【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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79.代案−1

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「ロクサーン侯爵! 覚悟はいいか!」
 国王は身体中の毛を逆立ててそう言ったけれど、ロクはちっとも相手にしなかった。

「覚悟とは何の覚悟でしょうか? 神霊のやることは神のご意思、誰にも咎め立ては出来ないと決まっております」
「何をいけしゃあしゃあと! ロクサーン侯爵は神霊を操れると有名ではないか!」
「それは誤解です。神霊には神霊の意思がある」
「ならば何故っ!」
「さあ? 陛下の神霊に訊いてみてはいかがですか」
「こ、このっ……!」
 国王はロクの不遜な物言いに二の句が継げず、これは流石にマズイんじゃないかと思ったがロクは全く躊躇しない。

「私に叛逆の意は無いから、随分と気を遣って動いてきたつもりです。だが余り無茶を言われるようなら、これ以上は我慢しない。私は一切の気遣いを放棄する」
「…………」
 ぶるぶると震えている国王を見て、これはロクの勝ちだなと思う。
 宣戦布告に等しいロクの言葉を、受けて立つだけの力が国王にはない。
 ロクサーン侯爵家に本気で反抗されたら今の王家は苦しくなる。それがわからない国王ではない。

「叛逆の意がないと言うなら、それをこちらに寄越すべきではないか? 独り占めしようだなんて、説得力がないぞ!」
「……『それ』?」
 ロクの雰囲気がぴしりと固くなった。

(あ~、もうっ、馬鹿!)
 ロクは俺と久し振りに会えて感情が昂ぶっている。そこで再び俺を取り上げるような発言をしたら怒るに決まっているじゃないか。しかも利用する気満々の『それ』呼びって。

「王よ。チヤは物ではない。誰にも彼に行動を強いることなど出来ない」
「しかしロクサーン侯爵の番だろう? であれば、私の臣下ではないか」
「……」
 ロクが迂闊に返事を出来ずに黙り込んだ。
 確かに、彼の番になるということは、この国のなったってことになるの?
 俺はこの国の民として守られる代わりに、務めを果たす義務もあるってこと?

「確かに、帝国民は王の命に従う義務はありますが、非道な命令ならその限りではありません。あなたは私の伴侶をどうするつもりですか?」
「なに、少し調べさせて貰うだけだ。異世界の人間は私たちとは作りが違うようだからな」
 そう言った国王にねとっとした粘着質な視線で見られて背筋が寒くなる。
 こいつ、脳筋っぽい顔をしている癖に俺をバラバラにしようってのか。

「違うことが何か問題ですか?」
「勿論だとも! 隅々まで確かめて、はっきりさせないと――」
「あなたの欲を満たす為に他人を傷付ける権利などない。国王であることをそんなことに使うなら……お退きになってはいかがですか?」
「貴様ッ! やはり王座を狙っておるのか!」
「いえ、私は王冠になど興味はありません。ただ、陛下が相応しくないなら他の誰かに宛がうのも已む無しかと」
「ロクサーン侯爵ッ!」
「私を敵に回しますか?」
「くっ……」
 めちゃくちゃでっかい、俺から見たら超合金ロボみたいなロクに正面から言い渡されて国王が怯んだ。
 互いの持つ兵力とか立場以前に、純粋にこいつには敵わないって思わせるよな。
 ちょっとだけ国王が可哀想だった。

「陛下、私は権力にも政治にも興味はありません。しかし大事なものを守る為に戦うことを厭いはしない。わかりますね?」
「……わかった。だがしかし、そなただけが異世界人の恩恵を受けるというのは余りではないか!」
 国王はロクから俺を奪うことは無理だとわかりつつも目の前で見たロクの立派な体躯が羨ましくてしようがないようだ。

(まあ、それはそうだよな。ロクだけが獣神に近付いてる、どんどん神々しく雄々しくなる……となったらそれは悔しいだろう)
 自分だって、自分も……と国王が思うその気持はわからないでもない。
 特に強さに惹かれる獣人なら当たり前の感情だ。でもね。

「あの、国王が……強くなるのを望まれるなら、方法がない訳ではありません」
「本当かっ!」
「ヒッ!」
 ガッと喰らいついて来られて腰が引ける。
 だから猛禽類は怖いんだって。

「でもっ! 王様業と同時は無理です! あなたが立場や権力を失くしたら……そうしたら、教えてあげられます」
「教える? 上手いことを言って、私を嵌めようとしているのではないか?」
 黄色い目でギロリと睨まれて泣きそうになる。
 くそっ、もしどうしても強くなりたいならって、良かれと思って提案しただけなのに。

「陛下、一つ誤解を解いておきます。チヤを喰って強くなれるのは、彼の番である私一人です。陛下が同じように強くなりたいなら、あなたは別の方法を探す必要があります。それをチヤが教えてくれると言ってるのです」
「別の方法……。その為に玉座を降りろと?」
「そうです」
 俺はしらっとした顔で言い切ったけれど、内心は汗だくだ。
 そんな俺の気も知らず、国王はじっと考え込んでいる。
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