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異世界に召喚された日
第一印象・恐ろしい人
しおりを挟む「おい」
「あ? 誰……っひ、ひぃ?!」
騎士は後ろから掛けられた声に振り返った瞬間、突然姿勢を正して悲鳴のような声を上げた。
驚きつま先に落としていた視線をほんの少しだけ上げれば、ふらふらとよろける騎士に、ほんの少しだけこちらも後退する。
「れれっレイク副団長?! どうしてこんな場所に……!」
「…………貴様、その女はなんだ?」
ガクガク震え、敬礼のポーズのまま裏返った声で返事をする騎士に困惑するばかりだ。
それでも、ちょっとした好奇心によりちらりと顔を上げれば、ようやく騎士が怯えている相手の姿を見ることができた。
ただ、正直な話。見なければよかったと思ってしまう。
「っひ、は、ハイ! イロキア国より先の戦の賠償として送られてきた、い、異世界からの魔女だとか……!」
魔女ではないと否定したいのに、もう声すら出せなかった。
何故なら、問うて来たこのレイク副団長と呼ばれた男性。
彼は目の前にいる騎士より二回り以上大きな体躯を持ち、声だって地を這うような恐ろしい低音で。
そしてこの、皇帝陛下の眼前に立つことを許されていた騎士の怯え方だ。
実力があるはずの騎士がここまで怯えるなんて、もし魔女というのを信じられたら、私はどうなるか?
この大男相手だとデコピンとかで殺されそうだ。
そうだ、自分は空気だと、できる限り息を殺して騎士の影に隠れようとする。なのに。
「……おい」
「ハイッ?!」
「貴様じゃない。そこの女だ」
「……え、わ、たし……で、ですか?」
目線を上げればギロリと睨まれ、ヒッと小さく悲鳴が漏れる。
青褪めた騎士の気持ちがよく分かったと、ガクガク震えそうになる身体をどうにか抑えながら、カラッカラの喉を動かして小さく返事をした。
「お前、名前は」
「あ……え、う、海野、美幸でしゅ……」
噛んだ。
いや、これはもう仕方ないと言いたい。
あっちの国でもこっちの国でも名前は聞かれなかったし、そもそも自分の名前を言う機会なんて滅多にないんだから、慣れてなくても許して欲しい。
あと、目の前の男性が、デコピンどころか圧だけで小動物なら失神させられそうなほどなのだ。精神でいえば小動物以下、羽虫レベルなので、むしろ失神させてくれたら楽になれるのに……なんて。そんなバカみたいなことを考えていたら。
「……ミユキ」
「ひゃ、はい……っぇ、ひえ!?」
名を呼ばれたと同時に手を伸ばされ、頭蓋骨でも割られるんじゃないかと思ってしまったのは悪くない。本当に、殺されると思ったのだ。
だが、伸ばされた手が掴んだのは手首に括りつけられた鎖で。
そうして次の瞬間、バキっと割り箸を折るよりも簡単に、鉄製だろう枷と鎖が粉々に砕かれていた。
全ての意味が分からず呆然とする騎士と私。
それでも、職務中の騎士の方が正気に戻るのが一歩早かった。
「っえ、ぁえ!? れっ、レイク副団長! な、なにを」
「この女はオレが引き取る。いいな」
「え?! で、でも陛下がその、離れの塔に幽閉しろと……」
「あ? あの若造の言うことをオレが聞かにゃならねぇ道理がどこにあんだ?」
(そ、それはこの国のトップなんだから、聞いた方がいいんじゃないでしょうか)
思っていることも言えない、こういう性格だから使い潰されるのだ。
また暗黒の思考に陥りそうになっていると、ふわりとした浮遊感。
横抱き、と言ったらいいのか。ほぼ片腕で身体を持ち上げられていた。
日本人女性の平均身長より少し高い程度はあるはずが、この大男を前にすると筋力も身長も子供レベルにしか見えない。
「報告はテメェで済ませろ。オレは屋敷に戻る」
「そ、そんなっあ、お待ちくださっ……! 」
さっきまで何の感情も抱かなかった騎士ではあるが、今は少し同情してしまう。
それと同時に、もう少し食い下がって助けて欲しいと願っていたのだが、時すでに遅し。
連れて行かれるはずだった方向とは逆方向に進み、どこにあるかも知らない屋敷へと連れて行かれる。
「レ、レイク副団長が横抱き……? 皇后様すら俵担ぎだったのに……え、なんなんだ、あの女……まさか、本当に魔女なのか……?!」
遠くで何かを呟く騎士の声はもう聞こえなくて。
ズン、ズンと地鳴りのような音を立てながら歩くレイク副団長の腕の中、私は頭の中で流れるドナドナに遠い目をするしかなかった。
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