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おまけの後日談
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それはある春の日の午後のこと。
十二才になったマクシミリアンとその弟である五才年下のエーミールが、美しい花々の咲き誇る侯爵邸の中庭で、仲良くお茶を楽しんでいた時のことだった。
不満げな顔で弟から問われたその内容に、マクシミリアンはその美しく整った顔に困った色を浮かべた。
「え、母上と一緒に、かい?」
「はい、そうなんです。僕もたまには母上とお出かけしたいと思い、そうお願いしたのですが、父上からダメだと言われてしまって……」
「ふむ」
「僕たち、ほとんど母上とお出かけしたことがありませんが、どうしてでしょう? なぜダメなのですか?」
癖のある黒髪に濃い碧の瞳を持つエーミールは、マクシミリアンが目に入れても痛くないほど可愛がっている自慢の弟である。その弟の悲しい表情に、マクシミリアンは小さくため息をついた。
「ミル、おまえの気持ちはよく分かるよ。わたしもおまえくらいの年の頃は、同じようなことを思ったものだからね。けれど、諦めたほうがいい。母上とのお出かけは、まず無理だと思う」
「その理由が知りたいのです。母上、実はお身体が弱かったりするのでしょうか? そうは見えませんが」
「母上は至って健康だよ。問題なのは父上の方さ。父上は母上が屋敷の外へ出ることを、殊の外嫌うからね。他の人の目に母上が映ることが許せないらしい」
「どうしてですか? なにか理由があるのなら教えて下さい。でなければ納得できません!」
どう説明したものか、と、しばらく考えたマクシミリアンは、ああそうだ、と穏やかに話し始めた。
「例えば、おまえが世にも貴重で美しい宝石を持っていて、それをとても大切にしているとするだろう?」
「はい」
「おまえはその宝石を他の人に見せて自慢したい? それとも、傷ついたり盗られたりすることを心配して箱に大切にしまっておきたい?」
エーミールは少し考えてから答えた。
「僕は人に見せたいです。その宝石がどんなに素晴らしいか、皆に知ってもらいたいから」
「そうか。わたしは違うな。わたしは自分の大切にしているものは、他人に見せたくも触らせたくもない。自分だけのものにしたい、独り占めにしたいって、そう思ってしまうんだ」
「ふうーん、そういう考え方もあるのですね」
「きっと父上も、わたしと同じようなお考えなのだと思う。母上を独り占めしたいんだよ。勿体なくて、他の人に見せたくないんじゃないかな」
エーミールが納得のいかない顔をする。
「母上はそれでいいのでしょうか。ずっと屋敷の中にいて、閉じ込められて、嫌ではないのでしょうか? ご友人にも会えないわけですし……もしも不服に思っているのならば、母上がお可哀想です」
そう心配するエーミールの優しい気持ちに、マクシミリアンはその美しい顔をほころばせた。
「母上が悲しそうにしていたり、辛そうにしているところ、ミルは見たことがあるかい?」
問われてエーミールは目をパチクリとさせた。
「……そう言えば、ありません。母上はいつも幸せそうです。父上がご一緒の時は特に」
「だろう? きっと母上は大丈夫なんだよ。そうでなければ、最初からあの父上と結婚など、していないんじゃないかな? それに屋敷の庭園は、父上の命によりいつだって母上のために美しく手入れされているし、図書室には毎月たくさんの新しい本が届く。外出だって一応は許されているしね。父上と一緒の時に限定されてはいるけれど」
「確かに、兄上のおっしゃる通りです」
「それに、ここにはおまえやわたしだっている。母上はきっとお幸せなんじゃないかな。少なくとも、母上の不満そうな顔を、わたしはこれまで一度も見たことがないよ」
ふと見上げると、二階のテラスに両親の姿が見えた。二人で楽しそうに語らいながら、美しい庭をながめている。
マクシミリアンにつられるように、エーミールもその視線をテラスの両親へと向けた。
その細腰を父の腕でしっかりと支えられ、寄り添うように立つ母は、子供たちの目から見ても間違いなく幸せそうに見える。
エーミールが手を振ると、それに気付いた両親が笑顔で手を振り返してくれた。嬉しくなったエーミールの顔に笑顔が浮かぶ。
「本当に、父上と母上はいつも仲が良いですね。僕にもあのお二人のように、ずっと仲良くいられる伴侶が見つかるといいな」
羨まし気にそう言った弟に、マクシミリアンは拗ねたような顔をして見せた。
「おや、エーミールは忘れてしまったのかな? 将来は絶対に兄上と結婚するって、結婚したいって、泣きながらそう言ってくれていたじゃないか」
「ちょっ、兄上! そんな小さい頃のこと言わないで下さい!!」
真っ赤になったエーミールを、微笑ましくマクシミリアンは見つめた。
ああ、本当にこの弟は、瞳の色と活動的なところだけは父上に似ているものの、他の部分は見た目も性格も母上似だなと、心の中でマクシミリアンはしみじみそう思った。
可愛い、愛おしい。誰にも渡したくない。
生まれたばかりのエーミールを初めて見た時の衝撃を、マクシミリアンは未だ忘れられない。
一目見て分かった。
この子は自分のために生まれてきたのだと。
他の誰にも渡さない。
この子はわたしの、わたしだけのものなのだ。
五才のあの日、エーミールに出会った瞬間、マクシミリアンはそう思った。その想いは七年経った今も変わらない。
「この独占欲や執着心は、髪の色に伴って遺伝するのかな。確かおばあ様も同じ気質だと、父上が以前に教えてくれたことがあったけれど」
好む容姿も似るらしいと、そう父が言っていたことをマクシミリアンは思い出す。
父が異常ともいえる執着をみせ、心から愛している母。
その母に、瞳の色以外のすべてがそっくりなエーミール。
髪の色と共に、その気質までもを父から受け継いでいるらしい自分。
後ろでひとつに結った長いミルクティー色の艶やかな髪を、マクシミリアンはひと房手に取った。それをしばらく見つめた後、小さな声で楽し気に呟く。
「だったら、わたしがミルを欲しくてたまらなく思うのは、愛してやまないのは仕方のないことだな」
きっと父上ならば、わたしのこの気持ちを、弟に向かう狂おしいほどの衝動を理解してくれるだろう。そう思いながら、マクシミリアンはひっそりとほくそ笑む。
それを見たエーミールが、不思議そうに首を傾げた。
「どうしましたか、兄上。なにを笑っているのです? なにか面白いことでも?」
マクシミリアンはそれに笑顔のままで答える。
「ミルのことが大切で愛しくてたまらないと、そう思っただけだよ。きっと、この気持ちは一生消えない。わたしはおまえのことが可愛くて仕方がないんだ。大好きだよ、ミル。おまえがいてくれて本当に嬉しい。素晴らしい弟がいてくれてわたしは幸せ者だな、と、そう思ったら、つい笑みがこぼれてしまったんだ」
エーミールが途端に真っ赤になる。
「あ、兄上ったら……僕も、僕だって兄上のことが大好きですよ。だって、兄上以上に優しくて綺麗でカッコよくて優秀な人、僕は他に見たことがないもの。兄上は僕の自慢です!」
「ありがとう、嬉しいよ。さあ、休憩はこれでおしまいだ。この後は剣術の鍛錬の時間だろう? 怪我をしないよう気を付けるんだよ」
「はい! けれども傷は男の勲章とも言いますし、僕は平気です! がんばって、すぐに兄上の腕前に追いついてみせますからね。では、失礼します」
そう言ってマクシミリアンに一礼すると、エーミールは元気に駆け出して行ってしまった。その後ろ姿を眺めながら、マクシミリアンは満足そうに目を細める。
「わたしのものだよ、可愛いミル。いずれおまえは籠の鳥だ。今の内に存分に自由を楽しんでおくといい」
弟の姿を追うその緑色の瞳には、父であるルドヴィークが母エミリオンを見る時と同じ、強い執着の色が浮かんでいる。
「いずれにしても、母上にはもう一人、弟か妹を産んでいただかなくてはならないな。でなければ、我が侯爵家はわたしの代で終わってしまう。いや、別にわたしたちの子供に継がせてもいいかな、血も濃くなることだし。これがあるのだから、間違いなくミルはわたしの手に落ちるだろうしね。ふふ、色々と先が楽しみだな」
内ポケットから取り出した小瓶を見つめながら、マクシミリアンは怪しく微笑んだ。その小瓶の中には透明な液体が入っていて、ゆうゆらと怪し気に揺れている。
数年後、エーミールの身も心もすべてを自分のものにする日のことを考えるだけで、マクシミリアンの背中にぞくぞくとした快感が走った。
下位貴族の娘と形だけの婚姻を結び、本当の愛はエーミールと育めばいい。勿論、形式上の妻が産んだものとして、エーミールが産んだ子を侯爵家の後継ぎにする。エーミールしか欲しくない、抱けない、抱きたいとも思えないのだから仕方がない。
幸いなことに、マクシミリアンは両親に心から愛されている。幸せになって欲しいと切に願ってもらえている。
いずれマクシミリアンの唯一がエーミールであることを伝えたら、両親には、特に父には分かるはずだ。マクシミリアンが幸せになるためにはエーミールの存在が必要不可欠であるということが。
「かなりの我儘を通すことになるのだから、せめて父上を超えるほどの立派な領主にならねばいけないな。そのために精進しないと。これも近い将来ミルを手に入れるためだと思えば、大した苦労でもないけどね」
優雅にお茶を飲み、カップを音もなくソーサーに置いた彼を、ふわりと春の風が優しく包んだ。ミルクティー色の艶やかな髪が、その風を受けて美しく揺れる。
わずかに乱れたその髪を、マクシミリアンは指で軽く梳いて整えた。すぐに立ち上がり、祖母にもらった小瓶を大切そうに上着の内ポケットにしまう。そして幸せそうに微笑むと、マクシミリアンは楽し気な足取りで家庭教師の待つ自室へと向かったのだった。
end
十二才になったマクシミリアンとその弟である五才年下のエーミールが、美しい花々の咲き誇る侯爵邸の中庭で、仲良くお茶を楽しんでいた時のことだった。
不満げな顔で弟から問われたその内容に、マクシミリアンはその美しく整った顔に困った色を浮かべた。
「え、母上と一緒に、かい?」
「はい、そうなんです。僕もたまには母上とお出かけしたいと思い、そうお願いしたのですが、父上からダメだと言われてしまって……」
「ふむ」
「僕たち、ほとんど母上とお出かけしたことがありませんが、どうしてでしょう? なぜダメなのですか?」
癖のある黒髪に濃い碧の瞳を持つエーミールは、マクシミリアンが目に入れても痛くないほど可愛がっている自慢の弟である。その弟の悲しい表情に、マクシミリアンは小さくため息をついた。
「ミル、おまえの気持ちはよく分かるよ。わたしもおまえくらいの年の頃は、同じようなことを思ったものだからね。けれど、諦めたほうがいい。母上とのお出かけは、まず無理だと思う」
「その理由が知りたいのです。母上、実はお身体が弱かったりするのでしょうか? そうは見えませんが」
「母上は至って健康だよ。問題なのは父上の方さ。父上は母上が屋敷の外へ出ることを、殊の外嫌うからね。他の人の目に母上が映ることが許せないらしい」
「どうしてですか? なにか理由があるのなら教えて下さい。でなければ納得できません!」
どう説明したものか、と、しばらく考えたマクシミリアンは、ああそうだ、と穏やかに話し始めた。
「例えば、おまえが世にも貴重で美しい宝石を持っていて、それをとても大切にしているとするだろう?」
「はい」
「おまえはその宝石を他の人に見せて自慢したい? それとも、傷ついたり盗られたりすることを心配して箱に大切にしまっておきたい?」
エーミールは少し考えてから答えた。
「僕は人に見せたいです。その宝石がどんなに素晴らしいか、皆に知ってもらいたいから」
「そうか。わたしは違うな。わたしは自分の大切にしているものは、他人に見せたくも触らせたくもない。自分だけのものにしたい、独り占めにしたいって、そう思ってしまうんだ」
「ふうーん、そういう考え方もあるのですね」
「きっと父上も、わたしと同じようなお考えなのだと思う。母上を独り占めしたいんだよ。勿体なくて、他の人に見せたくないんじゃないかな」
エーミールが納得のいかない顔をする。
「母上はそれでいいのでしょうか。ずっと屋敷の中にいて、閉じ込められて、嫌ではないのでしょうか? ご友人にも会えないわけですし……もしも不服に思っているのならば、母上がお可哀想です」
そう心配するエーミールの優しい気持ちに、マクシミリアンはその美しい顔をほころばせた。
「母上が悲しそうにしていたり、辛そうにしているところ、ミルは見たことがあるかい?」
問われてエーミールは目をパチクリとさせた。
「……そう言えば、ありません。母上はいつも幸せそうです。父上がご一緒の時は特に」
「だろう? きっと母上は大丈夫なんだよ。そうでなければ、最初からあの父上と結婚など、していないんじゃないかな? それに屋敷の庭園は、父上の命によりいつだって母上のために美しく手入れされているし、図書室には毎月たくさんの新しい本が届く。外出だって一応は許されているしね。父上と一緒の時に限定されてはいるけれど」
「確かに、兄上のおっしゃる通りです」
「それに、ここにはおまえやわたしだっている。母上はきっとお幸せなんじゃないかな。少なくとも、母上の不満そうな顔を、わたしはこれまで一度も見たことがないよ」
ふと見上げると、二階のテラスに両親の姿が見えた。二人で楽しそうに語らいながら、美しい庭をながめている。
マクシミリアンにつられるように、エーミールもその視線をテラスの両親へと向けた。
その細腰を父の腕でしっかりと支えられ、寄り添うように立つ母は、子供たちの目から見ても間違いなく幸せそうに見える。
エーミールが手を振ると、それに気付いた両親が笑顔で手を振り返してくれた。嬉しくなったエーミールの顔に笑顔が浮かぶ。
「本当に、父上と母上はいつも仲が良いですね。僕にもあのお二人のように、ずっと仲良くいられる伴侶が見つかるといいな」
羨まし気にそう言った弟に、マクシミリアンは拗ねたような顔をして見せた。
「おや、エーミールは忘れてしまったのかな? 将来は絶対に兄上と結婚するって、結婚したいって、泣きながらそう言ってくれていたじゃないか」
「ちょっ、兄上! そんな小さい頃のこと言わないで下さい!!」
真っ赤になったエーミールを、微笑ましくマクシミリアンは見つめた。
ああ、本当にこの弟は、瞳の色と活動的なところだけは父上に似ているものの、他の部分は見た目も性格も母上似だなと、心の中でマクシミリアンはしみじみそう思った。
可愛い、愛おしい。誰にも渡したくない。
生まれたばかりのエーミールを初めて見た時の衝撃を、マクシミリアンは未だ忘れられない。
一目見て分かった。
この子は自分のために生まれてきたのだと。
他の誰にも渡さない。
この子はわたしの、わたしだけのものなのだ。
五才のあの日、エーミールに出会った瞬間、マクシミリアンはそう思った。その想いは七年経った今も変わらない。
「この独占欲や執着心は、髪の色に伴って遺伝するのかな。確かおばあ様も同じ気質だと、父上が以前に教えてくれたことがあったけれど」
好む容姿も似るらしいと、そう父が言っていたことをマクシミリアンは思い出す。
父が異常ともいえる執着をみせ、心から愛している母。
その母に、瞳の色以外のすべてがそっくりなエーミール。
髪の色と共に、その気質までもを父から受け継いでいるらしい自分。
後ろでひとつに結った長いミルクティー色の艶やかな髪を、マクシミリアンはひと房手に取った。それをしばらく見つめた後、小さな声で楽し気に呟く。
「だったら、わたしがミルを欲しくてたまらなく思うのは、愛してやまないのは仕方のないことだな」
きっと父上ならば、わたしのこの気持ちを、弟に向かう狂おしいほどの衝動を理解してくれるだろう。そう思いながら、マクシミリアンはひっそりとほくそ笑む。
それを見たエーミールが、不思議そうに首を傾げた。
「どうしましたか、兄上。なにを笑っているのです? なにか面白いことでも?」
マクシミリアンはそれに笑顔のままで答える。
「ミルのことが大切で愛しくてたまらないと、そう思っただけだよ。きっと、この気持ちは一生消えない。わたしはおまえのことが可愛くて仕方がないんだ。大好きだよ、ミル。おまえがいてくれて本当に嬉しい。素晴らしい弟がいてくれてわたしは幸せ者だな、と、そう思ったら、つい笑みがこぼれてしまったんだ」
エーミールが途端に真っ赤になる。
「あ、兄上ったら……僕も、僕だって兄上のことが大好きですよ。だって、兄上以上に優しくて綺麗でカッコよくて優秀な人、僕は他に見たことがないもの。兄上は僕の自慢です!」
「ありがとう、嬉しいよ。さあ、休憩はこれでおしまいだ。この後は剣術の鍛錬の時間だろう? 怪我をしないよう気を付けるんだよ」
「はい! けれども傷は男の勲章とも言いますし、僕は平気です! がんばって、すぐに兄上の腕前に追いついてみせますからね。では、失礼します」
そう言ってマクシミリアンに一礼すると、エーミールは元気に駆け出して行ってしまった。その後ろ姿を眺めながら、マクシミリアンは満足そうに目を細める。
「わたしのものだよ、可愛いミル。いずれおまえは籠の鳥だ。今の内に存分に自由を楽しんでおくといい」
弟の姿を追うその緑色の瞳には、父であるルドヴィークが母エミリオンを見る時と同じ、強い執着の色が浮かんでいる。
「いずれにしても、母上にはもう一人、弟か妹を産んでいただかなくてはならないな。でなければ、我が侯爵家はわたしの代で終わってしまう。いや、別にわたしたちの子供に継がせてもいいかな、血も濃くなることだし。これがあるのだから、間違いなくミルはわたしの手に落ちるだろうしね。ふふ、色々と先が楽しみだな」
内ポケットから取り出した小瓶を見つめながら、マクシミリアンは怪しく微笑んだ。その小瓶の中には透明な液体が入っていて、ゆうゆらと怪し気に揺れている。
数年後、エーミールの身も心もすべてを自分のものにする日のことを考えるだけで、マクシミリアンの背中にぞくぞくとした快感が走った。
下位貴族の娘と形だけの婚姻を結び、本当の愛はエーミールと育めばいい。勿論、形式上の妻が産んだものとして、エーミールが産んだ子を侯爵家の後継ぎにする。エーミールしか欲しくない、抱けない、抱きたいとも思えないのだから仕方がない。
幸いなことに、マクシミリアンは両親に心から愛されている。幸せになって欲しいと切に願ってもらえている。
いずれマクシミリアンの唯一がエーミールであることを伝えたら、両親には、特に父には分かるはずだ。マクシミリアンが幸せになるためにはエーミールの存在が必要不可欠であるということが。
「かなりの我儘を通すことになるのだから、せめて父上を超えるほどの立派な領主にならねばいけないな。そのために精進しないと。これも近い将来ミルを手に入れるためだと思えば、大した苦労でもないけどね」
優雅にお茶を飲み、カップを音もなくソーサーに置いた彼を、ふわりと春の風が優しく包んだ。ミルクティー色の艶やかな髪が、その風を受けて美しく揺れる。
わずかに乱れたその髪を、マクシミリアンは指で軽く梳いて整えた。すぐに立ち上がり、祖母にもらった小瓶を大切そうに上着の内ポケットにしまう。そして幸せそうに微笑むと、マクシミリアンは楽し気な足取りで家庭教師の待つ自室へと向かったのだった。
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