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87.新たな旅立ちー2
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「俺は一緒に行くからな!」
「えっ!? やだよ! 折角、ロクと二人っきりなのに!」
この状況で旅に出るなんて最初は気が進まなかったけど、行くと決めたらロクと二人っきりで動けることが楽しみになった。なのにお邪魔虫が付いてくるなんて冗談じゃない!
「イチヤ、二人切りではありませんよ」
お師匠様までそんな茶々を入れてくる。
おまけに呼んでいないのにヨカナーンがやってきて、彼も付いてくると言い出した。
「ちょ、ヨカナーンは本当に足手まといじゃん!」
冷たい言い方だけれど、ちょっと強いだけの人間を連れて行く訳にはいかないのだ。
「そうだ、ヨカナーンは必要ない。俺が付いて行く」
後から駆けつけてきたアーロンまでそう言い出したので頭を抱えた。
ちょっと勘弁してくれよ、本当に収集がつかない。
「アーロンも足手まとい……って言うより邪魔! 目立ってしようがないよ」
「ガーン!」
大袈裟に慄いているアーロンには申し訳ないけど、そんな図体をしている奴と歩ける訳がないだろう?
「あのさ、あなたたちが強いのはわかってるよ。でもそういう強さは多分、必要ない」
それにロクの方が強いし、ハヌマーンまでいたら戦力に不足なんてない。
「俺に必要なのはちょっとした幸運とか、人との出会いとか……そういうのをもたらしてくれるものなんだよ」
神様の加護。それが良い働きをしてくれるといいなと思う。
「だがっ、俺はお前を守ると誓った!」
「わかってる。でも、それは俺には必要ないよ」
俺はなるべく柔らかくそう言ったんだけど、アーロンは岩みたいなでっかい身体でホロホロと泣き出した。
「ちょ、泣くなよぉ! 色々と見て回るのは楽しいって言ってたじゃん!」
アーロンは俺がいなくてもみんなと上手くやっていたし、溶け込んでいた。
ここでの生活を楽しんでいるように見えたのに違ったのか?
「それはお前がいるから、安心して――」
「俺は一生お前の側にはいられないし、面倒も見られないよ?」
「だがっ、主になってくれると言っただろう!?」
いや、言ってない。言ってないけど、こいつが俺の家来だと思っているなら付いてくるなと言われて凹むのも納得できる。
(俺は誰かの人生に責任を持つのなんて真っ平だけど、領主であるロクの番なら、そういう生き方も理解しなくちゃいけないのかな)
俺はちょっとだけ反省した。
「アーロン。ちゃんと戻ってくるから、留守を守っていて欲しい」
「……いつ? いつまでだ?」
「う~ん、いつとは約束出来ないけど、きっと戻るよ」
申し訳ないけど、現時点で約束できるのはそこまでだ。
他に確かなことは言えない。
それでもアーロンは頷いてくれた。
「必ず、生きて戻ってきてくれ」
「うん、わかった」
俺は勿論死ぬ気なんてなかったけど、ちゃんと無事に帰ってこなくっちゃなって改めて思った。
「ヨカナーンも待てるよね?」
俺はヨカナーンなら当然頷くと思ったんだけど、予想に反してゴネた。
はっきりとは言わないが、どうやら白妙と離れるのがイヤみたいだ。
“ナーン、ユメで会いにくる”
「神夢ですね」
お師匠様が教えてくれたけど、残念ながら俺とロクとハヌマーンにしか聴こえていない。
姿も全く見えていないようだ。
「え~と、白妙が夢の回路を通って会いに来てくれるって」
「夢? それは現実とは違うのでしょう?」
“ユメだけどユメじゃない”
「仮想現実っていうか、何処か別の場所で仮に会うみたいな感じかな?」
「それじゃ身体は……触れられない」
頬を紅潮させて、少し苦しげに言ったヨカナーンを見て察する。
(あ、ヨカナーンは白妙との触れ合いを必要としていたのか)
白妙の主は俺だけれど、プライベートの趣味とか嗜好品と呼べるようなお楽しみの相手がヨカナーンだった。
ヨカナーンの方も、人外のものに可愛がられるのが丁度良い癒やしとなったらしく、白妙との関係を楽しんでいた。それを取り上げられるのは……何も持たない彼にはキツイのだろう。
俺は物凄く迷って、考えて、そしてヨカナーンを薪小屋の裏に呼んだ。
「えっ!? やだよ! 折角、ロクと二人っきりなのに!」
この状況で旅に出るなんて最初は気が進まなかったけど、行くと決めたらロクと二人っきりで動けることが楽しみになった。なのにお邪魔虫が付いてくるなんて冗談じゃない!
「イチヤ、二人切りではありませんよ」
お師匠様までそんな茶々を入れてくる。
おまけに呼んでいないのにヨカナーンがやってきて、彼も付いてくると言い出した。
「ちょ、ヨカナーンは本当に足手まといじゃん!」
冷たい言い方だけれど、ちょっと強いだけの人間を連れて行く訳にはいかないのだ。
「そうだ、ヨカナーンは必要ない。俺が付いて行く」
後から駆けつけてきたアーロンまでそう言い出したので頭を抱えた。
ちょっと勘弁してくれよ、本当に収集がつかない。
「アーロンも足手まとい……って言うより邪魔! 目立ってしようがないよ」
「ガーン!」
大袈裟に慄いているアーロンには申し訳ないけど、そんな図体をしている奴と歩ける訳がないだろう?
「あのさ、あなたたちが強いのはわかってるよ。でもそういう強さは多分、必要ない」
それにロクの方が強いし、ハヌマーンまでいたら戦力に不足なんてない。
「俺に必要なのはちょっとした幸運とか、人との出会いとか……そういうのをもたらしてくれるものなんだよ」
神様の加護。それが良い働きをしてくれるといいなと思う。
「だがっ、俺はお前を守ると誓った!」
「わかってる。でも、それは俺には必要ないよ」
俺はなるべく柔らかくそう言ったんだけど、アーロンは岩みたいなでっかい身体でホロホロと泣き出した。
「ちょ、泣くなよぉ! 色々と見て回るのは楽しいって言ってたじゃん!」
アーロンは俺がいなくてもみんなと上手くやっていたし、溶け込んでいた。
ここでの生活を楽しんでいるように見えたのに違ったのか?
「それはお前がいるから、安心して――」
「俺は一生お前の側にはいられないし、面倒も見られないよ?」
「だがっ、主になってくれると言っただろう!?」
いや、言ってない。言ってないけど、こいつが俺の家来だと思っているなら付いてくるなと言われて凹むのも納得できる。
(俺は誰かの人生に責任を持つのなんて真っ平だけど、領主であるロクの番なら、そういう生き方も理解しなくちゃいけないのかな)
俺はちょっとだけ反省した。
「アーロン。ちゃんと戻ってくるから、留守を守っていて欲しい」
「……いつ? いつまでだ?」
「う~ん、いつとは約束出来ないけど、きっと戻るよ」
申し訳ないけど、現時点で約束できるのはそこまでだ。
他に確かなことは言えない。
それでもアーロンは頷いてくれた。
「必ず、生きて戻ってきてくれ」
「うん、わかった」
俺は勿論死ぬ気なんてなかったけど、ちゃんと無事に帰ってこなくっちゃなって改めて思った。
「ヨカナーンも待てるよね?」
俺はヨカナーンなら当然頷くと思ったんだけど、予想に反してゴネた。
はっきりとは言わないが、どうやら白妙と離れるのがイヤみたいだ。
“ナーン、ユメで会いにくる”
「神夢ですね」
お師匠様が教えてくれたけど、残念ながら俺とロクとハヌマーンにしか聴こえていない。
姿も全く見えていないようだ。
「え~と、白妙が夢の回路を通って会いに来てくれるって」
「夢? それは現実とは違うのでしょう?」
“ユメだけどユメじゃない”
「仮想現実っていうか、何処か別の場所で仮に会うみたいな感じかな?」
「それじゃ身体は……触れられない」
頬を紅潮させて、少し苦しげに言ったヨカナーンを見て察する。
(あ、ヨカナーンは白妙との触れ合いを必要としていたのか)
白妙の主は俺だけれど、プライベートの趣味とか嗜好品と呼べるようなお楽しみの相手がヨカナーンだった。
ヨカナーンの方も、人外のものに可愛がられるのが丁度良い癒やしとなったらしく、白妙との関係を楽しんでいた。それを取り上げられるのは……何も持たない彼にはキツイのだろう。
俺は物凄く迷って、考えて、そしてヨカナーンを薪小屋の裏に呼んだ。
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