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86.助っ人-1(R−18)
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獣人たちはまるでアメコミヒーローのようだ。
分厚い胸板に長い手足、精悍な獣のフルフェイスに超人じみた身体能力。
出来すぎた、作り物のお話の中から抜け出してきたような彼らを、自分とは違う生き物だと思っていた。
でもね、プロテインを飲んで巨人兵みたいなガタイになったあいつらは、正真正銘別の生き物だよ!
(もうっ、なんなの? みんなやり過ぎ! 頑張り過ぎ!)
頑張れば頑張った分だけ成果が出て嬉しいのも、他の人に負けられないのもわかる。わかるけど、だからってRPGのラスボスみたいな外見になってどうするんだよっ!
もうほんと、地獄の門番みたいな奴らがゾロゾロと訓練場から出てくるのを見た時には、この世の終わりかと思ったね。
しかも王城の近衛隊の方も似たりよったりなんだから嫌になる。
「なあ、あんな獣人離れした見た目になって、本当に嬉しいのかなぁ?」
「嬉しいのだろう。よく鏡を見つめているぞ」
「うぇぇ……」
俺は鏡の前でポージングを決める奴らを想像してげんなりとした。
イヤ、夢中になれるものを見つけられたのは良かったんだけどさ。
(でも、俺のロクがあいつらみたいになったら絶対にヤダ)
ロクにはプロテインが効かなくて良かった、と俺は密かに胸を撫で下ろした。
「国王も上級プロテインを飲み始めたそうだ」
「あ~、意外と時間が掛かったね」
あれだけ強い肉体を求めていたので、てっきり無理をしてでも秘薬に手を出すんじゃないかって思っていたのに意外と慎重だったみたいだ。
「恐らく、身体がついて行かなかったんだろう。国王も若くはないからな」
「ふぅん、獣人たちの年齢は俺にはよくわからないや」
獣人は年をとっても顔に皺が刻まれる訳でも、わかりやすく白髪になる訳でもないので彼らの年齢は俺にはわかり難い。
声の感じや、話し方からなんとなく類推するのみだ。
「特級の再生薬を飲めば、少しは回復すると思うのだが」
「だとしても、若返りまではしないよ」
「若返ったような気になるだけでも十分だ」
「そうか?」
よくわからないけど、それで国王の機嫌が良くなるなら定期的に薬をあげてもいいくらいだ。
どうせ人の寿命が少し伸びたくらいじゃどうということもないだろう。
「だとしても、今はまだこちらから折れる必要はない。餌が必要になったら考えよう」
俺はロクの言葉に黙って頷く。
国王の欲しいものを俺たちが持っている。その時点でこちらの優位は決まっている。
後はやり過ぎないように、でも敵にはならないように気を付ければいい。
「国王はそれでいいとして、俺は元の世界の神に渡す対価を探さなくちゃいけない」
俺がこっちにいられる対価として、元の世界の神は “神になる可能性のあるもの” を所望した。
しかも珍しいもの、或いは強くなりそうなものという条件付きだ。
「天界まで探しに行くか?」
ロクにそう訊かれて思わず唸り声が出た。
正直に言って、再び天界に行くのは嫌だ。避けたい。
「お師匠様に紹介して貰うのってどうかな? ほら、天界に行っても知り合いがいる訳でもないし」
「それはそうだが、ミロクを呼び出せるのか?」
「う~ん、難しいかも」
向こうは神だから俺に会いたくなったら勝手に来られるし、遠くから様子を窺うことだって出来る。
でも俺が呼び出すのは不遜だし、いつも見ているとは限らない。
(興味を無くしたとは思ってないけど……)
俺が悩んでいたら、ハヌマーンが何も考えていないような顔であっけらかんと言ってきた。
「緊箍児を外せばいいだろう」
「勝手に外したら、俺がお師匠様に怒られるかもしれないだろっ!」
「何故だ?」
「だってわざわざ付け直したんだから、外すなってことじゃないの?」
俺はハヌマーンに緊箍児なんて不要だとは思うけど、他の神の手前付けておいた方がいいみたいだった。
それに人の社会で暮らすなら、なんらかの縛りは必要だ。そういう意味でも目に見えるあれは都合がいい。
「ならばどうする?」
「だーかーらーそれを考えてるんだろ~」
こいつは本当に何も考えていないな。
いっそ清々しいほどにノープラン、ドントウォーリーで羨ましい。
(実のところ、俺に考えが無い訳じゃない)
元の世界で神が出てきた時に気付いたんだけど、あいつらは自分に縁の場所だと出てきやすいらしい。
多分、俺の知らない神のルールとかがあるんだろう。
(お師匠様は緊箍児が外れた途端に姿を表した。きっとお師匠様と感覚が繋がっているんだろう)
俺は緊箍児を外さずにお師匠様を呼び出すにはどうしたらいいのか考える。
「ハヌマーン、ちょっと緊箍児を見せてくれ」
そう言ってよく見ようと、背伸びをして緊箍児に手を伸ばした。
けれど勿論そんなことをしても届く筈はなくて、俺は子供みたいにハヌマーンにヒョイと持ち上げられてしまう。
「イチヤ、緊箍児は外さないのか?」
なのにどうして見たいのか、と首を傾げるハヌマーンに苛立つ。
「いいから、ちょっとじっとしてろよ! な~んか、秘密の機能とか無いのぉ?」
俺はハヌマーンの頭を引っ掴まえて金の輪っかを弄くり回す。
「コラッ、痛い! 止せっ!」
ハヌマーンは頭を必死に避ける癖に俺を降ろそうとはしない。
馬鹿なのか、人が良いのか……やっぱり馬鹿なんだろうな。
分厚い胸板に長い手足、精悍な獣のフルフェイスに超人じみた身体能力。
出来すぎた、作り物のお話の中から抜け出してきたような彼らを、自分とは違う生き物だと思っていた。
でもね、プロテインを飲んで巨人兵みたいなガタイになったあいつらは、正真正銘別の生き物だよ!
(もうっ、なんなの? みんなやり過ぎ! 頑張り過ぎ!)
頑張れば頑張った分だけ成果が出て嬉しいのも、他の人に負けられないのもわかる。わかるけど、だからってRPGのラスボスみたいな外見になってどうするんだよっ!
もうほんと、地獄の門番みたいな奴らがゾロゾロと訓練場から出てくるのを見た時には、この世の終わりかと思ったね。
しかも王城の近衛隊の方も似たりよったりなんだから嫌になる。
「なあ、あんな獣人離れした見た目になって、本当に嬉しいのかなぁ?」
「嬉しいのだろう。よく鏡を見つめているぞ」
「うぇぇ……」
俺は鏡の前でポージングを決める奴らを想像してげんなりとした。
イヤ、夢中になれるものを見つけられたのは良かったんだけどさ。
(でも、俺のロクがあいつらみたいになったら絶対にヤダ)
ロクにはプロテインが効かなくて良かった、と俺は密かに胸を撫で下ろした。
「国王も上級プロテインを飲み始めたそうだ」
「あ~、意外と時間が掛かったね」
あれだけ強い肉体を求めていたので、てっきり無理をしてでも秘薬に手を出すんじゃないかって思っていたのに意外と慎重だったみたいだ。
「恐らく、身体がついて行かなかったんだろう。国王も若くはないからな」
「ふぅん、獣人たちの年齢は俺にはよくわからないや」
獣人は年をとっても顔に皺が刻まれる訳でも、わかりやすく白髪になる訳でもないので彼らの年齢は俺にはわかり難い。
声の感じや、話し方からなんとなく類推するのみだ。
「特級の再生薬を飲めば、少しは回復すると思うのだが」
「だとしても、若返りまではしないよ」
「若返ったような気になるだけでも十分だ」
「そうか?」
よくわからないけど、それで国王の機嫌が良くなるなら定期的に薬をあげてもいいくらいだ。
どうせ人の寿命が少し伸びたくらいじゃどうということもないだろう。
「だとしても、今はまだこちらから折れる必要はない。餌が必要になったら考えよう」
俺はロクの言葉に黙って頷く。
国王の欲しいものを俺たちが持っている。その時点でこちらの優位は決まっている。
後はやり過ぎないように、でも敵にはならないように気を付ければいい。
「国王はそれでいいとして、俺は元の世界の神に渡す対価を探さなくちゃいけない」
俺がこっちにいられる対価として、元の世界の神は “神になる可能性のあるもの” を所望した。
しかも珍しいもの、或いは強くなりそうなものという条件付きだ。
「天界まで探しに行くか?」
ロクにそう訊かれて思わず唸り声が出た。
正直に言って、再び天界に行くのは嫌だ。避けたい。
「お師匠様に紹介して貰うのってどうかな? ほら、天界に行っても知り合いがいる訳でもないし」
「それはそうだが、ミロクを呼び出せるのか?」
「う~ん、難しいかも」
向こうは神だから俺に会いたくなったら勝手に来られるし、遠くから様子を窺うことだって出来る。
でも俺が呼び出すのは不遜だし、いつも見ているとは限らない。
(興味を無くしたとは思ってないけど……)
俺が悩んでいたら、ハヌマーンが何も考えていないような顔であっけらかんと言ってきた。
「緊箍児を外せばいいだろう」
「勝手に外したら、俺がお師匠様に怒られるかもしれないだろっ!」
「何故だ?」
「だってわざわざ付け直したんだから、外すなってことじゃないの?」
俺はハヌマーンに緊箍児なんて不要だとは思うけど、他の神の手前付けておいた方がいいみたいだった。
それに人の社会で暮らすなら、なんらかの縛りは必要だ。そういう意味でも目に見えるあれは都合がいい。
「ならばどうする?」
「だーかーらーそれを考えてるんだろ~」
こいつは本当に何も考えていないな。
いっそ清々しいほどにノープラン、ドントウォーリーで羨ましい。
(実のところ、俺に考えが無い訳じゃない)
元の世界で神が出てきた時に気付いたんだけど、あいつらは自分に縁の場所だと出てきやすいらしい。
多分、俺の知らない神のルールとかがあるんだろう。
(お師匠様は緊箍児が外れた途端に姿を表した。きっとお師匠様と感覚が繋がっているんだろう)
俺は緊箍児を外さずにお師匠様を呼び出すにはどうしたらいいのか考える。
「ハヌマーン、ちょっと緊箍児を見せてくれ」
そう言ってよく見ようと、背伸びをして緊箍児に手を伸ばした。
けれど勿論そんなことをしても届く筈はなくて、俺は子供みたいにハヌマーンにヒョイと持ち上げられてしまう。
「イチヤ、緊箍児は外さないのか?」
なのにどうして見たいのか、と首を傾げるハヌマーンに苛立つ。
「いいから、ちょっとじっとしてろよ! な~んか、秘密の機能とか無いのぉ?」
俺はハヌマーンの頭を引っ掴まえて金の輪っかを弄くり回す。
「コラッ、痛い! 止せっ!」
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