【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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77.元の世界で神に会う−1

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 すっかり身体が冷えてしまい、クプッと後ろから出て来たものだけが温かくて俺はぶるりと身体を震わせた。
 なんだか物凄く狭く感じる玄関で、身を捩るようにしてそこから這い出す。

(あれからどのくらいが経ってる?)
 部屋を見回したら小さなローテーブルの上に書き置きを見つけた。両親からだった。
 俺は手紙を読むのを後回しにして、充電したままの携帯を手に取り、あれからほぼ異世界で過ごしたのと同じだけの時間が流れていることを確認した。

(十ヶ月以上が経ってるのに、部屋も携帯もそのまま?)
 不思議に思いながらも両親からの手紙を読む。
 そこには大学は休学手続きをしていること、警察に届けを出して携帯も調べたこと、俺が戻るのを信じてアパートは契約したままであることなどが書かれていて、最後に心配しているから兎に角連絡をくれと結んであった。

(心配、したのか……)
 俺はなんとなく、両親は俺がいなくなっても気付かないか探さないような気がしていた。
 でもそんなことはなくて、こうしてアパートをそのままにしておいてくれたり、携帯の履歴から行方を探したりしてくれたのだろう。

(連絡をしなくちゃな)
 そう思うんだけど、さっきまでロクのベッドでロクに抱かれていた俺はまだ戻ってきたんだって感覚が湧かない。
 こんなに小さくて狭い場所で、空気すら味気ない世界で、俺はどうやって息をしていたのだろう?
 それは便利で楽しめるものだって沢山あるけど……。

(携帯? ゲーム? エアコンに冷蔵庫? それがなんだ。そんなものがなくても、俺は困らなかったよ)
 神霊がいて、天界の生き物をお供に従え、怪しい宗教を広めて引き換えに手に入れた甘味をみんなに布教して楽しく暮らしていた。幸せだった。なのにどうして? どうして今になって戻されたりするんだよ!
 俺は突然のことに戸惑い嘆くばかりだったが、ふと自分の周りにいつもいた存在がいないことに気が付いた。

(そう言えばお供は? 裸で来ちゃったから、連れて来られなかったのか?)

「白妙? 金鍔? 蜂たち!」
 呼んでも誰も出てこないことに絶望感を覚える。
 俺の身に備わった神格のようなものや、神の加護は消えてしまったのだろうか?
 試しに変化の術を使ってみようにも、金鍔の用意してくれた天界の葉っぱがない。
 神薬を作ろうにも材料がない。
 他に俺が身一つで出来ることは――。

「……甘い」
 手首を舐めてみたら薄らと甘い味がした。
 天界で嗅いだようなスーッと儚く消えてしまう味だ。

(俺の体質は変わっていない? なら、加護もそのままってことか)
 俺はもう一度、異世界に戻れる可能性を見出して、ムクムクと希望が湧いてきた。

(ロクだってきっと俺を取り戻そうとしている。俺もこっちの世界を立ち去る準備と、あと自力で転移する方法がないか調べよう)
 呆けている暇はないと直ぐに動こうとしたが、踏み出した足が踏ん張れなくてぐしゃりと潰れた。
 どうやら媚薬の効果が切れたらしい。

(俺の体質と媚薬効果で怪我はないけど、再生薬を飲まないとやっぱりしんどいな)
 言っておくけどロクと繋がることに問題はない。
 でもやり過ぎるとこんな風に足腰が立たなくなる。
 その辺は加護はあっても俺自身が脆弱なので仕方がない。

(え~と、まずはやることを紙に書き出そう)
 俺は座ったまま出来ることを考えた。
 両親には悪いが俺は向こうの世界で生きると決めているので、大学の中退手続きをしてアパートも引き払う準備をしよう。
 それからもうこっちに戻れないなら、二度と手に入らない甘味を買えるだけ買い込んで行こうかとも思ったんだけど、どういう訳か余り気乗りがしない。
 こっちの世界の甘味を見せつけるように持ち込むより、あっちはあっちで手探りで新たな甘味を作っていけばいい。
 あちらでも砂糖が採れるようになったのだし、それを自分たちの口に合う形で取り込んでいくのが一番いい。
 だからレシピ本も持っていかない。

(異世界の甘味の知識を持ち込んだりしたら、こっちの世界を捨てられないみたいじゃないか?)
 俺は甘味を全て置いてくることを惜しいとは思っていないし、未練もない。

(まぁ、突然あれが食べたい! って思うことはあるかもしれないけどな)
 夜中に唐突にプリンが食べたくなったり、芋ようかんが食べたくなったりする。
 しかもピンポイントで、何処の店のものが食べたいとイメージが明確だったりする。

(我ながら恐ろしい食いしん坊だぜ)
 そう思いつつも向こうにこちらのものは持ち込まないという基本的方針は変えない。異世界の影響なら、俺に再現できる範囲内で十分だ。

(そうすると、後やることは人に会っておくくらい?)
 でもどうしても会っておきたい人なんて特に思い当たらない。
 向こうにいる間に一度もこちらの人を思い出さなかったことでわかるように、俺はその場限りの関係しか築いてこれなかった。親友も、恋人も、仲間もいない。

(でももう一度会いたい人たちは向こうにいるからそれでいい)
 俺はジェスやウィリアム、エミールにメルにジェフ、それからヨカナーンとアーロン、ついでにハヌマーンの顔も思い浮かべた。

 人種どころか種族も違う。本当に分かりあえているとも思わない。それでも俺はあの人達にもう一度会いたい。

(やっぱり、帰る方法を探すのが先だな)
 俺は動けるようになってから通帳を引っ張り出し、貯金を全ておろしてきた。
 この金が尽きるまでは異世界に転移する方法を探すことに専念する。

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