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05 最終話

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「――――という経緯の末、わたしは今ここにいるワケなんだ」

 広いベッドの上、ルドヴィークが笑顔でエミリオンに詰め寄ってくる。そんな彼から後退るように逃げていたエミリオンだったが、やがてヘッドボードに退路を断たれて動けなくなった。

 満面の笑みでのしかかってくるルドヴィークに、エミリオンは青褪めながらも勇気を出して恐る恐る尋ねた。

「これまでの話から想像するに、さっき俺が飲んだ小瓶の液体って、もしかして……」
「母上からいただいた媚薬だ。どうだ? そろそろ体が火照ってくる頃だと思うが」
「なっ?! どういうつもりだよ、ルド!」
「どういうって、勿論、君と愛し合うつもりだよ、愛しいリオン」

 二人が今いる建物は、長らくルドヴィークの祖父公爵が管理していた王都の侯爵邸らしい。爵位を譲り受けた際、この屋敷の権利も一緒にもらったとのことだった。

 流石は公爵が所持管理していただけのことはあり、隙のないほど完璧に整えられた寝室の内装も、ベッドの弾力もシーツの滑らかな肌触りも枕の柔らかさも、とにかく何もかも全てが一流で素晴らしい……などとエミリオンが考えたのは、火照ってきた身体から少しでも意識を反らすためである。

 体は秒ごとに熱くなる。特に下半身に熱が集まって、淫らな衝動が少しずつ強くなってきて、それがエミリオンを怯えさせた。

 身体は熱を持って発汗し、思考も少しぼんやりしてきたが、まだ意識は保てている。

 自分の性器が触ってもいないのに少しずつ硬度を増していき、布を押し上げていく様に、エミリオンは羞恥のあまり泣きそうになった。

 対してルドヴィークは、その様子をまじまじと興味深そうに見つめながら、感心したように呟いた。

「流石、あの草食動物のような父上に母上を襲わせただけの代物だな。母上がおっしゃるように、かなり効果の高い品らしい」

 ルドヴィークはそっと手を伸ばし、布越しにエミリオンの硬くなった性器に触れた。

「アあっ!」

 びくんとエミリオンの体が大きく跳ねた。
 先端からトロリといやらしい汁が零れたことがエミリオンには分かり、恥ずかしくて逃げ出したいのに、もっと触って欲しいという思いの方が強くて、身体がその場から動かない。けれども理性はまだ少し残っていて、ルドヴィークを必死になって説得しようとした。

「こ、こんなことダメだ。ルド、あっ、だめっ、そこ触っちゃダメだ……んっ」
「すごいな、リオンのここ。もうこんなに硬くなって……このまま触っているとすぐ達しそうで勿体ないな。うん、少し控えよう」
「そ、そういう意味じゃな――――あ」

 最後まで言わせてもらえず、エミリオンは唇を塞がれた。久し振りに感じるルドヴィークの唇。すぐに口内に入り込んできた舌の温かさが愛おしく懐かしい。

 我知らず、エミリオンは夢中になってルドヴィークの舌に自分のそれを絡め合わせていた。舌と舌とを接触させ、舐めまわしているだけなのに、どうしてこれほど気持ち良いのか分からない。

 エミリオンの両腕はルドヴィークの首の後ろに回されて、二度と離さないと言わんばかりに強く自分に引き寄せていた。キスした途端、媚薬のせいで理性は盛大に吹っ飛んだ。残っているのは、本能に刻み込まれたルドヴィークを欲する想いだけである。

「好き……好きだ、会いたかった、ルド」
「わたしも会いたかった。ずっとずっと会いたかったよ」

 キスの僅かな合間に互いに気持ちを伝え合う。

「愛しているよ、リオン」
「ルドが好き。ルドがすごく大切だ。だから、幸せになってもらいたい。そう思って傍を離れた。ルドには俺なんかより、もっと相応しい相手がいると思って」
「わたしに誰が相応しいかはわたしが決める。わたしが選ぶのは君だけだ。物心ついた頃からずっと好きだ。君しかいらない。君以外欲しくない」

 知らぬ間に、エミリオンの服は全てルドヴィークの手によって脱がされていた。性器と同じように、触らずとも硬く尖って自己主張する乳首を、ルドヴィークは熱く欲情した目で見つめる。

「なんて可愛くていやらしい。だめだ、もう我慢できそうにない」

 エミリオンの左側の乳首をルドヴィークはじゅっと口に含んだ。そのままびちゃびちゃと音がするほど舌で激しく舐めまわす。途端、強い快感がエミリオンの胸から沸きあがった。痺れるような気持ち良さと共に性器がびくびく震え、我慢できずに声をあげる。

「あ……ああっ……!」
「感じてる声、すごくいい。もっと聞かせて」

 ルドヴィークは嬉しそうに乳首を吸い、更に強く舐めまわした。もう一つの乳首は指でコリコリと捏ねまわす。

 その舌の滑る感触と温かさに、エミリオンは気持ち良過ぎて熱い息を吐いた。きゅっと強めに乳首を摘ままれると、腰が勝手に浮くほど感じてしまう。

「ああ、だめっ……良すぎるからダメっ」
「なぜ? もっとリオンに感じて欲しい」
「だって、もうイくっ。もうイッちゃうから……ああっ!」

 性器に触れられることなく、エミリオンは射精した。そんな自分の淫らな体に、エミリオンはショックのあまり泣きそうになってしまう。

「ウ、ウソだ、こんなの……俺、まだ全然触ってもないのに」
「すごく感じやすくて淫乱な体だ。なんていやらしい……」
「ちがっ……薬のせいだから、俺、こんなのおかしい、違う……」
「ああ、そうだな、全部薬のせいだ。だから、恥ずかしがることはない。なにも気にせずもっと二人で気持ち良くなろう」

 蕩けるような笑顔で、ルドヴィークがエミリオンの顔中にキスをする。

 そのキスを心地良く受ける余裕もなく、エミリオンは絶望的な気持ちに陥っていた。なぜなら、今射精したばかりなのに、性器は全く萎える素振りを微塵も見せないからだ。未だに硬く猛ったまま、鈴口からは愛液を零し続けている。

 それに気付いたルドヴィークが、泣きそうな顔のエミリオンの耳元で優しく囁いた。

「いいんだよ、いっぱい気持ち良くなって。それより、リオンに聞きたことがある」
「き、聞きたいこと?」

 熱い体を持て余したままの、欲情しきった顔をしたエミリオンに、ルドヴィークが優しく触れるだけのキスをした。そして、トロトロと汁を出す鈴口を指先でくすぐりながら、真面目な顔で問うた。

「君、他に好きな人なんていないよな? この唇も、この美しい体も、他の誰にも触らせていないよな?! 好きな人ができたと言っていたのは嘘だよな!」
「あっ……ああ、そこ気持ちい……」
「嘘って言ってよ、リオン。苦しくて気が狂いそうだっ!」
「あ……い、いない。そんな人はいない。俺、ずっとルドだけが好きだから。ルドだけが好き。他の人になんて触らせない……ああっ、どうしよう、そこ、すごく気持ちい……んあっ!」

 媚薬効果で頬を火照らせ、ヌルヌルと指で性器の先端を弄られる快感に悶えながらも、エミリオンは必死に答えた。ルドヴィークはホッとしたように表情を緩める。そして、嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。もし君の体に触れた者がいたなら、わたしはそいつを間違いなく殺しているところだ」

 笑顔でそう言い放つルドヴィークの狂気に満ちた美しい碧の瞳を見て、普通ならば恐怖するところだろうが、生憎この時のエミリオンは媚薬でおかしくなっていた。

「嬉しい……ルド、そんなにも俺のことを想ってくれるなんて」

 ルドヴィークの言葉に感動し、涙ながらに謝った。

「最後に会った時、傷つけるようなことを言って悪かった。あれは全部嘘だ。結婚したいと望んだのは、これまでの人生でルドだけだし、性別による好き嫌いは一切ない」
「確かにあの時は傷ついた。けれど、今はもう君がああ言わざるをえなかった理由も知っている。わたしのためだったんだろう? わたしのために、君は身を引こうとした。貴族という地位を捨て、平民になってまで、わたしのために身を引いてくれた」

 優しく自分を見つめるルドヴィークに、エミリオンは首を大きく横に振った。

「平民になったのは、ルドのためだけじゃない。貴族のままでいて、いつかルドに新しい婚約者ができて、その人と幸せになっていく姿を見ることが辛かった。それくらいなら、二度と会えない方がマシだと思った」

 エミリオンは手を伸ばし、自分を上から見つめるルドヴィークの頬に触れた。

「結局は、自分のためにしたことだ。悪かった、ルド。傷つけて本当にごめん。許して欲しい」
「許さないよ」
「!」

 ルドヴィークの言葉に、エミリオンは頭を殴りつけられたかのようなショックを受けた。はらはらと涙を流す。そんなエミリオンの頬に、ルドヴィークが優しくキスをする。

「一生許さない。だから、君はこの先ずっとわたしと共にいて、死ぬまで償いをし続けてくれないといけないよ。わたしを死ぬまで愛し続けて、傍で支え続けるんだ。分かったね?」
「そ、それって……」

 その緑色の瞳に涙を滲ませながら、エミリオンはルドヴィークに抱き付いた。

「償いではなく、俺にとってはご褒美でしかないじゃないか」
「そう? でも、それがわたしが君に望む償いだ。どうだ、やれそうか?」
「一生をかけて償うことを誓うよ!」

 ルドヴィークはとても幸せそうにエミリオンに濃厚なキスをした。口内を舐めまわされる感触に酔いしれながら、エミリオンもそれに舌を絡めて必死に応える。

 キスをしながらルドヴィークの手がエミリオンの髪を梳き、耳たぶを揉み、乳首を摘まんだ。先っぽを強めに弄られると、気持ち良さのあまりエミリオンの体が仰け反り、腰がぶるりと震える。

 やがてルドヴィークの唇は、薬のせいで発情しきったエミリオンの体を愛撫しながら、少しずつ下へと移動していった。首筋に触れ、鎖骨を軽く噛み、乳首を吸いながら舐めまわす。その間、ルドヴィークの両手は休むことなく、エミリオンの体中に触れ、擦り、体中の感度を上げていった。

 体中どこを触られても甘イキし、鈴口からびゅくびゅくっと汁を出すほど敏感になっているエミリオンは、与えられるすべての愛撫に感じまくり、身体をビクビクと震わせながら善がり声をあげた。

「はぁっ……んっ……ああ、もっとして、もっと……」

 ルドヴィークの唇は脇腹を舐め、臍にキスし、恥骨を吸った後、硬く立ち上がって汁をトロトロ零し続けている性器を口に含んだ。

「あああ!!」

 生まれて初めて知る強く痺れるような快感に、堪らずエミリオンは大声を上げた。ビクンと身体が大きく跳ねる。疼き出した後孔を香油に濡れたルドヴィークの指が解し始め、そこから湧き出る快感がまた、気持ち良過ぎてあえぎ声が止まらない。ボロボロと生理的な涙が零れ落ちる。

「ルドッ、ルドッ! ああっ、前っ、口でそんなっ、すごいっ」
「いいよ、もっともっと気持ち良くなって」
「指がお尻っ……ああ!」
「いやらしい声、いっぱい聞かせて」
「あっ、もっと……ああ、そこいいっ……そこっもっとゴリゴリしてぇ!!」

 口と指とで前後を同時に責め立てられながら、エミリオンは何度も射精する。しかし、昂りは一向に収まる気配をみせようとはしない。

 やがて十分に解され、柔らかくなったエミリオンの後孔に、ルドヴィークが自らの猛り切った雄の先端を触れさせた。
 早く入れて欲しいとパクパク開閉するその可愛い穴を見て、ルドヴィークはうっとりと嬉しそうに微笑んだ。そして、腰にぐっと力を入れると、蕩ける肉壁の中に己の猛った肉棒をゆっくりと突き進めていった。

「んんぁっ!!」
「くっ……リオンの中、すごく狭くて……温かい」
「あ……ああ……奥が、溶ける……んぁっ!」

 無意識に、エミリオンは少しでも体の負担を減らそうと、大きく深呼吸を繰り返した。
 そんなエミリオンに心配顔でルドヴィークが声をかける。

「痛くはない? 大丈夫か?」
「痛くない……ああ、ルドのが熱くて奥がすごく……んっいい、気持ちいっ!」
「あの薬、本当にすごい効き目だな。初めてなのに、こんなに乱れるリオンはすごく素敵だ」
「ルドも気持ちい? ルドも初めて? い……嫌だよ、ルドが他の人とこんなことするのは嫌だ」
「嫉妬してるのか? リオン、なんて可愛いんだ」

 ルドヴィークは腰の動きを完全に止め、泣いているエミリオンにキスをした。

「大丈夫だ、わたしも初めてだから。リオン以外としたりしない」
「ほ、本当に?」
「ああ、リオンだけだ」
「だったら、これからも俺だけにして。何度でも好きなだけしていいから、だから、こんな気持ちいこと、俺以外とはしないで!」

 涙ながらに懇願してくる愛する人を前に、煽られたルドヴィークの雄が大きさを増した。

「愛しいリオン。大丈夫、君としかしない。その代わり、さっき君が言ったこと、忘れてはだめだよ。媚薬のせいで言っただなどと、そんな言い訳は通じないからな」
「言い訳なんてしない。他の人としないでくれるなら、俺をルドの好きにしてくれていい。どこかに閉じ込めてもいい。だから、俺だけにして」
「ああ、リオン。心から愛しているよ」

 そう言うと、ルドヴィークは腰を激しく動かし始めた。押しても引いてもエミリオンは快感に体を捩らせ、善がり、愛液を滴らせながら自らも腰を振って貪欲に快楽を求めた。

 二人の営みは、エミリオンの薬が抜ける明け方まで続いた。その間、二人が何度達したか分からないほどだった。





 その後、正気に戻ったエミリオンは、昨夜の自分の痴態に真っ赤になりつつも、性懲りもなくルドヴィークを説得しようと試みた。自分なんか忘れて、もっと相応しい人と付き合って結婚すべきだと。
 当然のことながら、ルドヴィークは頑として受け入れようとはしない。

「その辺りのことに関しては、もうリオンの意見を聞く気はない。都合の良いことに、今や君は平民だしね。貴族のわたしには逆らえない。だから好きにさせてもらうよ。リオンの全てはもうわたしのものだ」
「う……」
「それに君は言った。他の人と性交しないなら、どこかに閉じ込めていいってね。勿論、わたしはそうするつもりだよ」



 有言実行。
 ルドヴィークはその日以降、エミリオンを自分の屋敷に軟禁して、外に出そうとはしなかった。そして、身も心も愛して愛して愛しまくる日々を続けて数ヵ月、エミリオンの懐妊が判明した。

 言うまでもなく、ルドヴィークはこれ以上ないほど喜んだ。そして、自らの母親と同じような行動をとったのだった。

 なにをしたのか。

 それは、生まれて来るひ孫を抱きたかったらエミリオンを養子に迎えろと、満面の笑顔で祖父公爵を脅迫したのである。

「いいですか、おじい様。わたしはリオン以外とは子を作る気はありません。侯爵家の正式な跡取りを産めるのはリオンだけです。そのリオンと結婚するためには、彼が平民では無理でしょう? なのでおじい様、どうかリオンに貴族籍をお与え下さい」
「お前なぁ、養子だなんて簡単に言われても……」
「そもそも、わたしが子爵家を継ぐ立場のままならば、リオンが逃げ出すこともなかったんです。全ての元凶は、おじい様がわたしに侯爵家を譲ったことにあるんですよ?」
「そ、それは……」
「断るなら別にそれでもかまいません。わたしも貴族籍を捨てて平民になり、リオンと子供と一緒に仲良く市井で暮らしますから。勿論、おじい様にひ孫は絶対に抱かせません。わたしとも二度と会えなくなるでしょう。それでもいいんですか?」
「ううう」

 孫がかわいい公爵は、結局は折れるしかなかった。孫とひ孫、そのどちらをもかわいがる喜びを捨てることはできなかったのである。

 その結果、エミリオンは公爵家の養子に入れられ、それと同時にルドヴィークと正式に婚約を交わした。その翌月には、二人の婚姻は正式に結ばれたのであった。




 それから数ヵ月。
 エミリオンは無事に元気な男の子を出産した。

 侯爵家嫡子となるその子は、緑色の瞳以外はルドヴィークにそっくりな美しく可愛らしい珠のような赤子で、マクシミリアンと名付けられた。そして、両親からは勿論のこと、祖父母からも曽祖父からも、これ以上ないほど猫っ可愛がりにされることとなったのである。


 ただ、マクシミリアンの美しいミルクティー色の髪を撫でながら、ルドヴィークと子爵夫人だけは、少し違った意味で楽しそうな顔することがあるという。

「この子もわたくしたちと同じなのかしらね」
「おそらくそうでしょうね。素晴らしい唯一と出会い、幸せになることでしょう」
「当然よ。わたくしもあなたも、それにわたくしたちの伴侶も幸せになったのだもの。この子もその相手も、きっと幸せになるわ」
「絶対に幸せになってもらいます。でなければリオンが悲しむ」
「はぁ、わたしは将来マクシミリアンが一目惚れする相手のことが心配だよ……」

 ミルクティー色の髪を持つ美しい母子の隣では、その伴侶であり父でもあるクレンゲル子爵が、なんとも言えぬ微妙な顔で、誰に聞かれることもなくボソリと独り言を呟いたという。





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