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95.獣神降臨ー1
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(酷い目に遭った……)
儀式を終えた俺は竜の心臓を手に入れ、滅多なことでは死ななくなった。
でも宝珠というのを持っていないので、神通力は使えないらしい。
(死ななくなったって言われても、特に自覚症状は無いんだよな)
見た目も大して変わっていないし、相変わらず体力はそこそこしか無い。
それに比べて、ロクは凄い。
体表から金粉みたいなキラキラと光る粉が舞い散っていて、明らかに神格が上がっている。
(これってもう神になったんじゃないの?)
そう思ったけど、お師匠様いわく隠せないようではまだ三流なのだそうだ。
まぁ、そう簡単に神様になれたらありがたみも無いもんね。
いや、三日三晩抱かれ続けるのはちっとも簡単じゃなかったけどさ。
「お前が女ならば良かったのになぁ」
俺たちを羨ましがってハヌマーンがそう言った。
でも勿論、俺にだって相手を選ぶ権利がある。
「例え女でもお断りだよ! 人間は普通は複数人と寝ないんだからな!」
「しかし神霊とロクサーン侯を交互に相手したではないか」
「そ、それは……例外って言うか、仕方がなかったから」
「ならば俺だって例外にすればいい」
「簡単に言うな!」
俺にしたら結構な覚悟をもってしたことだった。
幾らロクと同一の魂だと言われても、ロクの一部なんだと思っても黒豹の姿をしたものと交わるのは怖いし勇気がいった。
しかも一度だけでなく、何度も何度も繰り返し抱かれてナカに出されて奥に擦り付けられもした。
あれはきっと、体験した人にしかわかって貰えない。
「チヤ、お前が苦しむとわかっていたら他の方法を考えた」
俺以上に苦しげなロクを見て、思わず苦笑する。
「苦しい訳じゃないんだ。ただ、何ていうか……困ったな」
俺はロクにも上手く言えなくて困ってしまった。
それに後悔しているのでもない。
「あのね、ロクは悪くないよ。それに神霊も悪くない。多分……俺も悪くない」
これは誰が悪いって話じゃない。
だからこの話はここまでにして貰おう。
「それより、猩々たちが神霊の言うことを聞くなんて思わなかったね」
「ハヌマーンを見限ったのではないか?」
「神霊の方が賢そうだもんねぇ」
口々に好き勝手なことを言う俺たちに向かってハヌマーンが吠える。
「猩々どもは俺の手下だ! 神霊の言うことはムリヤリ聞かされたんだっ!」
「無理矢理ぃ? そうかなぁ、かんっぜんに服従してたと思うんだけど」
「なんだとッ!」
ハヌマーンはショックを受けているけど、それが強くなった神霊の力なんだと思う。
森に棲むものを屈服させるとか、支配するとかそういう力があるのだろう。
「三人とも――神霊は人じゃないけど、獣神と戦う為に頑張ったんだ。強くなっていて当然だろ」
これでもまだ足りるかわからない。
幾ら強くなっても俺たちは神じゃないから。
「イチヤ、そんなに気負うことはありません。負けてもそなたたちは天界へ来れば良いのです」
お師匠様は珍しくこちらを気遣ったセリフを言ってくれたけれど、残念ながら的外れだ。
俺は苦笑しながら答える。
「負けても自分たちだけは大丈夫って思えるくらいなら、俺は最初から天下を取るなんて言わないよ」
「それは大した覚悟ですが、神には勝てませんよ?」
「わかってる。勝てなくても、噛み付いて追い返して見せるさ」
それが出来なきゃ俺たちはいつまでたっても神同士に取り合いをされる駒でしか無い。
結局、自分自身が前に立つしか無い。そこに逃げ道は無いんだ。
「チヤ、神が来た」
お師匠様がいるのに、遠くの空から包囲するように獣神たちが飛んできた。
円心上に空に配置する半人半獣の神は、悔しいけれど神々しくもカッコイイ。
「ちょ、あれ格好良すぎじゃない?」
ロクに負けないくらいイケてる獣メンズが俺たちを睥睨していて、思っていたのと違う姿に俺は慌てた。
「人間は、やはり人の神よりも獣の神の方が好ましいのですね?」
悔しそうなお師匠様の声にハッとする。
うんまあ、どれだけ威厳があっても人の姿では神様っぽくないというか、雄々しい獣の姿には憧れちゃうんだよ。でもバカ正直にそんなことは言えないので、俺は別の言葉を探す。
「見慣れないからちょっと吃驚しただけ! でももう大丈夫! 見慣れちゃえば獣人たちと変わらないし」
嘘だ。獣人とは全く違う。それはもう、雑種の捨て犬と血統書付きの高級犬くらい違う。
「それより跪いた方が良いのかな?」
「必要ありません。そなたは天下人になるのですから」
お師匠様の言葉にそうだったと顔を上げる。
自分とは格の違う生き物だからって降らないからな。
『純血の人間がどうして此処にいる?』
立派な角を持った白山羊が問い掛けてきた。
俺は気後れしそうになりながらもハッタリをかます。
「異世界から君臨する為に来た。俺は人として、この地の権利を主張する」
『……異世界? 大神の手下ではないのか? そこに人の神もいる』
「違う。大神とは協力関係にあるだけだ」
『……』
怪しまれているのか、沈黙にプレッシャーを感じる。
でも嘘は言っていない。
『まさか、大神以外に勢力がいたとは……。それでお前、神霊を従えているのか?』
彼らにとっては一番の関心事が神霊なのだろう。
別の獣神にそう訊かれて俺は迷わず頷いた。
儀式を終えた俺は竜の心臓を手に入れ、滅多なことでは死ななくなった。
でも宝珠というのを持っていないので、神通力は使えないらしい。
(死ななくなったって言われても、特に自覚症状は無いんだよな)
見た目も大して変わっていないし、相変わらず体力はそこそこしか無い。
それに比べて、ロクは凄い。
体表から金粉みたいなキラキラと光る粉が舞い散っていて、明らかに神格が上がっている。
(これってもう神になったんじゃないの?)
そう思ったけど、お師匠様いわく隠せないようではまだ三流なのだそうだ。
まぁ、そう簡単に神様になれたらありがたみも無いもんね。
いや、三日三晩抱かれ続けるのはちっとも簡単じゃなかったけどさ。
「お前が女ならば良かったのになぁ」
俺たちを羨ましがってハヌマーンがそう言った。
でも勿論、俺にだって相手を選ぶ権利がある。
「例え女でもお断りだよ! 人間は普通は複数人と寝ないんだからな!」
「しかし神霊とロクサーン侯を交互に相手したではないか」
「そ、それは……例外って言うか、仕方がなかったから」
「ならば俺だって例外にすればいい」
「簡単に言うな!」
俺にしたら結構な覚悟をもってしたことだった。
幾らロクと同一の魂だと言われても、ロクの一部なんだと思っても黒豹の姿をしたものと交わるのは怖いし勇気がいった。
しかも一度だけでなく、何度も何度も繰り返し抱かれてナカに出されて奥に擦り付けられもした。
あれはきっと、体験した人にしかわかって貰えない。
「チヤ、お前が苦しむとわかっていたら他の方法を考えた」
俺以上に苦しげなロクを見て、思わず苦笑する。
「苦しい訳じゃないんだ。ただ、何ていうか……困ったな」
俺はロクにも上手く言えなくて困ってしまった。
それに後悔しているのでもない。
「あのね、ロクは悪くないよ。それに神霊も悪くない。多分……俺も悪くない」
これは誰が悪いって話じゃない。
だからこの話はここまでにして貰おう。
「それより、猩々たちが神霊の言うことを聞くなんて思わなかったね」
「ハヌマーンを見限ったのではないか?」
「神霊の方が賢そうだもんねぇ」
口々に好き勝手なことを言う俺たちに向かってハヌマーンが吠える。
「猩々どもは俺の手下だ! 神霊の言うことはムリヤリ聞かされたんだっ!」
「無理矢理ぃ? そうかなぁ、かんっぜんに服従してたと思うんだけど」
「なんだとッ!」
ハヌマーンはショックを受けているけど、それが強くなった神霊の力なんだと思う。
森に棲むものを屈服させるとか、支配するとかそういう力があるのだろう。
「三人とも――神霊は人じゃないけど、獣神と戦う為に頑張ったんだ。強くなっていて当然だろ」
これでもまだ足りるかわからない。
幾ら強くなっても俺たちは神じゃないから。
「イチヤ、そんなに気負うことはありません。負けてもそなたたちは天界へ来れば良いのです」
お師匠様は珍しくこちらを気遣ったセリフを言ってくれたけれど、残念ながら的外れだ。
俺は苦笑しながら答える。
「負けても自分たちだけは大丈夫って思えるくらいなら、俺は最初から天下を取るなんて言わないよ」
「それは大した覚悟ですが、神には勝てませんよ?」
「わかってる。勝てなくても、噛み付いて追い返して見せるさ」
それが出来なきゃ俺たちはいつまでたっても神同士に取り合いをされる駒でしか無い。
結局、自分自身が前に立つしか無い。そこに逃げ道は無いんだ。
「チヤ、神が来た」
お師匠様がいるのに、遠くの空から包囲するように獣神たちが飛んできた。
円心上に空に配置する半人半獣の神は、悔しいけれど神々しくもカッコイイ。
「ちょ、あれ格好良すぎじゃない?」
ロクに負けないくらいイケてる獣メンズが俺たちを睥睨していて、思っていたのと違う姿に俺は慌てた。
「人間は、やはり人の神よりも獣の神の方が好ましいのですね?」
悔しそうなお師匠様の声にハッとする。
うんまあ、どれだけ威厳があっても人の姿では神様っぽくないというか、雄々しい獣の姿には憧れちゃうんだよ。でもバカ正直にそんなことは言えないので、俺は別の言葉を探す。
「見慣れないからちょっと吃驚しただけ! でももう大丈夫! 見慣れちゃえば獣人たちと変わらないし」
嘘だ。獣人とは全く違う。それはもう、雑種の捨て犬と血統書付きの高級犬くらい違う。
「それより跪いた方が良いのかな?」
「必要ありません。そなたは天下人になるのですから」
お師匠様の言葉にそうだったと顔を上げる。
自分とは格の違う生き物だからって降らないからな。
『純血の人間がどうして此処にいる?』
立派な角を持った白山羊が問い掛けてきた。
俺は気後れしそうになりながらもハッタリをかます。
「異世界から君臨する為に来た。俺は人として、この地の権利を主張する」
『……異世界? 大神の手下ではないのか? そこに人の神もいる』
「違う。大神とは協力関係にあるだけだ」
『……』
怪しまれているのか、沈黙にプレッシャーを感じる。
でも嘘は言っていない。
『まさか、大神以外に勢力がいたとは……。それでお前、神霊を従えているのか?』
彼らにとっては一番の関心事が神霊なのだろう。
別の獣神にそう訊かれて俺は迷わず頷いた。
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