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74.ハイカロリーの魔法-2
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「フフフ……。揚げパンッ! 炭水化物と油と砂糖が美味しくない訳がないっ!」
「揚げパン?」
料理長たちは不思議そうな顔でジャリジャリとした揚げパンを見ているが、食べてみればわかる。
揚げたての揚げパンって美味しいんだから。
「フハッ! アッツ……」
俺はアチチと空気をハフハフしながら幸せな気持ちで揚げパンを食べた。
揚げたてのパンは蕩けるように中が柔らかい。
新しい油のコクも堪らない。
「ドーナツも好きだけど、俺は揚げパンの方が好きなんだよね~」
これを屋台で売って、この領地の名物にしたいな。
「イチヤ様! ぅおいっしーですっ!」
「そうだろう? これと冷たい牛乳があれば昼食にもなるよ」
「手で食べられるし、庶民のおやつにもいいですな!」
「料理長、庶民がこんなに砂糖をまぶしたものなんて食べられませんよ」
料理人のその言葉に、俺は即座に反論する。
「いや、子供がおやつで食べられるくらい、屋台で気軽に買えるくらいに普及させるから。砂糖は誰もが食べられるようにするからね!」
「「「イチヤ様!」」」
料理人たちから憧れの目で見つめられ、そうだよモリスの本音なんかに傷付いている場合じゃないじゃんと思う。
モリスや獣人は俺のことなんてどうでもいいと思ってる。
でも俺が作った甘味や料理は、誰が食べてもきっと美味しいと思う筈だ。
あいつらも揚げパンを食べて思わず笑顔になったり、ホッとしたりする。
それで良いじゃないか。
「料理長、警護の人たちにも出してあげて。カロリーが高いから、きっと満足すると思うんだ」
「良いですね。これは腹に溜まりますよ」
料理長たちが急いで沢山のパンをジュウジュウと揚げ出したので、俺は邪魔にならないように厨房を出た。
油の匂いに惹かれたのか、ジェスがこちらに歩いてきたので捕まえて仕事の話をすることにした。
「なぁ、教会で揚げパンを売ろうぜ。最初は赤字だけど、神教を広げるにはいいと思うんだよ」
「揚げパン、ですか?」
「砂糖ジャリジャリで、油ギトギトで、中のパンが蕩けるように柔らかいんだよ。厨房で食ってきな」
「ッ!」
ジェスがピン! と耳を立てたのを見て思わず笑った。
秘書官もファンになること間違いなしだ。
「あれは辛くても良いのじゃないか?」
ロクだけはそう言ったけれど、勿論彼は少数派だった。
揚げパンは油と砂糖の出会いが運命的に素晴らしいのだ。
まあ、ロクみたいな少数派の為に、粉チーズか青のりをまぶしたものを作ってもいいけどね。
「さて、そろそろ国王をどうするのか決めなくちゃな」
俺は腹がくちくなったので、満たされた気持ちでそう言った。
「お前が王都に行くのは論外だから、こちらで対応を考える――」
「俺たちは番だろ? 今はもう、俺もロクサーン侯爵家の一員だぜ?」
「……済まない。二人で考えよう」
ロクに肩を抱かれ、その青い瞳を見上げる。
本当は、俺が彼の目を受け継ぐ子を産みたい。
でもそれは出来ないから、俺はこの領地をロクに残す。
いつかロクの領地から青い目をした子供が産まれることを信じて。
「ロクサーン侯爵領に手は出させない。今度はこちらから攻めこもう」
俺の言葉に意外と攻撃的だとロクが笑った。
「こちらから攻め込んで国王を討ち取るのは簡単だが、反逆者になる気はない。かと言って、国王を脅して手出しはしないと約束させたところで、プライドの高いあの男がそれを守るとは思えない」
う~ん、国王が誰かに頭を押さえ付けられて言うことを聞くしかないなんて、そんな状況に甘んじている訳がないよね。
絶対に前よりも大軍で攻め入って来るだろう。
「白妙に記憶を奪って貰う?」
俺のことさえ綺麗さっぱり忘れてしまえば暫くは時間が稼げると思ったんだが、そんなに長時間の記憶を失くす呪いをかけたら死んでしまうと言われた。
それに俺がロクの番になったことまで忘れてしまったら困る。
どうしよう……と頭を悩ませていたらチャンカチャンカと頭の悪そうな音楽が聴こえてきて、モクモクとした煙が流れてボフンと音を立てるとキンキラキンの衣装を着た大猿が決めポーズで現れた。
「ハヌマーン見参!」
止めてくれ、力が抜ける。
相変わらずアホみたいだけど、でも……。
「待ってたよ」
俺はすっかり忘れていた癖に、にこりと笑ってそう言った。
「揚げパン?」
料理長たちは不思議そうな顔でジャリジャリとした揚げパンを見ているが、食べてみればわかる。
揚げたての揚げパンって美味しいんだから。
「フハッ! アッツ……」
俺はアチチと空気をハフハフしながら幸せな気持ちで揚げパンを食べた。
揚げたてのパンは蕩けるように中が柔らかい。
新しい油のコクも堪らない。
「ドーナツも好きだけど、俺は揚げパンの方が好きなんだよね~」
これを屋台で売って、この領地の名物にしたいな。
「イチヤ様! ぅおいっしーですっ!」
「そうだろう? これと冷たい牛乳があれば昼食にもなるよ」
「手で食べられるし、庶民のおやつにもいいですな!」
「料理長、庶民がこんなに砂糖をまぶしたものなんて食べられませんよ」
料理人のその言葉に、俺は即座に反論する。
「いや、子供がおやつで食べられるくらい、屋台で気軽に買えるくらいに普及させるから。砂糖は誰もが食べられるようにするからね!」
「「「イチヤ様!」」」
料理人たちから憧れの目で見つめられ、そうだよモリスの本音なんかに傷付いている場合じゃないじゃんと思う。
モリスや獣人は俺のことなんてどうでもいいと思ってる。
でも俺が作った甘味や料理は、誰が食べてもきっと美味しいと思う筈だ。
あいつらも揚げパンを食べて思わず笑顔になったり、ホッとしたりする。
それで良いじゃないか。
「料理長、警護の人たちにも出してあげて。カロリーが高いから、きっと満足すると思うんだ」
「良いですね。これは腹に溜まりますよ」
料理長たちが急いで沢山のパンをジュウジュウと揚げ出したので、俺は邪魔にならないように厨房を出た。
油の匂いに惹かれたのか、ジェスがこちらに歩いてきたので捕まえて仕事の話をすることにした。
「なぁ、教会で揚げパンを売ろうぜ。最初は赤字だけど、神教を広げるにはいいと思うんだよ」
「揚げパン、ですか?」
「砂糖ジャリジャリで、油ギトギトで、中のパンが蕩けるように柔らかいんだよ。厨房で食ってきな」
「ッ!」
ジェスがピン! と耳を立てたのを見て思わず笑った。
秘書官もファンになること間違いなしだ。
「あれは辛くても良いのじゃないか?」
ロクだけはそう言ったけれど、勿論彼は少数派だった。
揚げパンは油と砂糖の出会いが運命的に素晴らしいのだ。
まあ、ロクみたいな少数派の為に、粉チーズか青のりをまぶしたものを作ってもいいけどね。
「さて、そろそろ国王をどうするのか決めなくちゃな」
俺は腹がくちくなったので、満たされた気持ちでそう言った。
「お前が王都に行くのは論外だから、こちらで対応を考える――」
「俺たちは番だろ? 今はもう、俺もロクサーン侯爵家の一員だぜ?」
「……済まない。二人で考えよう」
ロクに肩を抱かれ、その青い瞳を見上げる。
本当は、俺が彼の目を受け継ぐ子を産みたい。
でもそれは出来ないから、俺はこの領地をロクに残す。
いつかロクの領地から青い目をした子供が産まれることを信じて。
「ロクサーン侯爵領に手は出させない。今度はこちらから攻めこもう」
俺の言葉に意外と攻撃的だとロクが笑った。
「こちらから攻め込んで国王を討ち取るのは簡単だが、反逆者になる気はない。かと言って、国王を脅して手出しはしないと約束させたところで、プライドの高いあの男がそれを守るとは思えない」
う~ん、国王が誰かに頭を押さえ付けられて言うことを聞くしかないなんて、そんな状況に甘んじている訳がないよね。
絶対に前よりも大軍で攻め入って来るだろう。
「白妙に記憶を奪って貰う?」
俺のことさえ綺麗さっぱり忘れてしまえば暫くは時間が稼げると思ったんだが、そんなに長時間の記憶を失くす呪いをかけたら死んでしまうと言われた。
それに俺がロクの番になったことまで忘れてしまったら困る。
どうしよう……と頭を悩ませていたらチャンカチャンカと頭の悪そうな音楽が聴こえてきて、モクモクとした煙が流れてボフンと音を立てるとキンキラキンの衣装を着た大猿が決めポーズで現れた。
「ハヌマーン見参!」
止めてくれ、力が抜ける。
相変わらずアホみたいだけど、でも……。
「待ってたよ」
俺はすっかり忘れていた癖に、にこりと笑ってそう言った。
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