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83.最強軍団の誕生−1
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ロクサーン侯爵領の警備隊訓練場では、連日地獄のような光景が繰り広げられていた。
「ぐあっ! ぐぉおおおおっ!」
「ヒッ! ぎゃぁあああ~っ!」
「クッ、……この痛みが筋肉になるんだぁあああっ!」
「あんっ、痛いイイッ!」
おい、最後の誰だよ? 明らかに喘いでただろ。
俺は全員が涙を流してのたうち回り(一部悦び)、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した訓練場を慄きながら見つめた。
(成果は……成果は間違いなく出ているんだ。だからごめん。もう少しだけ頼む、頑張ってくれ!)
俺はプロテインの実験台となって特訓を課される隊員たちに胸の中で謝った。
最初は味と見た目を目標に近づけるところから初めた。
ロクサーン侯爵家の料理人たちは優秀だったから、俺が求めるままにどんどん改良していって直ぐに俺が知るプロテインと変わらないものを作り上げた。
キャラメル味とコーヒー味で、水にも牛乳にもサッと溶けるし美味しい。
味の次は痛みと効能の強さで評価して、等級だって付けた。
でも痛みってのは主観的なものだから、それに毒や薬なら個人の体質が大きくものをいうから、だから商品化の前にどうしても沢山のデータを取る必要があった。
そして軽い痛みならともかく、上級と特級にランク付けしたプロテインは一般人に耐えられる痛みじゃなかった。だから警備隊の人たちに協力を依頼した。
その結果がこの地獄絵図って訳だ。
「あの、本当に駄目だと思ったら降参してね。拷問じゃないから、耐えるのが目的じゃないから」
俺は彼らにトラウマを与えたかった訳ではないので、そう注意した。
けれど筋肉にアイデンティティを求める彼らは簡単には引き下がれないようで、他の仲間に負けたくないという気持ちもあってか誰も抜けようとしなかった。
「イチヤ! この肩の盛り上がりはどうだ!」
ムキッとポージングを決めて、僧帽筋を盛り上げて見せるのは鳥型獣人のアーロンだ。
「うわ、気持ち悪い……」
「え?」
「いや、すっごい鍛えたね。なんかもう鳥以外の獣人みたいだけど、めっちゃ強そう」
アーロンは元々精悍な戦士の体型をしていたけど、上級プロテインを飲んで筋トレをすることで更に二回りほど大きくなった。まるで筋肉の鎧を付けたみたいだ。
「そうだろう? 俺はそろそろ特級プロテインを試したい」
「ちょ、止めとけよ。特級はもう少し身体が慣れてからじゃないと――」
「大丈夫だ。俺なら耐えられる」
自信満々にそう言い放ったアーロンを見て呆れる。
彼は痛みに強くないし、上級プロテインを飲んだ時はのたうち回っていた。
痛みに吐き気すらもよおしていたのに、それでもチャレンジしたいって?
「アーロン、無謀さは勇気とは違うんだからね。もう少し慎重に考えろよ」
俺はここぞとばかりにアーロンに苦言を呈したけれど、何故か不服そうに言い返されてしまう。
「イチヤこそとんでもないことばかりして、いつも周りをハラハラさせてるだろ。あんたに、無謀だなんて言われたくない」
「俺がいつ無謀なことをしたんだよっ!」
「大豆を挽いて食べようと思う時点でおかしい」
「加工方法なら、これから工夫して解決するつもりだ」
「等級が上がるほど、拷問じみた声を出すと聞いたが?」
「うっ、それは……」
そうなんだよな。解決するどころか、特級を作る為には石臼に圧を掛けてより細かな粉末にする必要があって、そうすると潰される大豆の声が益々禍々しくなってしまう。
呪われていると言われても否定できない。
「だからこの痛みは正当なものだと思ってる。それだけ大豆を苦しめるのだから、その代わりに俺たちも痛みに耐えなくちゃいけない。そうして手に入れた筋肉が本物なんだ」
「アーロン……」
俺はアーロンのキリッとした顔にうっかり納得しそうになったけど、はたと我に返る。
(ちょっと待って。なんか良いことを言ってる風だけど、痛みに耐えたら手に入るって発想がヤバくない?)
痛いのと引き換えに筋肉が手に入る。だから痛ければ痛いほどいい……って、考え方がもう病気っぽい。
俺はあわわ……と慌てたけれど、今さら計画を止めることは出来ず、地獄の特訓のようなものを黙って見ているしかなかった。
そしてとうとう、魔物の軍団が出来上がってしまった。
「ぐあっ! ぐぉおおおおっ!」
「ヒッ! ぎゃぁあああ~っ!」
「クッ、……この痛みが筋肉になるんだぁあああっ!」
「あんっ、痛いイイッ!」
おい、最後の誰だよ? 明らかに喘いでただろ。
俺は全員が涙を流してのたうち回り(一部悦び)、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した訓練場を慄きながら見つめた。
(成果は……成果は間違いなく出ているんだ。だからごめん。もう少しだけ頼む、頑張ってくれ!)
俺はプロテインの実験台となって特訓を課される隊員たちに胸の中で謝った。
最初は味と見た目を目標に近づけるところから初めた。
ロクサーン侯爵家の料理人たちは優秀だったから、俺が求めるままにどんどん改良していって直ぐに俺が知るプロテインと変わらないものを作り上げた。
キャラメル味とコーヒー味で、水にも牛乳にもサッと溶けるし美味しい。
味の次は痛みと効能の強さで評価して、等級だって付けた。
でも痛みってのは主観的なものだから、それに毒や薬なら個人の体質が大きくものをいうから、だから商品化の前にどうしても沢山のデータを取る必要があった。
そして軽い痛みならともかく、上級と特級にランク付けしたプロテインは一般人に耐えられる痛みじゃなかった。だから警備隊の人たちに協力を依頼した。
その結果がこの地獄絵図って訳だ。
「あの、本当に駄目だと思ったら降参してね。拷問じゃないから、耐えるのが目的じゃないから」
俺は彼らにトラウマを与えたかった訳ではないので、そう注意した。
けれど筋肉にアイデンティティを求める彼らは簡単には引き下がれないようで、他の仲間に負けたくないという気持ちもあってか誰も抜けようとしなかった。
「イチヤ! この肩の盛り上がりはどうだ!」
ムキッとポージングを決めて、僧帽筋を盛り上げて見せるのは鳥型獣人のアーロンだ。
「うわ、気持ち悪い……」
「え?」
「いや、すっごい鍛えたね。なんかもう鳥以外の獣人みたいだけど、めっちゃ強そう」
アーロンは元々精悍な戦士の体型をしていたけど、上級プロテインを飲んで筋トレをすることで更に二回りほど大きくなった。まるで筋肉の鎧を付けたみたいだ。
「そうだろう? 俺はそろそろ特級プロテインを試したい」
「ちょ、止めとけよ。特級はもう少し身体が慣れてからじゃないと――」
「大丈夫だ。俺なら耐えられる」
自信満々にそう言い放ったアーロンを見て呆れる。
彼は痛みに強くないし、上級プロテインを飲んだ時はのたうち回っていた。
痛みに吐き気すらもよおしていたのに、それでもチャレンジしたいって?
「アーロン、無謀さは勇気とは違うんだからね。もう少し慎重に考えろよ」
俺はここぞとばかりにアーロンに苦言を呈したけれど、何故か不服そうに言い返されてしまう。
「イチヤこそとんでもないことばかりして、いつも周りをハラハラさせてるだろ。あんたに、無謀だなんて言われたくない」
「俺がいつ無謀なことをしたんだよっ!」
「大豆を挽いて食べようと思う時点でおかしい」
「加工方法なら、これから工夫して解決するつもりだ」
「等級が上がるほど、拷問じみた声を出すと聞いたが?」
「うっ、それは……」
そうなんだよな。解決するどころか、特級を作る為には石臼に圧を掛けてより細かな粉末にする必要があって、そうすると潰される大豆の声が益々禍々しくなってしまう。
呪われていると言われても否定できない。
「だからこの痛みは正当なものだと思ってる。それだけ大豆を苦しめるのだから、その代わりに俺たちも痛みに耐えなくちゃいけない。そうして手に入れた筋肉が本物なんだ」
「アーロン……」
俺はアーロンのキリッとした顔にうっかり納得しそうになったけど、はたと我に返る。
(ちょっと待って。なんか良いことを言ってる風だけど、痛みに耐えたら手に入るって発想がヤバくない?)
痛いのと引き換えに筋肉が手に入る。だから痛ければ痛いほどいい……って、考え方がもう病気っぽい。
俺はあわわ……と慌てたけれど、今さら計画を止めることは出来ず、地獄の特訓のようなものを黙って見ているしかなかった。
そしてとうとう、魔物の軍団が出来上がってしまった。
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