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85.出張指導ー2
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「ふぉぉぉ! ありがと。助かった」
俺はドキドキする胸を押さえてロクに礼を言った。
壁にベチンと張り付いてるレオポルトには悪いけど、奴を見るだけで今にも襲われるんじゃないかってドキドキするし、実際にがっついて来られるのでとても苦手だ。出来ればもう会いたくなかった。
「レオポルト・パレス。二度目は無いと言った筈だ」
怒りを含んだロクの声にレオポルトが呻く。
獅子の癖にまるで怯えて気の立った猫みたいだ。
(そうだ、こいつは人の話を聞かない猛獣だけど、ロクがいれば恐れる必要はない)
俺はロクがいるのになんでこんなに怖がっていたんだろうと思った。
例えレオポルトが俺を欲しがっても、今の俺にはロクがいる。
「レオポルト。俺はロクの番で、ロクを愛してる。だからあんたはどんなに良い匂いがしても、俺の匂いを嗅いだり舐めたりしちゃ駄目なんだよ。わかるだろ? 俺は他人のものだ」
「ぅぅぅ……どうしてっ!」
レオポルトがキャンキャンと吠えた。
どうしてもこうしても、わかってるだろうに。
「あんたを選ばなかった。あんたは選ばれなかった。だから諦めて」
「ヒック!」
人目も憚らずに獅子が大きな目からポロポロと大粒の涙を溢している。
俺だってここまでとどめを刺すようなことは言いたくなかったよ。
でも言わなきゃいつまでも追い掛けて来るだろう?
「イヤだ……イヤだ」
そう言いながら首を振り続けるレオポルトを見て、もしかしたら何を言ってもこいつには無駄なのかもしれないと思う。
(俺が何を言ったって、こうしてどれだけ哀れっぽく泣いて見せてても、良い匂いだって思ったらもう他のことなんて頭からすっ飛んでまた襲いかかって来るんじゃないか?)
全く信用できない。俺はそう思ったし、残念ながら本能の強い獣人ってのはこういうものなんだろう。
「ロク。こいつは俺が好きなんじゃなくて、ただ自分の欲望をコントロール出来ないだけなんだ。だから幾ら駄目だと言っても、罰を与えられるぞと脅しても止まらない。こういう奴には実力行使でいいよな?」
「構わない。こちらに一切の非はない」
俺はロクの許しを貰い、蜂たちにレオポルトが俺の半径五十センチに入ったら倒すように命令した。
勿論、殺しはしない。ただ即座に昏倒させるだけだ。
「イチヤッ! そんなっ!」
レオポルトが抗議してくるけど無視だ無視。そんなことよりさっさと近衛隊員にプロテインを飲ませよう。
「あっ、なんか美味しい!」
甘いプロテインは、まだ甘味の普及していないこの世界で好意的に受け入れられた。
みんな美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。
「あ……れ? なんか、いた……イタタタタタタッ!」
わぁわぁと騒ぎ始める隊員を見て、俺はいい気味だとコッソリと思う。
だって鍛えたら必ず筋肉が付くなんて狡いじゃん。
「はい、痛いかもしれませんが、怪我や病気じゃないので頑張って動かしましょう! この痛みがみなさんの筋肉を作ってくれるんですね~」
俺は全く気持ちの籠もってない声でそう言った。
近衛隊のみなさんは国王も見学しているので、仕方なく痛みを堪えてプッシュアップやスクワットを始めた。
「本当にあんなことをしなくてはいけないのか?」
苦しそうな表情で呻き声を上げながら筋肉を虐める隊員たちを見て、国王が胡散臭そうにそう言った。
俺は平然とした顔で頷く。
「そもそも、異世界では筋肉をいじめ抜いたら大きくなるというのは常識です。俺みたいな一般人はやりませんけど、軍人や格闘家は痛みのない訓練は無意味だって言ってました」
「む、そのような訓練法が確立されているとは意外だな」
「召喚されるのが甘味を持った一般人ばかりだったのでしょう」
俺は嘯きながらも実際に召喚される条件が「甘味を持っていること」なので、偏りはあっただろうなと思う。
「彼らに一週間ほど続けて貰い、効果があると思われましたら陛下もお試し下さい」
「うむ。一週間でわかるのだな?」
「ええ。きちんと訓練をすれば、必ず一週間で目に見えます」
「よし。私も度々様子を見に来よう」
国王が楽しげにそう言うのを聞いて、近衛隊の皆の肩が下がった。
俺は心の中で、国王もどうせ後で同じことをやるのに他人事みたいに言ってるなぁとおかしく思った。
それから一週間後、テンションのおかしい近衛隊と始めてのプロテインに身体を震わせる国王の姿があった。
無視していたレオポルトは、どうやら順調に筋肉を太らせたようだった。
(さて、何処までいけるかね)
秘薬までの道のりは実に遠いなぁと思いつつ、俺はロクと領地に帰った。
俺はドキドキする胸を押さえてロクに礼を言った。
壁にベチンと張り付いてるレオポルトには悪いけど、奴を見るだけで今にも襲われるんじゃないかってドキドキするし、実際にがっついて来られるのでとても苦手だ。出来ればもう会いたくなかった。
「レオポルト・パレス。二度目は無いと言った筈だ」
怒りを含んだロクの声にレオポルトが呻く。
獅子の癖にまるで怯えて気の立った猫みたいだ。
(そうだ、こいつは人の話を聞かない猛獣だけど、ロクがいれば恐れる必要はない)
俺はロクがいるのになんでこんなに怖がっていたんだろうと思った。
例えレオポルトが俺を欲しがっても、今の俺にはロクがいる。
「レオポルト。俺はロクの番で、ロクを愛してる。だからあんたはどんなに良い匂いがしても、俺の匂いを嗅いだり舐めたりしちゃ駄目なんだよ。わかるだろ? 俺は他人のものだ」
「ぅぅぅ……どうしてっ!」
レオポルトがキャンキャンと吠えた。
どうしてもこうしても、わかってるだろうに。
「あんたを選ばなかった。あんたは選ばれなかった。だから諦めて」
「ヒック!」
人目も憚らずに獅子が大きな目からポロポロと大粒の涙を溢している。
俺だってここまでとどめを刺すようなことは言いたくなかったよ。
でも言わなきゃいつまでも追い掛けて来るだろう?
「イヤだ……イヤだ」
そう言いながら首を振り続けるレオポルトを見て、もしかしたら何を言ってもこいつには無駄なのかもしれないと思う。
(俺が何を言ったって、こうしてどれだけ哀れっぽく泣いて見せてても、良い匂いだって思ったらもう他のことなんて頭からすっ飛んでまた襲いかかって来るんじゃないか?)
全く信用できない。俺はそう思ったし、残念ながら本能の強い獣人ってのはこういうものなんだろう。
「ロク。こいつは俺が好きなんじゃなくて、ただ自分の欲望をコントロール出来ないだけなんだ。だから幾ら駄目だと言っても、罰を与えられるぞと脅しても止まらない。こういう奴には実力行使でいいよな?」
「構わない。こちらに一切の非はない」
俺はロクの許しを貰い、蜂たちにレオポルトが俺の半径五十センチに入ったら倒すように命令した。
勿論、殺しはしない。ただ即座に昏倒させるだけだ。
「イチヤッ! そんなっ!」
レオポルトが抗議してくるけど無視だ無視。そんなことよりさっさと近衛隊員にプロテインを飲ませよう。
「あっ、なんか美味しい!」
甘いプロテインは、まだ甘味の普及していないこの世界で好意的に受け入れられた。
みんな美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。
「あ……れ? なんか、いた……イタタタタタタッ!」
わぁわぁと騒ぎ始める隊員を見て、俺はいい気味だとコッソリと思う。
だって鍛えたら必ず筋肉が付くなんて狡いじゃん。
「はい、痛いかもしれませんが、怪我や病気じゃないので頑張って動かしましょう! この痛みがみなさんの筋肉を作ってくれるんですね~」
俺は全く気持ちの籠もってない声でそう言った。
近衛隊のみなさんは国王も見学しているので、仕方なく痛みを堪えてプッシュアップやスクワットを始めた。
「本当にあんなことをしなくてはいけないのか?」
苦しそうな表情で呻き声を上げながら筋肉を虐める隊員たちを見て、国王が胡散臭そうにそう言った。
俺は平然とした顔で頷く。
「そもそも、異世界では筋肉をいじめ抜いたら大きくなるというのは常識です。俺みたいな一般人はやりませんけど、軍人や格闘家は痛みのない訓練は無意味だって言ってました」
「む、そのような訓練法が確立されているとは意外だな」
「召喚されるのが甘味を持った一般人ばかりだったのでしょう」
俺は嘯きながらも実際に召喚される条件が「甘味を持っていること」なので、偏りはあっただろうなと思う。
「彼らに一週間ほど続けて貰い、効果があると思われましたら陛下もお試し下さい」
「うむ。一週間でわかるのだな?」
「ええ。きちんと訓練をすれば、必ず一週間で目に見えます」
「よし。私も度々様子を見に来よう」
国王が楽しげにそう言うのを聞いて、近衛隊の皆の肩が下がった。
俺は心の中で、国王もどうせ後で同じことをやるのに他人事みたいに言ってるなぁとおかしく思った。
それから一週間後、テンションのおかしい近衛隊と始めてのプロテインに身体を震わせる国王の姿があった。
無視していたレオポルトは、どうやら順調に筋肉を太らせたようだった。
(さて、何処までいけるかね)
秘薬までの道のりは実に遠いなぁと思いつつ、俺はロクと領地に帰った。
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