、たまたま彼が前からウザかった警備員に絡まれていたから。


「……そしたらさ、物凄く可愛くて」
「ほう」
「猫みたいに警戒してるのに、俺が出すお茶とお菓子はパクパク食べるんだ。俺がちょっと優しくしたら期待したような目しちゃってね、もうゾクゾクするったら」


 彼が、なんの疑いも持たずに自分に擦り寄ってくるようになったら。それは彼を壊すよりもよっぽど素晴らしい快楽を俺にもたらすだろうと確信した。
 だから、中立派の勧誘(強制)をやめることにしたのだ。


「追い詰められて追い詰められて、その果てに俺のところに来た方が……よっぽど、楽しみが増える」
「…………ぇええ~それおれの前でやってよ~つまんないよ~おれ蚊帳の外じゃあん」
「なんで俺がお前に気を遣わないといけないの?」
「うぇえええん!!!酷いぃい~」


 嘘っぱちの泣きべそをかく男を冷めた目で見つめ、息を吐く。このに何を言っても無駄だ。

 とはいえ、俺の恋路をされるのだけは困る。警戒心の高い子猫のような彼は、自分に害が及ぶと分かった瞬間に俺から離れてしまうだろう。
 それで生徒会や風紀のクソに取られるなんて事があってみろ。俺は全勢力を費やして目の前の男を殺す。


「ねぇねぇ~じゃあさぁ俺が部下こいつら使ってくにはるくんマワすからさぁ~人間不信になったところをトーリが手に入れるってのはど~?そっちの方が面白いし興奮する~」
「無理。多分国春君、そこそこ強いし。少なくともFの雑魚よりは使えるんじゃないかな」

「…………へぇ~……好物~そういう


 お、食い付いた。


「頼むからさ、邪魔しないでよ。本当に殺すよ」
「ぇ~……でもつまんない~!!せっかくこの学園にBL求めてきたんだからさぁ~?俺の好きに動かして好きな展開にしても良くねぇ~?」
「俺も国春君もお前の玩具じゃねえんだよ」


 本当に、こいつがただの雑魚だったら速攻で殺してるのに。国春君の処女は俺が頂くって決まってるんだよ誰が雑魚共に渡すか。
 ちなみに国春君が既に処女じゃなかった場合、俺が茶室で強姦上塗りする。

 ぽろん、と言う通知音と共に『ブロックすんぞ』という愛想のないメッセージが出現するのを見つめ、穏やかに微笑む。そして、永久にスタ爆を続けていた指を画面から離した。
 目の前の男が身を乗り出して覗き込んでくるが、何もしないようなのでそのままにさせておく。

 
「処女か聞いといたら~?」
「へぇ、お前もたまにはいいこと言えるんだ」
「でしょ~~?」


 すぐさま『国春君って処女?』と打ち込んだ。直ぐに既読が付いて、『俺男です』と帰ってくる。

 俺は満面の笑みを浮かべた。

 処女確定。圧倒的感謝。





 国春君はもう寝たのだろう。いよいよ既読がつかなくなったので俺はメッセージを送るのをやめ、ぶらぶらと外を歩く。
 あんなサイコパス野郎とずっと一緒にいるなんて息が詰まる。マジでその内殺してしまう。

 しかし、あれで「中立派」のトップなんだからもう、どうしようもない。国春君、是非とも明日も茶室に来て俺を癒して欲しい。



 脳内で100回ほどサイコパスを銃殺したところで。



 人の気配を敏感に感じ取った俺は足を止め、くるりと振り返った。そして、数メートル先に立ってこちらを見つめる人影に微笑みかける。


「……やぁ、君と会うなんて今日は夜から悪運続きだなぁ。お疲れ様。仕事終わりかい?」
「……」
「ふふ。どうしたのかな、汚物でも見るような目をして。


 ねぇ殿


  殺すぞ。くそゴミ野郎。


 


 





しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

転生先がBLの世界とか…俺、聞いてないんですけどぉ〜?

彩ノ華
BL
何も知らないままBLの世界へと転生させられた主人公…。 彼の言動によって知らないうちに皆の好感度を爆上げしていってしまう…。 主人公総受けの話です!((ちなみに無自覚…

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

眠り姫

虹月
BL
 そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。  ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。

処理中です...