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天音と使用人たちとの仲が改善されたことで、自分にも同じ権利をよこせとハインツに直談判した人物がいた。
言わずと知れた黄緑頭の宰相、マンフリートである。
マンフリートも「天音に好き勝手に会うことは許さん」と、ハインツから理不尽な命令を受けていた一人だったのである。
「だから陛下が出張の時にだけ、こっそりアマネ様に会いに来ていたんです。陛下の子供じみた嫉妬心には本当に困ったもので……。でも、もうお二人は心を通じ合わせたのだから、わたしもアマネ様に気兼ねなくお会いしてもいいですよね」
にこにこするマンフリートは相変わらず天音に優しい。
「アマネ様、なにか困ったこと等ございましたら、遠慮なくわたしにお申し付け下さい。陛下に対する愚痴もお聞きしますよ」
「余計なお世話だ。アマネの願いはすべてわたしが叶える。おまえは余計なことをするな」
鬱陶しいと言わんばかりに、ハインツがシッシッと手を振ってマンフリートを追い払おうとする。が、マンフリートは完全に無視して天音に笑顔を向ける。
聞けば二人は幼馴染ならしく、幼い頃からよく知った仲なのだという。
「いいかアマネ。こいつはこんな無害そうな顔をして、かなり腹黒だからな。騙されるなよ」
「え、そうなの!」
「違いますよ、そんなことありませんからね、アマネ様」
「違うものか! 善良で優しいだけの男に、我が帝国の宰相が務まってたまるか!」
「確かに、言われてみればそうかも」
納得する天音の頭をハインツが撫でる。
「なにか望みがあればすべてわたしに言えばいい。他のやつにねだることは許さん。アマネの望みを叶え、礼を言われる権利はわたしだけのものなのだからな。分かったな」
「うん」
ハインツから向けられる愛情が嬉しくて、天音はほにゃりと笑ってしまう。
対してマンフリートは呆れ顔でハインツを諭す。
「まったく、いくら好き同士とはいえ束縛しすぎは嫌われますよ? 初恋で恋愛初心者だから執着するのも分かりますが、それでもダメなものはダメです」
「仕方がないだろう。かまいたくてたまらないのだから」
「いーえ、いけません。嫌われてから後悔しても遅いんですよ!」
天音が驚きに目を見開いた。
「ハインツって俺が初恋だったの? 本当に?!」
「うっ」
気まずい顔のハインツの横で、マンフリートがにっこりと微笑む。
「実はそうなんです。陛下にとっての初恋の相手は、間違いなくアマネ様です。陛下はこれまで数多くの方々とお付き合いをしてきましたが、来る者拒まず去らぬ者は追い出す、といった感じの不誠実なお付き合いばかりでしたからね」
「おいっ、黙れ!」
「あれらはすべて恋愛と呼べるようなものではありませんでした。ただの遊びです。だからこそ初恋であるアマネ様への恋心を拗らせて、おかしな行動をとってしまったわけで。アマネ様にわざわざ恐い思いをさせるなど、本当に陛下は最低です!!」
「仕方ないだろう、アマネがここを出て行かないようにするために、わたしも必死だったのだから」
「まったく、普段は余計なくらい頭が回るくせに、肝心な時だけはポンコツだなんて」
ブツブツと文句をいうマンフリートを睨みつけた後、ハインツがバツの悪そうな顔で横に座る天音の肩を抱いた。
額に優しく口付ける。
「本当にすまなかった。でも、どうしてもアマネを離したくなかったのだ」
「うん、それはもう何度も謝ってもらったし、今後はしないって約束だってしてくれたし、もう気にしないでよ」
アマネを抱きしめたまま、それでも「すまない」と改めて謝罪するハインツ。
マンフリートも心底申し訳なさそうな顔で、深く頭を下げた。
「わたしも謝罪させていただきます。怖い思いをさせたこと、本当に申し訳ありませんでした。しかし、これだけは信じて下さい。すべてはアマネ様の安全が確保された上でなされたことでした。陛下にアマネ様を傷つける気は一切なかったのです」
「ああ、はい。俺、今はもう本当にちゃんと理解していますから謝らないで下さい。確かに恐かったけど、結局は無事だったんだし。それよりも、ハインツってやっぱりすごくモテるんだね。そっちの方が気になったというか……」
複雑な顔をする天音を見たハインツが慌てて叫ぶ。
「アマネに出会ってからは、ずっとアマネ一筋だ。信じて欲しい」
「大丈夫、それもちゃんと信じてるから。それにハインツの過去の交際事情についても、そんなには気にしてない……っていったらウソになるかな。でも、仕方ないと思う。だって、ハインツはこんなにカッコいいし優しいんだから、モテるのも当然だし。ただ、初恋については気になった。ねえ、本当に俺が初恋?」
腕の中から天音にそう問われ、ハインツは真面目な顔で頷いた。
「本気で好きになったのはアマネが初めてだ」
頬を染めた天音が嬉しそうに微笑んだ。
「実を言うと、俺もハインツが初恋なんだ。ずっと自分に自信が持てなくて人との付き合い避けてきてたから、今まで十九年間生きてきて、恋をするのも人と付き合うのも、全部ハインツが初めてなんだ」
「は?」
「ええっ?!」
突然、ハインツとマンフリートが驚愕の形相で天音を凝視した。
天音が情けない顔をして背中を丸める。
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。そりゃ俺だって、この年まで誰とも付き合ったことないなんて少し恥ずかしいとは思うけど、でも、初恋がまだなのはハインツも同じだろう? それなのに大声出して驚くなんて、酷いよ……」
「いや違う、驚いたのはそこじゃないっ!!」
「じ、十九年生きてって……アマネ様? 今おいくつなんですか?!」
「俺? 俺は十九才だよ? この世界に来た時は十八だったけど、もう誕生日がきたから今は十九才」
「「!!!!!!!!!」」
次の瞬間、ソファに座っていたハインツが勢いよく立ち上がった。かと思うと、隣に座っていた天音をいきなりお姫様だっこの体勢で抱きかかえる。
驚く天音をそのままに、ハインツはマンフリートに短く命じた。
「用事ができた、今すぐ帰れ」
マンフリートが「やれやれ」と肩を竦める。
「……陛下、お気持ちは分かりますが、欲望に忠実すぎです。獣ですか」
「うるさい。一週間は離宮に籠る。その間の仕事はおまえに一任する。なにかあればトマスに伝えておけ。ここでできる仕事なら時間を見つけて対処する」
「まったくもう、仕方がないですね。はい、承知致しました」
立ち上がったマンフリートが優雅に一礼する。
「では陛下、アマネ様、後のことはわたしに任せて、楽しい時間をお過ごし下さい」
二人の会話の意味が分からずにポカンとする天音を抱えたまま、ハインツがすたすたと歩き出す。そのまま足早に居間を出て階段を駆け上がると、天音の寝室へと飛び込んだのだった。
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長くなったので二つに分けました。
言わずと知れた黄緑頭の宰相、マンフリートである。
マンフリートも「天音に好き勝手に会うことは許さん」と、ハインツから理不尽な命令を受けていた一人だったのである。
「だから陛下が出張の時にだけ、こっそりアマネ様に会いに来ていたんです。陛下の子供じみた嫉妬心には本当に困ったもので……。でも、もうお二人は心を通じ合わせたのだから、わたしもアマネ様に気兼ねなくお会いしてもいいですよね」
にこにこするマンフリートは相変わらず天音に優しい。
「アマネ様、なにか困ったこと等ございましたら、遠慮なくわたしにお申し付け下さい。陛下に対する愚痴もお聞きしますよ」
「余計なお世話だ。アマネの願いはすべてわたしが叶える。おまえは余計なことをするな」
鬱陶しいと言わんばかりに、ハインツがシッシッと手を振ってマンフリートを追い払おうとする。が、マンフリートは完全に無視して天音に笑顔を向ける。
聞けば二人は幼馴染ならしく、幼い頃からよく知った仲なのだという。
「いいかアマネ。こいつはこんな無害そうな顔をして、かなり腹黒だからな。騙されるなよ」
「え、そうなの!」
「違いますよ、そんなことありませんからね、アマネ様」
「違うものか! 善良で優しいだけの男に、我が帝国の宰相が務まってたまるか!」
「確かに、言われてみればそうかも」
納得する天音の頭をハインツが撫でる。
「なにか望みがあればすべてわたしに言えばいい。他のやつにねだることは許さん。アマネの望みを叶え、礼を言われる権利はわたしだけのものなのだからな。分かったな」
「うん」
ハインツから向けられる愛情が嬉しくて、天音はほにゃりと笑ってしまう。
対してマンフリートは呆れ顔でハインツを諭す。
「まったく、いくら好き同士とはいえ束縛しすぎは嫌われますよ? 初恋で恋愛初心者だから執着するのも分かりますが、それでもダメなものはダメです」
「仕方がないだろう。かまいたくてたまらないのだから」
「いーえ、いけません。嫌われてから後悔しても遅いんですよ!」
天音が驚きに目を見開いた。
「ハインツって俺が初恋だったの? 本当に?!」
「うっ」
気まずい顔のハインツの横で、マンフリートがにっこりと微笑む。
「実はそうなんです。陛下にとっての初恋の相手は、間違いなくアマネ様です。陛下はこれまで数多くの方々とお付き合いをしてきましたが、来る者拒まず去らぬ者は追い出す、といった感じの不誠実なお付き合いばかりでしたからね」
「おいっ、黙れ!」
「あれらはすべて恋愛と呼べるようなものではありませんでした。ただの遊びです。だからこそ初恋であるアマネ様への恋心を拗らせて、おかしな行動をとってしまったわけで。アマネ様にわざわざ恐い思いをさせるなど、本当に陛下は最低です!!」
「仕方ないだろう、アマネがここを出て行かないようにするために、わたしも必死だったのだから」
「まったく、普段は余計なくらい頭が回るくせに、肝心な時だけはポンコツだなんて」
ブツブツと文句をいうマンフリートを睨みつけた後、ハインツがバツの悪そうな顔で横に座る天音の肩を抱いた。
額に優しく口付ける。
「本当にすまなかった。でも、どうしてもアマネを離したくなかったのだ」
「うん、それはもう何度も謝ってもらったし、今後はしないって約束だってしてくれたし、もう気にしないでよ」
アマネを抱きしめたまま、それでも「すまない」と改めて謝罪するハインツ。
マンフリートも心底申し訳なさそうな顔で、深く頭を下げた。
「わたしも謝罪させていただきます。怖い思いをさせたこと、本当に申し訳ありませんでした。しかし、これだけは信じて下さい。すべてはアマネ様の安全が確保された上でなされたことでした。陛下にアマネ様を傷つける気は一切なかったのです」
「ああ、はい。俺、今はもう本当にちゃんと理解していますから謝らないで下さい。確かに恐かったけど、結局は無事だったんだし。それよりも、ハインツってやっぱりすごくモテるんだね。そっちの方が気になったというか……」
複雑な顔をする天音を見たハインツが慌てて叫ぶ。
「アマネに出会ってからは、ずっとアマネ一筋だ。信じて欲しい」
「大丈夫、それもちゃんと信じてるから。それにハインツの過去の交際事情についても、そんなには気にしてない……っていったらウソになるかな。でも、仕方ないと思う。だって、ハインツはこんなにカッコいいし優しいんだから、モテるのも当然だし。ただ、初恋については気になった。ねえ、本当に俺が初恋?」
腕の中から天音にそう問われ、ハインツは真面目な顔で頷いた。
「本気で好きになったのはアマネが初めてだ」
頬を染めた天音が嬉しそうに微笑んだ。
「実を言うと、俺もハインツが初恋なんだ。ずっと自分に自信が持てなくて人との付き合い避けてきてたから、今まで十九年間生きてきて、恋をするのも人と付き合うのも、全部ハインツが初めてなんだ」
「は?」
「ええっ?!」
突然、ハインツとマンフリートが驚愕の形相で天音を凝視した。
天音が情けない顔をして背中を丸める。
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。そりゃ俺だって、この年まで誰とも付き合ったことないなんて少し恥ずかしいとは思うけど、でも、初恋がまだなのはハインツも同じだろう? それなのに大声出して驚くなんて、酷いよ……」
「いや違う、驚いたのはそこじゃないっ!!」
「じ、十九年生きてって……アマネ様? 今おいくつなんですか?!」
「俺? 俺は十九才だよ? この世界に来た時は十八だったけど、もう誕生日がきたから今は十九才」
「「!!!!!!!!!」」
次の瞬間、ソファに座っていたハインツが勢いよく立ち上がった。かと思うと、隣に座っていた天音をいきなりお姫様だっこの体勢で抱きかかえる。
驚く天音をそのままに、ハインツはマンフリートに短く命じた。
「用事ができた、今すぐ帰れ」
マンフリートが「やれやれ」と肩を竦める。
「……陛下、お気持ちは分かりますが、欲望に忠実すぎです。獣ですか」
「うるさい。一週間は離宮に籠る。その間の仕事はおまえに一任する。なにかあればトマスに伝えておけ。ここでできる仕事なら時間を見つけて対処する」
「まったくもう、仕方がないですね。はい、承知致しました」
立ち上がったマンフリートが優雅に一礼する。
「では陛下、アマネ様、後のことはわたしに任せて、楽しい時間をお過ごし下さい」
二人の会話の意味が分からずにポカンとする天音を抱えたまま、ハインツがすたすたと歩き出す。そのまま足早に居間を出て階段を駆け上がると、天音の寝室へと飛び込んだのだった。
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