その答えは正しいの?

うずみどり

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⑨番外編−2

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 リクは駿佑に頼まれるとノーと言う事が出来なかった。だから小山田の杖を盗んで用事が済んだら再び戻して欲しいだなんて、妙だし剣呑な頼み事だと思ったが言われた通りにしてやった。
 渡した杖を再び手にした時、それは前と変わりなく見えた。

「何処が違うの?」
「聞かない方がいいと思うよ」

 問い掛けにそんな風に答えた駿佑に、リクは肩を竦めて受け流した。
 相変わらず利用だけして何も返してくれない。でもそんなヒトデナシなところにも惹かれていた。

「ワタシは駿佑君の闇の部分を随分と知ってるって、ちゃんと分かってるよね?」
「勿論。リクにはいつも感謝してるよ」

 駿佑の大事なみつおには見せない後ろ暗い部分をリクにだけ見せる。その共犯者めいた淫靡なほの暗さを駿佑もちゃんと理解している。リクはそれだけで十分だった。
 しかし戯れにもう少しを望んでみる。

「感謝だけじゃなくて、ちゃんと形にしてくれてもいいんじゃない?」
「カタチ? 例えば?」
「例えば……例えば、チュウとか」
 キスと言えないリクの初心さにそそられて駿佑が触れるだけの口付けをした。

「……っ!」

 自分で言っておいて吃驚するリクに笑みを残し、駿佑は振り向かずに立ち去った。
 その背中をリクが切ない瞳で見送った。

(さて、細工をしたはいいけれど、藤田先生を引っ掛けるのは怖いんだよな)

 駿佑は計画を変更まではしないものの、慎重にする必要があると思った。
 藤田はよく言えば大らか、悪く言うと大雑把なところがあるので計画自体には引っ掻かるだろうが、その後が怖い。

(あの人の行動はどうにも読めないところがあるから)

 仕返しをするとか罰を与えるとか、分かり易い大人ならば対処のしようもあるが分からなければ手を打てない。
 自分はどうとでも切り抜けられるし、みつおに迷惑は掛けないつもりだがそれでも尚怯むものを感じた。
 怖いならやらなければいいのに、駿佑にその選択肢だけは無い。

(みっちゃんが望んだ事だからな)

 それだけを理由に駿佑は教師を企みに嵌めようとしているのだった。

 ***

 小山田は苦いから珈琲が嫌いだった。でも生徒にそれを知られるのが嫌で無理して出された珈琲を飲み干した。
 何か苦い味がする、とは思ったのだが元々が珈琲は苦いものだと言う頭があるものだからそのまま飲んだ。まさか薬が盛られているとは思いもしなかった。

「先生、顔が赤いですが大丈夫ですか? 具合が悪いなら藤田先生を呼びますがどうしますか?」
「へ……き。何とも、ねえ」

 藤田に助けられるのが嫌で強がる小山田を駿佑は冷徹な目で見詰める。
 性質の悪い生徒から取り上げたデートドラッグ――催淫剤として出回っているものをほんの少し盛っただけだがよく効いているようだ。身体を熱くした小山田の艶めかしさがその気の無い駿佑にも少々眩しい。

「なら、相談を続けますね。えっと、俺が調べた国内の企業は――」
 駿佑は将来は数学関係の仕事をしたいからと小山田に進路相談を持ち掛けていた。
 鍵の締まる進路指導室にうかうかと呼び出された小山田に薬を盛り、程よく回ったところで仕上げに掛かる。

「小山田センセイ、大丈夫ですか?」
 真っ直ぐに座っている事も出来なくなった小山田の肩に駿佑がそっと手を置いた。
 小山田は弾かれたように立ち上がって松葉づえを手に取り、踏み出した途端に杖がぽっきりと折れた。

「あぁっ!」

 介助の意味合いしかない為に一本しかなかった杖は細工をされて脆くなっていた。
 全体重を掛ければ折れるのは当然だった。

「小山田センセイ、大丈夫じゃないみたいですね」
 駿佑は小山田の両脇に腕を入れて持ち上げ、教卓に上半身を預けるように乗せた。

(さて、そろそろ――)

 そこにタイミングよく、こっそりとメールで呼び出しておいたみつおが藤田を連れてやってきた。

「駿佑、藤田先生を連れて来いってどうして――」

 言い掛けたみつおの言葉が小山田を見た途端に途絶えた。
 真っ赤な顔で眉間に皺を寄せて目をきつく瞑った小山田は息が荒く、苦しそうなのだがそれが嗜虐心をそそる風情だった。

「瑠偉!」

 慌てて駆け寄る藤田に小山田が首を横に振った。

「来、るな……」

 今藤田に触れられたら自分がどうなってしまうか分からない。そういう意味の『来るな』だったが藤田は誤解した。又しても自分を頼りたくないと、小山田に拒絶されたと思った。

「君は、こんな時まで……」

 頭に血が上った様子の藤田を見て駿佑が言った。

「俺が代わりに運びますよ」

 さも親切そうに申し出た駿佑に藤田は冷たい声で告げた。

「動くな。そこでじっとしていろ」

 そう言うと藤田は小山田の背後から夜の帳のように覆い被さった。そして教卓の下で小山田のベルトのバックルを弛め、パンツをずらして上衣を捲り上げた。

(なっ、藤田ぁあああ! 何をして――)

 小山田は内心で真っ青になったが、身体はすっかり燃え上っていて動く事が出来なかった。それどころか自分を覆う藤田の蒸れた体温と匂い、獣の欲情した気配に期待して生唾を呑み込んだ。

「直ぐに楽にしてやるから」

 耳元で囁かれて小山田は冗談では無いと思う。こんな、生徒の見ている前で。

「ふ……じ…………」

 止めろと言うつもりで小山田は藤田の手を掴んだ。爪が喰い込む程に掴んだが、それはみつおの目には強請っているように見えた。

(小山田先生が藤田先生に縋って……)

 目を見開くみつおの前で小山田の震えが大きくなった。自分からは見えないところで何をされていると言うのか。

「ん……は……ぁ…………」

 堪えきれない声が小山田の濡れた唇から零れる。その色付いた声は明らかに感じていた。

(藤田、止めて。止めて……)

 自分のナカに入ってくる指に心の中で制止の声を上げ、けれど小山田の身体は藤田の動きを歓迎して解ける。

「瑠偉、楽にしてあげるから……俺に任せて」

 身を任せろと言う藤田の甘い言葉に溺れたくなる。けれど顔を少し上げれば生徒達の姿が見えてしまうのだ。

(俺を見るな。藤田に溶かされる俺など見ないでくれ)

 小山田の願いも虚しく駿佑とみつおは片時も視線を逸らさない。それくらい小山田の姿は瑞々しく色っぽかった。

 ごくり、と誰かが唾を呑み込む音で藤田の行為に拍車が掛かった。
 小山田のナカから指が出て行き、藤田が取り出したものが小山田の後孔に宛がわれる。

「ふじた、ダメっ!」

 小山田の制止を振り切って、むりむりと大きなものが後孔に押し入ってきた。

(あっ、あっ、あっ……生徒が見てるのに……見られてるのに、入ってくる。入っちゃう、入っちゃう!目の前で犯されて……)

  キュウキュウと小山田の後孔がきつく締まった。小山田の感じた激しい緊迫によって噛み千切らんばかりに締め付けられて、藤田が思わず呻いた。

「くっ……瑠偉、少し、弛めて……」

(馬鹿野郎、そんなの無理に決まってる!)

 泣きながら心の中で反論したら藤田も理解はしているのだろう、弛むのを待たずに無理に動き出した。

「あぅっ、あっ、や゛っ゛!」

 動いたら生徒達にバレちゃうのに。藤田の分身が入ってるのが、お尻の中を性器で擦られているのが分かってしまうのに。

「っ!」

 小山田が声を出すまいと懸命に自分の丸めた拳を噛む。
 ベタベタと口から溢れる唾液で拳が濡れていくのにすら煽られる。

(ナカ、欲しい。藤田のを出されてグチャグチャにされたい)

 薬で感じやすくなった身体を遠慮無しに犯されて小山田の意識は混濁していく。

「瑠偉……ルイ」

 懇願するように自分の名を呼ぶ男が愛しい。

「ふじた……スキ」

 愛してるとか好きとか、口にする幸せを小山田は藤田によって教えられていた。

「ルイ……君だけ、愛してる」

 藤田も嬉しそうに囁いて、みつおと駿佑が見ている前で小山田のナカに熱を注いだ。

「んぁあっ!」

 内部を灼かれて小山田が堪らずに鳴いた。
 それを聞いて、最後まで一歩も動けなかった二人が支え合うように部屋を出ていき、閉まった扉から啜り泣く声がひっきりなしに聴こえるようになった。
 駿佑は部屋に鍵を掛けてその場を立ち去った。

  ***

 真っ赤な顔で押し黙り、一言も声を発しようとしないみつおに駿佑がそっと話し掛けた。

「納得、出来たか?」

 みつおは黙ったままぶんぶんと首を横に振った。

(だってあんな、本当にえっちしちゃうなんて信じられない!)

 男なのに男に抱かれて、喘いで、気持ち好くなっちゃって……。
 でも。小山田はとても可愛かった。トロリと蕩けた赤い顔で、子供のように自分の拳などをあぐあぐと噛んでいた。

「男でも……されると気持ちイイの?」

 やっと発したみつおの言葉に駿佑は返答しかねる。

(それは小山田先生の様子を見る限りでは気持ち好いのだろうが……)

「した事がないから分からない」

 不機嫌そうに言った駿佑をみつおがキョトンとした顔で見る。

「駿佑? どうしたの?」

 拗ねているのか、と訊ねたみつおに駿佑は顔を手の甲で隠しながら言う。

「みつおが羨ましそうに言うからだろ。それじゃあまるで、小山田先生の代わりに自分が藤田にされたいみたいだ」
「まさか!どうして俺が藤田先生になんて――」
「だって、されたいみたいな事を言った!」
「言ってないよ! 藤田先生にされたいなんて言ってない!」
「じゃあ誰ならいいんだよ!」
「誰なんてそんなの分からないよっ!」

 怒鳴り合う二人の顔がどんどん赤らんでくる。
 何だかおかしな風向きだった。

「みっちゃんは、本当に……気持ち好ければ、されてもいいのか……」

 胡乱な様子で言葉を彷徨わせる駿佑を、みつおが窺うように測るようにチラ見する。

「いいって言ったら、駿佑はどうするんだよ……」
「俺は…………」

 そう言い掛けた切り押し黙ってしまった駿佑にみつおがやきもきする。

(俺は何だよ、はっきりと言いなよ男らしくないなっ!)

 言ってくれたら、その時は。
 みつおの答えはいつの間にか決まっていた。
 駿佑が本心を言うまであと数分。
 その答えが正しいのか間違っているのか、結果が出るまではあと――

 END
  
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