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④闇に属するもの
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温は悲惨な目に遭ってから最初の数日は身体が一番辛かった。
あの男は血が出ていないと言ったが、小さな傷は出来たのだろう。あの部分が痛痒くて座っているのも辛くて、かといってどう対処をすればいいのか分からずにじっと耐えるしかなかった。
ぞわぞわとした痛痒さは穴の表面や周囲から中にまで侵蝕して、掻き毟りたいような気持ちになった。でも実際には怖くて触れる事も出来ない。早くこの痒みが引けばいいのに、とそれだけを願っていた。
身体が楽になったら待っていたように心が軋み出した。
自分は男に犯された。それも良く知りもしない男にのこのこと着いて行き、あちこち触られて戸惑っている内にのっぴきならないところに押し込まれた。
あれでは自業自得だ。相手の男を憎む前に、自分を憎んでしまう。
「おまけに良くないって…………痛いばかりだって…………」
温は苦情を言われると自分の至らなさをただただ謝りたくなってしまう。だからあの男にも申し訳ないような気すら抱くのだ。
それでも二回出せたようで良かった、などと思って流石にそれは可笑しいだろうと自分を戒める。
陵辱した相手に気を遣ってどうするんだ。僕は馬鹿じゃないか。
ちゃんと理性では自分の可笑しさに気付く。でも感情は自分なんてと卑屈に傾く。
「誰かに、相談した方がいいのかな」
こんな目に遭ったなどと言うのは嫌だけど、一人で抱えきれる事でもない。どうしよう、と温は思い迷う。
「こまちん、顔色が悪いけど大丈夫?」
営業部の啓太に訊かれて頷いた。
彼には知られたくない。明るくてまともなところにいる彼に、自分を襲った異様な出来事など持ち込みたくない。
「大丈夫だよ。啓太は今日も元気だね」
一生懸命に笑った温を見て、啓太はやっぱり何かあったのじゃないかと思う。
彼が繊細で優しい人である事は話してみて直ぐに分かった。商品の細かい性能を覚え切れなくて、覚えられない!と癇癪を起こした自分を大丈夫と言ってくれた。
『大丈夫。ちゃんと違うって事が伝わってくるよ。啓太の説明は凄く分かり易い』
そう言って、一般の人には性能をつらつらと並べ立てるよりもきっと実感が湧くと励ましてくれた。
鹿又にはちゃんと理解した上でそれが出来てるなら大したものだけどな、と釘を刺されたけど温のお陰でささやかな自信が持てたのだ。
自分こそ凄い才能があるのに、こまちんは理解していなくて自信が無くて何でなんだよって悔しくなるけどそれが彼なんだよね。
不思議と庇護したくなる雰囲気があるんだ。同じ歳なのにね。
啓太は温の力になりたいと思う。けれどどうして良いか分からない。
ああ、じれったいなぁ、不甲斐無いなぁと思っていたら花森がすたすたと近付いてきて黙ったまま温に拳を突き出した。
「えと、花さん?」
「あげる」
戸惑う温に低くて好い声で言った。それを聴いて啓太は胸の底が疼く。
好い声だなぁ。もっと聴いていたいなぁ。でも黙ってそこにいるだけでも花ちゃんは可愛いからなぁ。それで十分なんだけど、やっぱり声が好きだなぁ。
よく躾けられた大型犬のように啓太はじっとその場に佇んだ。
その横で花森は拳を開き、そこから温のお椀型にした両手の平にぱらぱらとカラフルな包みが落ちてきた。
「チョコレート。貰い物だけど」
「…………ありがとうございます」
キャンディーのように丸い包みからはカカオの匂いとフルーツや花の匂いがした。どこか外国の香りのするそれは、確かにちょっとだけ温の心を慰めた。
目元の和んだ温を見て、花森も小さく口元を緩めて自席に戻った。それを目で追っていた啓太に、温が手の平を差し出した。
「啓太もどうぞ」
自分の気持ちを知ってか知らずか、温は折角貰ったそれを分けてくれると言う。啓太は少し躊躇して、それから一つを指で摘み上げた。
「ありがとう。こまちん、ありがとう」
心の籠もったお礼の言葉に、温は胸を暖かくさせて自分の部署に戻った。
戻る途中、医務室の前を通り掛り優しい人の笑顔を思い浮かべたが直ぐに首を横に振る。
あの人も健全で明るい。”あちら側”の人間だ。
闇など持ち込んではいけない。
温は扉の前を素通りして行った。
****
ダニエルのところに行ったらあの男がいそうで嫌だったが下っ端に上司の言い付けを拒否する権利などある筈も無く、恐る恐る開発部に足を運んだ温を常に無い様子のダニエルが出迎えた。
「申請書ならそこに置いて行って」
苛立ちを抑えたように低い声で言われて温は首を傾げる。
良く言えばいつも余裕ありげな男が、悪く言えば常にかったるそうな雰囲気を醸し出している男が、気が立った猫のようにピリピリしている。
「あの、中身を確認して承認印を戴いてくるように言われたんですけど…………お忙しいなら、出直してきます」
「いや、見るよ」
ダニエルは書類を黙って確認し、印鑑を押して温に返した。
「この後、営業部も回るんだろう? その後――ちょっと、寄ってくれないか」
「え?あ、はい、いいですけど…………」
落ち込んだようでありながら、どこか興奮した気配もあるダニエルの異様な佇まいに押されて温は頷いた。
営業部を訪ね、丁度良く席にいた鹿又に書類を渡したら彼はダニエルの認印の跡を見詰め、指でそっと撫でた。その柔らかい手付きに温はどきりと胸が騒いだ。
「ダニーは――ちゃんと、仕事をしていたかい?」
何でもない風に訊ねられ、温も何でもない風に答える。
「していました。少し、苛々して根を詰めている感じがしましたけど」
「そう…………か」
片手で口元を覆い、遠い目をする鹿又が何を考えているのか温には分からない。けれどダニエルの事ではないかと思った。だから言った。
「この後、もう一度開発部に寄るんです。ダニエルさんにそう言われてるから」
「ダニーに?」
鹿又は意外そうに視線を上げ、それから悩ましげに眉を寄せた。
とても意外だが、鹿又は何かを逡巡しているように見えた。温は自分よりもずっと年上で大人の鹿又でも思い迷う事があるのかと、信じられないような不思議な気持ちで彼を眺めた。
それから鹿又はちょっと待っていてくれ、と温を待たせて一端姿を消し、封筒を手に戻ってきてそれを書類ケースに入れた。
「これをもう一度、彼に確認して貰ってくれ」
「はい」
温はぺこりと頭を下げて小走りに部屋を出た。鹿又の真剣な目が彼を急がせた。
開発部に戻ってダニエルに書類ケースを手渡し、鹿又の言葉を伝えた。
彼は一瞬頼りない表情をして、それからいつものしっかりとした顔付きに戻って中身を確認した。
さっきは無かった封筒を手に取り、慎重な手付きで開いて中を取り出す。ぺらりと薄い、一筆書きの便箋を見てダニエルの目が大きく開かれた。
「あ……ぁ、ヨウイチ………………」
便箋を胸に抱き締めて、ダニエルはぎゅっと目を閉じた。その肩が震えて、感情が溢れ出すのを温は衝撃と共に目撃する。
「俺も、好き………………」
彼は囁いて、愛しそうに便箋に口付けた。ああ、そうなのかと思った。
ああ、そうなのか。これは恋が叶った瞬間なのか。いいな、素敵だな。
理性では素敵な事だと、良かったと思うのだけど、何故か感情は沈黙したままぴくりとも動かない。
他人の恋が叶ったから、それがどうした?
胸の底の方に冷たく硬い石がある。いつからか抱えていた石だ。
温はそっとその場を離れ、部屋を出て行った。
席に戻り、花ちゃんから貰ったチョコレートを机の上に出した。その包み紙を一つずつ開いていく。
オレンジリキュール、キルシュ、フランボワーズ。包み紙を開く度に新しい匂いが拡がる。
ミント、シトロン、アナナス、フランジェリコ。多種多様なそれをまとめて口に押し込む。
本当は一つずつ大事に食べようと思っていた。けれど。
カルヴァドス、アイリッシュクリーム、カフェ・モーツァルト。アルコール分が強く、喉を焼くそれ。
酩酊には足りないが温の中の何かに確実に火を点けた。
僕はこのまま沈んだりしない。身の内に抱えた石と共に沈んだりはしない。
黙って消えてやるものか。
温は舌に残る甘さと苦さにそう決意した。
****
目の前に現れた青年を見て、秋津は眉を顰めた。
「こんばんは」
平然と挨拶をしてくる青年が不気味だ。酷い目に遭ったのにどうして、と訝る秋津に温は苦笑して言った。
「あなたは僕に消えて欲しかったんでしょうけど…………ごめんなさい。僕はあのまま消えてしまう事は出来ませんでした」
開き直ったのとは違う。ふてぶてしい訳でもない。一生懸命なのだ。何に?自分の想いにか?
秋津は想像しかけて直ぐに止める。考えたって仕方がない。自分には関わりの無い事だ。
「俺に関わると、あいつが出てきて痛めつける。昔からそうなんだ」
だから近付くな、関わるなと警告しているのに温は嬉しそうに微笑んだ。
「やっと、僕に話し掛けてくれた。あなた自身が、僕に向かって」
これまではその辺にある自販機やゴミ箱に向かって話し掛けるのと同じだったのに、自分をちゃんと認識して言葉をくれたと喜ぶ。
その熱の入りようが、秋津に昔自分に付き纏った男を思い出させ、けれども彼とは決定的に何かが違うとも思う。
「君はどうしたいんだ」
少々の苛立ちと共に訊ねた秋津に、温は戸惑ったように俯いてぼそぼそと言った。
「僕にも、分かりません。ただあなたが、あなたに………………」
自分に何かを求めているのか? でも求められている感じも余りしない。ただこちらへと向けられる温かい感情だけを肌に感じる。
「俺は何もしてあげられないよ。何一つ、君にあげるものは無いから」
だからもう無駄な事は止めろ。俺を混乱させないでくれ。そう願う秋津の気持ちを知らず、温はそっと笑った。
「あなたは真面目なんですね」
それを嬉しそうに言われて秋津の中で罅が入った。
こいつは自分が、売り渡されるように見捨てられたのを忘れたのか? 俺はカザマが何をするか知っていて止めず、札を置いて協力すらした。そもそも自分が困って見せればカザマがどう動くのか知っていたし。手を下さなかっただけで、寧ろ俺の悪意によって傷付いたというのに。
秋津は酷く苛々して声を荒げた。
「いい加減にしろ! 俺が真面目だなんて、見当違いも良いところだ。俺は自分だけが可愛くて、いい加減で、適当に生きてる。昨日も、今日も、明日も、その先も!」
こんな事をもう十年も繰り返してきた。そしてこの先も続けていくのだろう。それを助けてくれる奴もいる。だからずっとこれでいいんだ。何も変えたくない。
「ごめんなさい。僕はあなたを怒らせてしまった」
そんなつもりはなかった、と俯く青年に秋津は恐怖を覚える。
十年掛けて築き上げた自分のスタイルが、悪意も他意も無さそうな青年によって崩されそうになっている。
熱情でも狂気でもない。ただの柔らかい好意によってだ。
「理解…………出来ない」
秋津は呻いて自分の同類を探す。何処へ行った。俺を一人にして、何処へ行った。
きょろきょろと彷徨う視線を淡い色の瞳が捕らえた。
「カザマ!」
秋津は声を上げて一歩前に踏み出し、駆け寄ってきた相手を見て動きを止めた。
俺はこいつにだって縋ったりしない。俺からは動かない。何も頼まない。
「遅くなってゴメン」
一ヶ所で手間取っていつもよりも時間が掛かった、そう話す相手の目が心配そうに自分の全身を舐めるのを秋津は黙殺した。
自分に関しては酷く心配性である事を、この男は隠せていると思っている。どれだけ気を遣っているか、覚らせていないと思っている。自分もそう振る舞ってはいるが、迂闊な男だと思う。
「待ち草臥れた」
疲れたからとっとと帰るぞ、といつもの調子を取り戻して秋津は風間に乱暴に言った。
無視された恰好になった温を風間がちらりと見て、直ぐに視線を逸らせた。
まるでこの間の事など忘れた様子で、温はホッとすると共に悔しさも覚えた。
あれだけの事をして、全く気に掛けていない相手が腹立たしい。
「迷惑かもしれないけど、僕は消えないから。これからも、あなたに話し掛けるから」
また来る、と言われて秋津の瞳が不安気に揺れた。それを風間は勿論見逃したりはしない。
「また構って欲しくなった? 癖になっちゃった?」
悪意を隠そうともしない笑みを浮かべられて、温は顔を逸らした。
やっぱり怖い。彼の息遣いとか、小さく漏らした声だとか、体温や交じり合う汗がリアルに蘇ってくる。
「アキ、車で待ってて」
そう言うと風間は夜を司る王のように酷薄な足取りで温に向かった。しかしそれを秋津が止める。
「疲れたって言ってるだろう。早く帰りたいんだ。遊びならまたにしろ」
ぴたり、と風間の足が止まった。彼に秋津に背くという選択肢は無い。
「うさぎくん、残念だったね。君と遊ぶのはまた今度にしよう」
次は逃がさない。獲物として甚振る。そう宣言しておいて風間は秋津と共に立ち去った。
温は張り詰めていた緊張の糸が解け、へなへなとその場に座り込んでしまった。
自分から、わざわざ関わりに行ってしまった。何の勝算も無いのに。
自分で自分が分からない。混乱もしている。
それでも少し晴れやかな気持ちになって、温は柔らかく笑った。
****
助手席で、足を組んで窓枠に肘を付きながら秋津がぼんやりと外を眺めている。
圧の掛からない丁寧な運転をしながら、風間は頭に上った血を冷やそうと規則正しい呼吸をした。
秋津が自分の行動を止めた。
これまで何をしようと無関心で、口でいい加減にしておけと言ってもそれは習慣か形式的なものに過ぎなかったのに、今日は本気で止めた。
あの子供に同情した?
まさか、と風間は直ぐに打ち消す。
秋津は他人が傷付いても気にしない。厳密には自分が傷付く方が痛いと知っているから、自分の身の安全を思えば何も出来ないししないのだが。
あの子供を庇う理由などあるか? 一度は滅茶苦茶にされると分かっていて見逃した癖に。
風間は自分の予想外の事が起こっていると知って苛立ちを覚えた。
これまで散々やってきた事だった。秋津に興味を抱き、ふらふらと近付いてきて彼を煩わせるものを痛めつけて排除する。
自分がされた仕打ちに打ちのめされて、秋津どころでは無くなって消えていった人々。それとあの子供がどう違う?
小さく頼りない身体をしていた。きっと女性ともろくに経験が無いのだろう、触れられる事にすら不慣れだった。
混乱と恐怖に大きな声も出せず、それでも精一杯にあげたか細い悲鳴を聴きながらがちがちに強張る身体を無理矢理に開いた。
血は出なかったものの、こじ開けられたそこは狭くて硬く、痛みしか感じなかっただろう。
そんな彼の諦めたように力を抜いて人形のようになった体を奥まで抉ってやった。
まあ、悪くは無かったけれど。
風間は彼の中に二回、射精した事を思い出す。
どうせ生じゃなかったのだから、出す必要は無かったんだ。
ただ手酷く犯して、ショックを与えればそれで良かったのに。
セックスでは無く暴力だったのに。
悪く無かった。
もう一度思って、風間は首を横に振る。名前も憶えていない相手だ。
「担当、変われないかな」
不意にぽつりと秋津が言った。その横顔を窺い見る。
「言えば変えてくれるんじゃない」
気の無い素振りで言ったら秋津は直ぐに言を翻した。
「やっぱりいい」
それきり再び黙り込む。
暫く車内に沈黙が横たわり、夜の深さを伝えた。
「アキ」
「何?」
「次は止めないでね」
「………………」
秋津は風間の言葉に黙して答えない。
「俺はもう一度あれを壊そうと思う。より酷い方法でね」
「…………壊れなかったら?」
壊れるなら止めない、けれど。
秋津の不安を瞳の中に読み取って、風間は冷やりとしたものを背中に感じる。
「アキ、それはない。それは、ない」
二回繰り返した風間に、秋津は却って心配になる。
あの子は悪意に悪意を返して来なかった。そんな相手は自分達の想像外だ。
理解出来ず、対処も分からず、ただ途方に暮れる。
「カザマ――」
『もう放って置こう』
『手加減するな』
どっちの言葉を言おうとしたのか秋津は自分でも分からず、口にされなかった言葉が何処かへ消え去った。
風間は追い詰められた気分で、二度目の狩りを思った。
あの男は血が出ていないと言ったが、小さな傷は出来たのだろう。あの部分が痛痒くて座っているのも辛くて、かといってどう対処をすればいいのか分からずにじっと耐えるしかなかった。
ぞわぞわとした痛痒さは穴の表面や周囲から中にまで侵蝕して、掻き毟りたいような気持ちになった。でも実際には怖くて触れる事も出来ない。早くこの痒みが引けばいいのに、とそれだけを願っていた。
身体が楽になったら待っていたように心が軋み出した。
自分は男に犯された。それも良く知りもしない男にのこのこと着いて行き、あちこち触られて戸惑っている内にのっぴきならないところに押し込まれた。
あれでは自業自得だ。相手の男を憎む前に、自分を憎んでしまう。
「おまけに良くないって…………痛いばかりだって…………」
温は苦情を言われると自分の至らなさをただただ謝りたくなってしまう。だからあの男にも申し訳ないような気すら抱くのだ。
それでも二回出せたようで良かった、などと思って流石にそれは可笑しいだろうと自分を戒める。
陵辱した相手に気を遣ってどうするんだ。僕は馬鹿じゃないか。
ちゃんと理性では自分の可笑しさに気付く。でも感情は自分なんてと卑屈に傾く。
「誰かに、相談した方がいいのかな」
こんな目に遭ったなどと言うのは嫌だけど、一人で抱えきれる事でもない。どうしよう、と温は思い迷う。
「こまちん、顔色が悪いけど大丈夫?」
営業部の啓太に訊かれて頷いた。
彼には知られたくない。明るくてまともなところにいる彼に、自分を襲った異様な出来事など持ち込みたくない。
「大丈夫だよ。啓太は今日も元気だね」
一生懸命に笑った温を見て、啓太はやっぱり何かあったのじゃないかと思う。
彼が繊細で優しい人である事は話してみて直ぐに分かった。商品の細かい性能を覚え切れなくて、覚えられない!と癇癪を起こした自分を大丈夫と言ってくれた。
『大丈夫。ちゃんと違うって事が伝わってくるよ。啓太の説明は凄く分かり易い』
そう言って、一般の人には性能をつらつらと並べ立てるよりもきっと実感が湧くと励ましてくれた。
鹿又にはちゃんと理解した上でそれが出来てるなら大したものだけどな、と釘を刺されたけど温のお陰でささやかな自信が持てたのだ。
自分こそ凄い才能があるのに、こまちんは理解していなくて自信が無くて何でなんだよって悔しくなるけどそれが彼なんだよね。
不思議と庇護したくなる雰囲気があるんだ。同じ歳なのにね。
啓太は温の力になりたいと思う。けれどどうして良いか分からない。
ああ、じれったいなぁ、不甲斐無いなぁと思っていたら花森がすたすたと近付いてきて黙ったまま温に拳を突き出した。
「えと、花さん?」
「あげる」
戸惑う温に低くて好い声で言った。それを聴いて啓太は胸の底が疼く。
好い声だなぁ。もっと聴いていたいなぁ。でも黙ってそこにいるだけでも花ちゃんは可愛いからなぁ。それで十分なんだけど、やっぱり声が好きだなぁ。
よく躾けられた大型犬のように啓太はじっとその場に佇んだ。
その横で花森は拳を開き、そこから温のお椀型にした両手の平にぱらぱらとカラフルな包みが落ちてきた。
「チョコレート。貰い物だけど」
「…………ありがとうございます」
キャンディーのように丸い包みからはカカオの匂いとフルーツや花の匂いがした。どこか外国の香りのするそれは、確かにちょっとだけ温の心を慰めた。
目元の和んだ温を見て、花森も小さく口元を緩めて自席に戻った。それを目で追っていた啓太に、温が手の平を差し出した。
「啓太もどうぞ」
自分の気持ちを知ってか知らずか、温は折角貰ったそれを分けてくれると言う。啓太は少し躊躇して、それから一つを指で摘み上げた。
「ありがとう。こまちん、ありがとう」
心の籠もったお礼の言葉に、温は胸を暖かくさせて自分の部署に戻った。
戻る途中、医務室の前を通り掛り優しい人の笑顔を思い浮かべたが直ぐに首を横に振る。
あの人も健全で明るい。”あちら側”の人間だ。
闇など持ち込んではいけない。
温は扉の前を素通りして行った。
****
ダニエルのところに行ったらあの男がいそうで嫌だったが下っ端に上司の言い付けを拒否する権利などある筈も無く、恐る恐る開発部に足を運んだ温を常に無い様子のダニエルが出迎えた。
「申請書ならそこに置いて行って」
苛立ちを抑えたように低い声で言われて温は首を傾げる。
良く言えばいつも余裕ありげな男が、悪く言えば常にかったるそうな雰囲気を醸し出している男が、気が立った猫のようにピリピリしている。
「あの、中身を確認して承認印を戴いてくるように言われたんですけど…………お忙しいなら、出直してきます」
「いや、見るよ」
ダニエルは書類を黙って確認し、印鑑を押して温に返した。
「この後、営業部も回るんだろう? その後――ちょっと、寄ってくれないか」
「え?あ、はい、いいですけど…………」
落ち込んだようでありながら、どこか興奮した気配もあるダニエルの異様な佇まいに押されて温は頷いた。
営業部を訪ね、丁度良く席にいた鹿又に書類を渡したら彼はダニエルの認印の跡を見詰め、指でそっと撫でた。その柔らかい手付きに温はどきりと胸が騒いだ。
「ダニーは――ちゃんと、仕事をしていたかい?」
何でもない風に訊ねられ、温も何でもない風に答える。
「していました。少し、苛々して根を詰めている感じがしましたけど」
「そう…………か」
片手で口元を覆い、遠い目をする鹿又が何を考えているのか温には分からない。けれどダニエルの事ではないかと思った。だから言った。
「この後、もう一度開発部に寄るんです。ダニエルさんにそう言われてるから」
「ダニーに?」
鹿又は意外そうに視線を上げ、それから悩ましげに眉を寄せた。
とても意外だが、鹿又は何かを逡巡しているように見えた。温は自分よりもずっと年上で大人の鹿又でも思い迷う事があるのかと、信じられないような不思議な気持ちで彼を眺めた。
それから鹿又はちょっと待っていてくれ、と温を待たせて一端姿を消し、封筒を手に戻ってきてそれを書類ケースに入れた。
「これをもう一度、彼に確認して貰ってくれ」
「はい」
温はぺこりと頭を下げて小走りに部屋を出た。鹿又の真剣な目が彼を急がせた。
開発部に戻ってダニエルに書類ケースを手渡し、鹿又の言葉を伝えた。
彼は一瞬頼りない表情をして、それからいつものしっかりとした顔付きに戻って中身を確認した。
さっきは無かった封筒を手に取り、慎重な手付きで開いて中を取り出す。ぺらりと薄い、一筆書きの便箋を見てダニエルの目が大きく開かれた。
「あ……ぁ、ヨウイチ………………」
便箋を胸に抱き締めて、ダニエルはぎゅっと目を閉じた。その肩が震えて、感情が溢れ出すのを温は衝撃と共に目撃する。
「俺も、好き………………」
彼は囁いて、愛しそうに便箋に口付けた。ああ、そうなのかと思った。
ああ、そうなのか。これは恋が叶った瞬間なのか。いいな、素敵だな。
理性では素敵な事だと、良かったと思うのだけど、何故か感情は沈黙したままぴくりとも動かない。
他人の恋が叶ったから、それがどうした?
胸の底の方に冷たく硬い石がある。いつからか抱えていた石だ。
温はそっとその場を離れ、部屋を出て行った。
席に戻り、花ちゃんから貰ったチョコレートを机の上に出した。その包み紙を一つずつ開いていく。
オレンジリキュール、キルシュ、フランボワーズ。包み紙を開く度に新しい匂いが拡がる。
ミント、シトロン、アナナス、フランジェリコ。多種多様なそれをまとめて口に押し込む。
本当は一つずつ大事に食べようと思っていた。けれど。
カルヴァドス、アイリッシュクリーム、カフェ・モーツァルト。アルコール分が強く、喉を焼くそれ。
酩酊には足りないが温の中の何かに確実に火を点けた。
僕はこのまま沈んだりしない。身の内に抱えた石と共に沈んだりはしない。
黙って消えてやるものか。
温は舌に残る甘さと苦さにそう決意した。
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目の前に現れた青年を見て、秋津は眉を顰めた。
「こんばんは」
平然と挨拶をしてくる青年が不気味だ。酷い目に遭ったのにどうして、と訝る秋津に温は苦笑して言った。
「あなたは僕に消えて欲しかったんでしょうけど…………ごめんなさい。僕はあのまま消えてしまう事は出来ませんでした」
開き直ったのとは違う。ふてぶてしい訳でもない。一生懸命なのだ。何に?自分の想いにか?
秋津は想像しかけて直ぐに止める。考えたって仕方がない。自分には関わりの無い事だ。
「俺に関わると、あいつが出てきて痛めつける。昔からそうなんだ」
だから近付くな、関わるなと警告しているのに温は嬉しそうに微笑んだ。
「やっと、僕に話し掛けてくれた。あなた自身が、僕に向かって」
これまではその辺にある自販機やゴミ箱に向かって話し掛けるのと同じだったのに、自分をちゃんと認識して言葉をくれたと喜ぶ。
その熱の入りようが、秋津に昔自分に付き纏った男を思い出させ、けれども彼とは決定的に何かが違うとも思う。
「君はどうしたいんだ」
少々の苛立ちと共に訊ねた秋津に、温は戸惑ったように俯いてぼそぼそと言った。
「僕にも、分かりません。ただあなたが、あなたに………………」
自分に何かを求めているのか? でも求められている感じも余りしない。ただこちらへと向けられる温かい感情だけを肌に感じる。
「俺は何もしてあげられないよ。何一つ、君にあげるものは無いから」
だからもう無駄な事は止めろ。俺を混乱させないでくれ。そう願う秋津の気持ちを知らず、温はそっと笑った。
「あなたは真面目なんですね」
それを嬉しそうに言われて秋津の中で罅が入った。
こいつは自分が、売り渡されるように見捨てられたのを忘れたのか? 俺はカザマが何をするか知っていて止めず、札を置いて協力すらした。そもそも自分が困って見せればカザマがどう動くのか知っていたし。手を下さなかっただけで、寧ろ俺の悪意によって傷付いたというのに。
秋津は酷く苛々して声を荒げた。
「いい加減にしろ! 俺が真面目だなんて、見当違いも良いところだ。俺は自分だけが可愛くて、いい加減で、適当に生きてる。昨日も、今日も、明日も、その先も!」
こんな事をもう十年も繰り返してきた。そしてこの先も続けていくのだろう。それを助けてくれる奴もいる。だからずっとこれでいいんだ。何も変えたくない。
「ごめんなさい。僕はあなたを怒らせてしまった」
そんなつもりはなかった、と俯く青年に秋津は恐怖を覚える。
十年掛けて築き上げた自分のスタイルが、悪意も他意も無さそうな青年によって崩されそうになっている。
熱情でも狂気でもない。ただの柔らかい好意によってだ。
「理解…………出来ない」
秋津は呻いて自分の同類を探す。何処へ行った。俺を一人にして、何処へ行った。
きょろきょろと彷徨う視線を淡い色の瞳が捕らえた。
「カザマ!」
秋津は声を上げて一歩前に踏み出し、駆け寄ってきた相手を見て動きを止めた。
俺はこいつにだって縋ったりしない。俺からは動かない。何も頼まない。
「遅くなってゴメン」
一ヶ所で手間取っていつもよりも時間が掛かった、そう話す相手の目が心配そうに自分の全身を舐めるのを秋津は黙殺した。
自分に関しては酷く心配性である事を、この男は隠せていると思っている。どれだけ気を遣っているか、覚らせていないと思っている。自分もそう振る舞ってはいるが、迂闊な男だと思う。
「待ち草臥れた」
疲れたからとっとと帰るぞ、といつもの調子を取り戻して秋津は風間に乱暴に言った。
無視された恰好になった温を風間がちらりと見て、直ぐに視線を逸らせた。
まるでこの間の事など忘れた様子で、温はホッとすると共に悔しさも覚えた。
あれだけの事をして、全く気に掛けていない相手が腹立たしい。
「迷惑かもしれないけど、僕は消えないから。これからも、あなたに話し掛けるから」
また来る、と言われて秋津の瞳が不安気に揺れた。それを風間は勿論見逃したりはしない。
「また構って欲しくなった? 癖になっちゃった?」
悪意を隠そうともしない笑みを浮かべられて、温は顔を逸らした。
やっぱり怖い。彼の息遣いとか、小さく漏らした声だとか、体温や交じり合う汗がリアルに蘇ってくる。
「アキ、車で待ってて」
そう言うと風間は夜を司る王のように酷薄な足取りで温に向かった。しかしそれを秋津が止める。
「疲れたって言ってるだろう。早く帰りたいんだ。遊びならまたにしろ」
ぴたり、と風間の足が止まった。彼に秋津に背くという選択肢は無い。
「うさぎくん、残念だったね。君と遊ぶのはまた今度にしよう」
次は逃がさない。獲物として甚振る。そう宣言しておいて風間は秋津と共に立ち去った。
温は張り詰めていた緊張の糸が解け、へなへなとその場に座り込んでしまった。
自分から、わざわざ関わりに行ってしまった。何の勝算も無いのに。
自分で自分が分からない。混乱もしている。
それでも少し晴れやかな気持ちになって、温は柔らかく笑った。
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助手席で、足を組んで窓枠に肘を付きながら秋津がぼんやりと外を眺めている。
圧の掛からない丁寧な運転をしながら、風間は頭に上った血を冷やそうと規則正しい呼吸をした。
秋津が自分の行動を止めた。
これまで何をしようと無関心で、口でいい加減にしておけと言ってもそれは習慣か形式的なものに過ぎなかったのに、今日は本気で止めた。
あの子供に同情した?
まさか、と風間は直ぐに打ち消す。
秋津は他人が傷付いても気にしない。厳密には自分が傷付く方が痛いと知っているから、自分の身の安全を思えば何も出来ないししないのだが。
あの子供を庇う理由などあるか? 一度は滅茶苦茶にされると分かっていて見逃した癖に。
風間は自分の予想外の事が起こっていると知って苛立ちを覚えた。
これまで散々やってきた事だった。秋津に興味を抱き、ふらふらと近付いてきて彼を煩わせるものを痛めつけて排除する。
自分がされた仕打ちに打ちのめされて、秋津どころでは無くなって消えていった人々。それとあの子供がどう違う?
小さく頼りない身体をしていた。きっと女性ともろくに経験が無いのだろう、触れられる事にすら不慣れだった。
混乱と恐怖に大きな声も出せず、それでも精一杯にあげたか細い悲鳴を聴きながらがちがちに強張る身体を無理矢理に開いた。
血は出なかったものの、こじ開けられたそこは狭くて硬く、痛みしか感じなかっただろう。
そんな彼の諦めたように力を抜いて人形のようになった体を奥まで抉ってやった。
まあ、悪くは無かったけれど。
風間は彼の中に二回、射精した事を思い出す。
どうせ生じゃなかったのだから、出す必要は無かったんだ。
ただ手酷く犯して、ショックを与えればそれで良かったのに。
セックスでは無く暴力だったのに。
悪く無かった。
もう一度思って、風間は首を横に振る。名前も憶えていない相手だ。
「担当、変われないかな」
不意にぽつりと秋津が言った。その横顔を窺い見る。
「言えば変えてくれるんじゃない」
気の無い素振りで言ったら秋津は直ぐに言を翻した。
「やっぱりいい」
それきり再び黙り込む。
暫く車内に沈黙が横たわり、夜の深さを伝えた。
「アキ」
「何?」
「次は止めないでね」
「………………」
秋津は風間の言葉に黙して答えない。
「俺はもう一度あれを壊そうと思う。より酷い方法でね」
「…………壊れなかったら?」
壊れるなら止めない、けれど。
秋津の不安を瞳の中に読み取って、風間は冷やりとしたものを背中に感じる。
「アキ、それはない。それは、ない」
二回繰り返した風間に、秋津は却って心配になる。
あの子は悪意に悪意を返して来なかった。そんな相手は自分達の想像外だ。
理解出来ず、対処も分からず、ただ途方に暮れる。
「カザマ――」
『もう放って置こう』
『手加減するな』
どっちの言葉を言おうとしたのか秋津は自分でも分からず、口にされなかった言葉が何処かへ消え去った。
風間は追い詰められた気分で、二度目の狩りを思った。
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かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
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