183 / 194
91.獣神の企みー1
しおりを挟む
何番目かのチェックポイントを回って、ああここもハズレだったなって通り過ぎようとしたところでハヌマーンの様子がおかしいことに気付く。
「ハヌマーン? どうかした?」
鼻をヒクヒクと鳴らして、まるで隠れている獲物の存在を嗅ぎ取ろうとしているかのようだった。
「獣の臭いがする……」
「そりゃあ、臭って当然だよ。君ってば、何度言っても身体を洗わないんだもの」
「違う! 俺じゃない! 嗅いだことのない獣の臭いがするんだっ!」
(嗅いだことのない獣の臭い?)
俺はなんとなく不安になってロクの方を見た。
「私はハヌマーンほど鼻が利かない。千里眼でも何も見えないが……」
「う~ん」
ロクには何も見えないが、ハヌマーンの鼻は異常を嗅ぎ取っている。
どう捉えるべきか……。
「お師匠様ぁ~。お師匠様はどう思いますぅ~?」
俺は声を張り上げて姿を消していたお師匠様を呼んだ。
お師匠様は旅の間いつも一緒にいる訳ではなくて、姿を消していたり何処かに出掛けたりしていた。それでも肝心な時にはいつの間にか側にいて、呼べば応えてくれるので気にしなかった。
今回も案の定、声を掛けたら直ぐに姿を見せた。
「獣神の気配がします」
「獣神? 本当に?」
彼らは簡単には人界に降りてこられないと思っていたんだけど。
「恐らく本体ではなく、幻影のようなものでしょう」
「フンッ、だから臭かったのか!」
ハヌマーンはやけに攻撃的だけど、こいつは獣神に何かされたのか?
なんでこんな毛嫌いしてんの?
「ハヌマーンは獣神と因縁でもあんの?」
「ない! ないが同じように嫌われた!」
「もしかして、獣神と姿が似ているから他の神に嫌われたってこと?」
「そうだ!」
神にとって性別同様に姿も簡単に変えられるものではあるけど、だから大事じゃないかと言えばそうではない。
形が中身を決めることもあり、中身が形を決めることもある。
つまりその者にとって、一番自然で楽な姿がその者の本質ということだ。
「ハヌマーンの罪は罪として、他の神の分まで背負わされるのはやってられないよな。むかっ腹が立つ気持ちはわかる。けど、もしも獣神を見つけてもいきなり突っかかって行くなよ」
「どうしてだっ!」
「だって神との争いなんて、避けられるなら避けた方が良いに決まってるじゃん」
ハヌマーンは元凶憎しで目が眩んでいるけど、そもそも神格の高い神とやり合える筈がない。
俺たちに出来るのは、ルールの穴を突くだとか詐欺みたいな取り引きを成立させるのが精一杯で、最初から勝ち目なんてものは万に一つも無い。
だから慎重になるべきなんだ。なのにハヌマーンはお構いなしに言う。
「だが、奴等は敵だ。争いは避けられない」
(……どうして。どうしてそんなに簡単に諦めるんだよ?)
それしかないって決め付けたら、他の方法を探さなかったら見つかる訳がない。
もっと良い方法があるかもしれないのに、戦わずに済むかもしれないのに。
「大事な人を殺されたとかじゃないんでしょ? 仇ならしようがないけど、敵ならこれから味方になる可能性だってあるじゃないか」
俺はね、もしも自分の大事な人が殺されたら、時間を巻き戻せないなら気が済むまで報復をしても良いと思ってる。
それで殺された人が生き返らなくても、喪失感を埋められなくても、例えもっと苦しむことになっても報復は絶対にする。
何故なら、とても許せるとは思えないからだ。
「イチヤ、味方になど絶対にならぬ。あやつらは既に神の種を播いたのだからな」
うわ、生々しいな。
それは確かに眷属だか依代だかにする為に獣神は自分たちの種を播いたんだけどさ。
俺は言葉に詰まってロクを見上げた。ロクは俺を腕の中にしまい込むように抱き寄せ、頭に鼻を寄せながら言った。
「獣神の邪悪な思惑があっても、神霊を持つ今を厭わしいとは思わない。彼らに利用されなければいいだけの話だ」
「ふん。せっかく播いた種を利用できなければ、奴らは怒るのではないか?」
「獣神がハヌマーンとおんなじように考えるとは限らないだろ。もっと諦めが良いかもしれない」
「ならば何故、性懲りも無く手を出してきた」
「だからそれをこれから調べてみようってば」
ハヌマーンが言うように良からぬ企みをしているのだとしても、それでもまだだ。まだ取り戻しはつく。
手遅れになっていない。
「ハヌマーン、獣神の企みを暴こう」
俺の言葉にハヌマーンは耳の下まで口が裂けるような笑みを浮かべた。
「ハヌマーン? どうかした?」
鼻をヒクヒクと鳴らして、まるで隠れている獲物の存在を嗅ぎ取ろうとしているかのようだった。
「獣の臭いがする……」
「そりゃあ、臭って当然だよ。君ってば、何度言っても身体を洗わないんだもの」
「違う! 俺じゃない! 嗅いだことのない獣の臭いがするんだっ!」
(嗅いだことのない獣の臭い?)
俺はなんとなく不安になってロクの方を見た。
「私はハヌマーンほど鼻が利かない。千里眼でも何も見えないが……」
「う~ん」
ロクには何も見えないが、ハヌマーンの鼻は異常を嗅ぎ取っている。
どう捉えるべきか……。
「お師匠様ぁ~。お師匠様はどう思いますぅ~?」
俺は声を張り上げて姿を消していたお師匠様を呼んだ。
お師匠様は旅の間いつも一緒にいる訳ではなくて、姿を消していたり何処かに出掛けたりしていた。それでも肝心な時にはいつの間にか側にいて、呼べば応えてくれるので気にしなかった。
今回も案の定、声を掛けたら直ぐに姿を見せた。
「獣神の気配がします」
「獣神? 本当に?」
彼らは簡単には人界に降りてこられないと思っていたんだけど。
「恐らく本体ではなく、幻影のようなものでしょう」
「フンッ、だから臭かったのか!」
ハヌマーンはやけに攻撃的だけど、こいつは獣神に何かされたのか?
なんでこんな毛嫌いしてんの?
「ハヌマーンは獣神と因縁でもあんの?」
「ない! ないが同じように嫌われた!」
「もしかして、獣神と姿が似ているから他の神に嫌われたってこと?」
「そうだ!」
神にとって性別同様に姿も簡単に変えられるものではあるけど、だから大事じゃないかと言えばそうではない。
形が中身を決めることもあり、中身が形を決めることもある。
つまりその者にとって、一番自然で楽な姿がその者の本質ということだ。
「ハヌマーンの罪は罪として、他の神の分まで背負わされるのはやってられないよな。むかっ腹が立つ気持ちはわかる。けど、もしも獣神を見つけてもいきなり突っかかって行くなよ」
「どうしてだっ!」
「だって神との争いなんて、避けられるなら避けた方が良いに決まってるじゃん」
ハヌマーンは元凶憎しで目が眩んでいるけど、そもそも神格の高い神とやり合える筈がない。
俺たちに出来るのは、ルールの穴を突くだとか詐欺みたいな取り引きを成立させるのが精一杯で、最初から勝ち目なんてものは万に一つも無い。
だから慎重になるべきなんだ。なのにハヌマーンはお構いなしに言う。
「だが、奴等は敵だ。争いは避けられない」
(……どうして。どうしてそんなに簡単に諦めるんだよ?)
それしかないって決め付けたら、他の方法を探さなかったら見つかる訳がない。
もっと良い方法があるかもしれないのに、戦わずに済むかもしれないのに。
「大事な人を殺されたとかじゃないんでしょ? 仇ならしようがないけど、敵ならこれから味方になる可能性だってあるじゃないか」
俺はね、もしも自分の大事な人が殺されたら、時間を巻き戻せないなら気が済むまで報復をしても良いと思ってる。
それで殺された人が生き返らなくても、喪失感を埋められなくても、例えもっと苦しむことになっても報復は絶対にする。
何故なら、とても許せるとは思えないからだ。
「イチヤ、味方になど絶対にならぬ。あやつらは既に神の種を播いたのだからな」
うわ、生々しいな。
それは確かに眷属だか依代だかにする為に獣神は自分たちの種を播いたんだけどさ。
俺は言葉に詰まってロクを見上げた。ロクは俺を腕の中にしまい込むように抱き寄せ、頭に鼻を寄せながら言った。
「獣神の邪悪な思惑があっても、神霊を持つ今を厭わしいとは思わない。彼らに利用されなければいいだけの話だ」
「ふん。せっかく播いた種を利用できなければ、奴らは怒るのではないか?」
「獣神がハヌマーンとおんなじように考えるとは限らないだろ。もっと諦めが良いかもしれない」
「ならば何故、性懲りも無く手を出してきた」
「だからそれをこれから調べてみようってば」
ハヌマーンが言うように良からぬ企みをしているのだとしても、それでもまだだ。まだ取り戻しはつく。
手遅れになっていない。
「ハヌマーン、獣神の企みを暴こう」
俺の言葉にハヌマーンは耳の下まで口が裂けるような笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる