172 / 194
85.出張指導ー2
しおりを挟む
「ふぉぉぉ! ありがと。助かった」
俺はドキドキする胸を押さえてロクに礼を言った。
壁にベチンと張り付いてるレオポルトには悪いけど、奴を見るだけで今にも襲われるんじゃないかってドキドキするし、実際にがっついて来られるのでとても苦手だ。出来ればもう会いたくなかった。
「レオポルト・パレス。二度目は無いと言った筈だ」
怒りを含んだロクの声にレオポルトが呻く。
獅子の癖にまるで怯えて気の立った猫みたいだ。
(そうだ、こいつは人の話を聞かない猛獣だけど、ロクがいれば恐れる必要はない)
俺はロクがいるのになんでこんなに怖がっていたんだろうと思った。
例えレオポルトが俺を欲しがっても、今の俺にはロクがいる。
「レオポルト。俺はロクの番で、ロクを愛してる。だからあんたはどんなに良い匂いがしても、俺の匂いを嗅いだり舐めたりしちゃ駄目なんだよ。わかるだろ? 俺は他人のものだ」
「ぅぅぅ……どうしてっ!」
レオポルトがキャンキャンと吠えた。
どうしてもこうしても、わかってるだろうに。
「あんたを選ばなかった。あんたは選ばれなかった。だから諦めて」
「ヒック!」
人目も憚らずに獅子が大きな目からポロポロと大粒の涙を溢している。
俺だってここまでとどめを刺すようなことは言いたくなかったよ。
でも言わなきゃいつまでも追い掛けて来るだろう?
「イヤだ……イヤだ」
そう言いながら首を振り続けるレオポルトを見て、もしかしたら何を言ってもこいつには無駄なのかもしれないと思う。
(俺が何を言ったって、こうしてどれだけ哀れっぽく泣いて見せてても、良い匂いだって思ったらもう他のことなんて頭からすっ飛んでまた襲いかかって来るんじゃないか?)
全く信用できない。俺はそう思ったし、残念ながら本能の強い獣人ってのはこういうものなんだろう。
「ロク。こいつは俺が好きなんじゃなくて、ただ自分の欲望をコントロール出来ないだけなんだ。だから幾ら駄目だと言っても、罰を与えられるぞと脅しても止まらない。こういう奴には実力行使でいいよな?」
「構わない。こちらに一切の非はない」
俺はロクの許しを貰い、蜂たちにレオポルトが俺の半径五十センチに入ったら倒すように命令した。
勿論、殺しはしない。ただ即座に昏倒させるだけだ。
「イチヤッ! そんなっ!」
レオポルトが抗議してくるけど無視だ無視。そんなことよりさっさと近衛隊員にプロテインを飲ませよう。
「あっ、なんか美味しい!」
甘いプロテインは、まだ甘味の普及していないこの世界で好意的に受け入れられた。
みんな美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。
「あ……れ? なんか、いた……イタタタタタタッ!」
わぁわぁと騒ぎ始める隊員を見て、俺はいい気味だとコッソリと思う。
だって鍛えたら必ず筋肉が付くなんて狡いじゃん。
「はい、痛いかもしれませんが、怪我や病気じゃないので頑張って動かしましょう! この痛みがみなさんの筋肉を作ってくれるんですね~」
俺は全く気持ちの籠もってない声でそう言った。
近衛隊のみなさんは国王も見学しているので、仕方なく痛みを堪えてプッシュアップやスクワットを始めた。
「本当にあんなことをしなくてはいけないのか?」
苦しそうな表情で呻き声を上げながら筋肉を虐める隊員たちを見て、国王が胡散臭そうにそう言った。
俺は平然とした顔で頷く。
「そもそも、異世界では筋肉をいじめ抜いたら大きくなるというのは常識です。俺みたいな一般人はやりませんけど、軍人や格闘家は痛みのない訓練は無意味だって言ってました」
「む、そのような訓練法が確立されているとは意外だな」
「召喚されるのが甘味を持った一般人ばかりだったのでしょう」
俺は嘯きながらも実際に召喚される条件が「甘味を持っていること」なので、偏りはあっただろうなと思う。
「彼らに一週間ほど続けて貰い、効果があると思われましたら陛下もお試し下さい」
「うむ。一週間でわかるのだな?」
「ええ。きちんと訓練をすれば、必ず一週間で目に見えます」
「よし。私も度々様子を見に来よう」
国王が楽しげにそう言うのを聞いて、近衛隊の皆の肩が下がった。
俺は心の中で、国王もどうせ後で同じことをやるのに他人事みたいに言ってるなぁとおかしく思った。
それから一週間後、テンションのおかしい近衛隊と始めてのプロテインに身体を震わせる国王の姿があった。
無視していたレオポルトは、どうやら順調に筋肉を太らせたようだった。
(さて、何処までいけるかね)
秘薬までの道のりは実に遠いなぁと思いつつ、俺はロクと領地に帰った。
俺はドキドキする胸を押さえてロクに礼を言った。
壁にベチンと張り付いてるレオポルトには悪いけど、奴を見るだけで今にも襲われるんじゃないかってドキドキするし、実際にがっついて来られるのでとても苦手だ。出来ればもう会いたくなかった。
「レオポルト・パレス。二度目は無いと言った筈だ」
怒りを含んだロクの声にレオポルトが呻く。
獅子の癖にまるで怯えて気の立った猫みたいだ。
(そうだ、こいつは人の話を聞かない猛獣だけど、ロクがいれば恐れる必要はない)
俺はロクがいるのになんでこんなに怖がっていたんだろうと思った。
例えレオポルトが俺を欲しがっても、今の俺にはロクがいる。
「レオポルト。俺はロクの番で、ロクを愛してる。だからあんたはどんなに良い匂いがしても、俺の匂いを嗅いだり舐めたりしちゃ駄目なんだよ。わかるだろ? 俺は他人のものだ」
「ぅぅぅ……どうしてっ!」
レオポルトがキャンキャンと吠えた。
どうしてもこうしても、わかってるだろうに。
「あんたを選ばなかった。あんたは選ばれなかった。だから諦めて」
「ヒック!」
人目も憚らずに獅子が大きな目からポロポロと大粒の涙を溢している。
俺だってここまでとどめを刺すようなことは言いたくなかったよ。
でも言わなきゃいつまでも追い掛けて来るだろう?
「イヤだ……イヤだ」
そう言いながら首を振り続けるレオポルトを見て、もしかしたら何を言ってもこいつには無駄なのかもしれないと思う。
(俺が何を言ったって、こうしてどれだけ哀れっぽく泣いて見せてても、良い匂いだって思ったらもう他のことなんて頭からすっ飛んでまた襲いかかって来るんじゃないか?)
全く信用できない。俺はそう思ったし、残念ながら本能の強い獣人ってのはこういうものなんだろう。
「ロク。こいつは俺が好きなんじゃなくて、ただ自分の欲望をコントロール出来ないだけなんだ。だから幾ら駄目だと言っても、罰を与えられるぞと脅しても止まらない。こういう奴には実力行使でいいよな?」
「構わない。こちらに一切の非はない」
俺はロクの許しを貰い、蜂たちにレオポルトが俺の半径五十センチに入ったら倒すように命令した。
勿論、殺しはしない。ただ即座に昏倒させるだけだ。
「イチヤッ! そんなっ!」
レオポルトが抗議してくるけど無視だ無視。そんなことよりさっさと近衛隊員にプロテインを飲ませよう。
「あっ、なんか美味しい!」
甘いプロテインは、まだ甘味の普及していないこの世界で好意的に受け入れられた。
みんな美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。
「あ……れ? なんか、いた……イタタタタタタッ!」
わぁわぁと騒ぎ始める隊員を見て、俺はいい気味だとコッソリと思う。
だって鍛えたら必ず筋肉が付くなんて狡いじゃん。
「はい、痛いかもしれませんが、怪我や病気じゃないので頑張って動かしましょう! この痛みがみなさんの筋肉を作ってくれるんですね~」
俺は全く気持ちの籠もってない声でそう言った。
近衛隊のみなさんは国王も見学しているので、仕方なく痛みを堪えてプッシュアップやスクワットを始めた。
「本当にあんなことをしなくてはいけないのか?」
苦しそうな表情で呻き声を上げながら筋肉を虐める隊員たちを見て、国王が胡散臭そうにそう言った。
俺は平然とした顔で頷く。
「そもそも、異世界では筋肉をいじめ抜いたら大きくなるというのは常識です。俺みたいな一般人はやりませんけど、軍人や格闘家は痛みのない訓練は無意味だって言ってました」
「む、そのような訓練法が確立されているとは意外だな」
「召喚されるのが甘味を持った一般人ばかりだったのでしょう」
俺は嘯きながらも実際に召喚される条件が「甘味を持っていること」なので、偏りはあっただろうなと思う。
「彼らに一週間ほど続けて貰い、効果があると思われましたら陛下もお試し下さい」
「うむ。一週間でわかるのだな?」
「ええ。きちんと訓練をすれば、必ず一週間で目に見えます」
「よし。私も度々様子を見に来よう」
国王が楽しげにそう言うのを聞いて、近衛隊の皆の肩が下がった。
俺は心の中で、国王もどうせ後で同じことをやるのに他人事みたいに言ってるなぁとおかしく思った。
それから一週間後、テンションのおかしい近衛隊と始めてのプロテインに身体を震わせる国王の姿があった。
無視していたレオポルトは、どうやら順調に筋肉を太らせたようだった。
(さて、何処までいけるかね)
秘薬までの道のりは実に遠いなぁと思いつつ、俺はロクと領地に帰った。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる