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91.獣神の企みー1
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何番目かのチェックポイントを回って、ああここもハズレだったなって通り過ぎようとしたところでハヌマーンの様子がおかしいことに気付く。
「ハヌマーン? どうかした?」
鼻をヒクヒクと鳴らして、まるで隠れている獲物の存在を嗅ぎ取ろうとしているかのようだった。
「獣の臭いがする……」
「そりゃあ、臭って当然だよ。君ってば、何度言っても身体を洗わないんだもの」
「違う! 俺じゃない! 嗅いだことのない獣の臭いがするんだっ!」
(嗅いだことのない獣の臭い?)
俺はなんとなく不安になってロクの方を見た。
「私はハヌマーンほど鼻が利かない。千里眼でも何も見えないが……」
「う~ん」
ロクには何も見えないが、ハヌマーンの鼻は異常を嗅ぎ取っている。
どう捉えるべきか……。
「お師匠様ぁ~。お師匠様はどう思いますぅ~?」
俺は声を張り上げて姿を消していたお師匠様を呼んだ。
お師匠様は旅の間いつも一緒にいる訳ではなくて、姿を消していたり何処かに出掛けたりしていた。それでも肝心な時にはいつの間にか側にいて、呼べば応えてくれるので気にしなかった。
今回も案の定、声を掛けたら直ぐに姿を見せた。
「獣神の気配がします」
「獣神? 本当に?」
彼らは簡単には人界に降りてこられないと思っていたんだけど。
「恐らく本体ではなく、幻影のようなものでしょう」
「フンッ、だから臭かったのか!」
ハヌマーンはやけに攻撃的だけど、こいつは獣神に何かされたのか?
なんでこんな毛嫌いしてんの?
「ハヌマーンは獣神と因縁でもあんの?」
「ない! ないが同じように嫌われた!」
「もしかして、獣神と姿が似ているから他の神に嫌われたってこと?」
「そうだ!」
神にとって性別同様に姿も簡単に変えられるものではあるけど、だから大事じゃないかと言えばそうではない。
形が中身を決めることもあり、中身が形を決めることもある。
つまりその者にとって、一番自然で楽な姿がその者の本質ということだ。
「ハヌマーンの罪は罪として、他の神の分まで背負わされるのはやってられないよな。むかっ腹が立つ気持ちはわかる。けど、もしも獣神を見つけてもいきなり突っかかって行くなよ」
「どうしてだっ!」
「だって神との争いなんて、避けられるなら避けた方が良いに決まってるじゃん」
ハヌマーンは元凶憎しで目が眩んでいるけど、そもそも神格の高い神とやり合える筈がない。
俺たちに出来るのは、ルールの穴を突くだとか詐欺みたいな取り引きを成立させるのが精一杯で、最初から勝ち目なんてものは万に一つも無い。
だから慎重になるべきなんだ。なのにハヌマーンはお構いなしに言う。
「だが、奴等は敵だ。争いは避けられない」
(……どうして。どうしてそんなに簡単に諦めるんだよ?)
それしかないって決め付けたら、他の方法を探さなかったら見つかる訳がない。
もっと良い方法があるかもしれないのに、戦わずに済むかもしれないのに。
「大事な人を殺されたとかじゃないんでしょ? 仇ならしようがないけど、敵ならこれから味方になる可能性だってあるじゃないか」
俺はね、もしも自分の大事な人が殺されたら、時間を巻き戻せないなら気が済むまで報復をしても良いと思ってる。
それで殺された人が生き返らなくても、喪失感を埋められなくても、例えもっと苦しむことになっても報復は絶対にする。
何故なら、とても許せるとは思えないからだ。
「イチヤ、味方になど絶対にならぬ。あやつらは既に神の種を播いたのだからな」
うわ、生々しいな。
それは確かに眷属だか依代だかにする為に獣神は自分たちの種を播いたんだけどさ。
俺は言葉に詰まってロクを見上げた。ロクは俺を腕の中にしまい込むように抱き寄せ、頭に鼻を寄せながら言った。
「獣神の邪悪な思惑があっても、神霊を持つ今を厭わしいとは思わない。彼らに利用されなければいいだけの話だ」
「ふん。せっかく播いた種を利用できなければ、奴らは怒るのではないか?」
「獣神がハヌマーンとおんなじように考えるとは限らないだろ。もっと諦めが良いかもしれない」
「ならば何故、性懲りも無く手を出してきた」
「だからそれをこれから調べてみようってば」
ハヌマーンが言うように良からぬ企みをしているのだとしても、それでもまだだ。まだ取り戻しはつく。
手遅れになっていない。
「ハヌマーン、獣神の企みを暴こう」
俺の言葉にハヌマーンは耳の下まで口が裂けるような笑みを浮かべた。
「ハヌマーン? どうかした?」
鼻をヒクヒクと鳴らして、まるで隠れている獲物の存在を嗅ぎ取ろうとしているかのようだった。
「獣の臭いがする……」
「そりゃあ、臭って当然だよ。君ってば、何度言っても身体を洗わないんだもの」
「違う! 俺じゃない! 嗅いだことのない獣の臭いがするんだっ!」
(嗅いだことのない獣の臭い?)
俺はなんとなく不安になってロクの方を見た。
「私はハヌマーンほど鼻が利かない。千里眼でも何も見えないが……」
「う~ん」
ロクには何も見えないが、ハヌマーンの鼻は異常を嗅ぎ取っている。
どう捉えるべきか……。
「お師匠様ぁ~。お師匠様はどう思いますぅ~?」
俺は声を張り上げて姿を消していたお師匠様を呼んだ。
お師匠様は旅の間いつも一緒にいる訳ではなくて、姿を消していたり何処かに出掛けたりしていた。それでも肝心な時にはいつの間にか側にいて、呼べば応えてくれるので気にしなかった。
今回も案の定、声を掛けたら直ぐに姿を見せた。
「獣神の気配がします」
「獣神? 本当に?」
彼らは簡単には人界に降りてこられないと思っていたんだけど。
「恐らく本体ではなく、幻影のようなものでしょう」
「フンッ、だから臭かったのか!」
ハヌマーンはやけに攻撃的だけど、こいつは獣神に何かされたのか?
なんでこんな毛嫌いしてんの?
「ハヌマーンは獣神と因縁でもあんの?」
「ない! ないが同じように嫌われた!」
「もしかして、獣神と姿が似ているから他の神に嫌われたってこと?」
「そうだ!」
神にとって性別同様に姿も簡単に変えられるものではあるけど、だから大事じゃないかと言えばそうではない。
形が中身を決めることもあり、中身が形を決めることもある。
つまりその者にとって、一番自然で楽な姿がその者の本質ということだ。
「ハヌマーンの罪は罪として、他の神の分まで背負わされるのはやってられないよな。むかっ腹が立つ気持ちはわかる。けど、もしも獣神を見つけてもいきなり突っかかって行くなよ」
「どうしてだっ!」
「だって神との争いなんて、避けられるなら避けた方が良いに決まってるじゃん」
ハヌマーンは元凶憎しで目が眩んでいるけど、そもそも神格の高い神とやり合える筈がない。
俺たちに出来るのは、ルールの穴を突くだとか詐欺みたいな取り引きを成立させるのが精一杯で、最初から勝ち目なんてものは万に一つも無い。
だから慎重になるべきなんだ。なのにハヌマーンはお構いなしに言う。
「だが、奴等は敵だ。争いは避けられない」
(……どうして。どうしてそんなに簡単に諦めるんだよ?)
それしかないって決め付けたら、他の方法を探さなかったら見つかる訳がない。
もっと良い方法があるかもしれないのに、戦わずに済むかもしれないのに。
「大事な人を殺されたとかじゃないんでしょ? 仇ならしようがないけど、敵ならこれから味方になる可能性だってあるじゃないか」
俺はね、もしも自分の大事な人が殺されたら、時間を巻き戻せないなら気が済むまで報復をしても良いと思ってる。
それで殺された人が生き返らなくても、喪失感を埋められなくても、例えもっと苦しむことになっても報復は絶対にする。
何故なら、とても許せるとは思えないからだ。
「イチヤ、味方になど絶対にならぬ。あやつらは既に神の種を播いたのだからな」
うわ、生々しいな。
それは確かに眷属だか依代だかにする為に獣神は自分たちの種を播いたんだけどさ。
俺は言葉に詰まってロクを見上げた。ロクは俺を腕の中にしまい込むように抱き寄せ、頭に鼻を寄せながら言った。
「獣神の邪悪な思惑があっても、神霊を持つ今を厭わしいとは思わない。彼らに利用されなければいいだけの話だ」
「ふん。せっかく播いた種を利用できなければ、奴らは怒るのではないか?」
「獣神がハヌマーンとおんなじように考えるとは限らないだろ。もっと諦めが良いかもしれない」
「ならば何故、性懲りも無く手を出してきた」
「だからそれをこれから調べてみようってば」
ハヌマーンが言うように良からぬ企みをしているのだとしても、それでもまだだ。まだ取り戻しはつく。
手遅れになっていない。
「ハヌマーン、獣神の企みを暴こう」
俺の言葉にハヌマーンは耳の下まで口が裂けるような笑みを浮かべた。
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