【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
148 / 194

73.魔法にかかる-2

しおりを挟む
「国王はきっと俺を食べようとするよ」
「ですからそうならない為に、あなたの体液は甘く、啜れば滋養強壮効果があると本当の事を明かすのです」
「でも、あの王は人間にその気になったりしないだろう!?」
「それでも行為は出来るでしょう」
「うぅぅ……」
 俺はいよいよ切羽詰まってしまった。

(国王は俺を諦めない。喰われるくらいなら。一度くらい。それで得なこともある。俺さえ我慢すれば。ほんの少しの辛抱だ。どうしても耐えられなければ目を瞑ればいい。耳を塞いで、唇を噛み締めて、腕を噛んで耐えれば――)
「チヤ!」
 俺のぐちゃぐちゃになった思考を遮るように、ロクの声が飛び込んできた。

「チヤ、悩むな、惑うな! お前一人が犠牲になる必要はない! それを許すのは、そんなものを良しとする世界など帝国と変わらぬ!」
「ッ!」
 パァッと目の前が明るく開けた。
 俺が犠牲になるしか方法が無いなんて、そんな筈は無い。
 誰も犠牲にしない為に、その為に頑張っているんだ。
 それは俺であっても変わらない。

「ロク、なんかおかしくなっていたみたい。俺さえ我慢すればいいって、もうこれしか無いって思い込んでて――」
「モリス。魔法を使ったな?」
 ロクがモリスを鋭く睨みながらそう言った。

「えっ、ちょ、魔法なんてあんの!?」
 俺は初めて聞いたことなので焦った。

「異世界人の考えるものとは違う。そんなに便利でも万能でもない。ただ、異世界召喚のようにある種の術は存在する」
「ある種の術……」
「今回は思考を誘導するような魔法が使われたんだろう」
「モリスさん、本当?」
 眉を顰めながらモリスに訊いたら、やれやれと肩を竦めながら答えた。

「折角、術が効きにくいロクサーン侯爵を遠ざけたのに、覗いていたのですか?」
「あんたがそこまでするとは思っていなかったが、一応警戒していた」
「やれやれ、用心深いことだ」
 嘆かわしいとでも言いたげに頭を振ったモリスを見て、俺はショックだった。

「俺、モリスさんのことは結構、信じてたんだけど……」
「ああ、ありがとうございます」
「立場があるのはわかってたけど、単なる協力関係にあっただけかもしれないけど、それでも酷いことはしないって思ってた! 俺が酷い目に遭ってもいいって……本気で思ってたのかよ?」
 モリスはそこまで酷い人じゃない筈だ。そう信じたかったが……。

「あなたを差し出した方が早い。それに使えそうですしね」
「差し出した方が早い……」
「それが一番楽だし簡単でしょう?」
 品位とか人道とか正義とか親切とか、彼がこれまで口にしてきたことは何だったのか?
 俺の為に少しも苦労しようとは、努力しようとは思わなかったのか。
 彼の言葉に一切の誠意は無かったのか。

「俺のこと、少しも好きじゃなかったの?」
「まあ、人間ですから」
 その答えに胸を抉られたような気がした。
 そこまで、獣人にとって人間ってのはどうでもいいものなのか。

「俺は、あんたたち獣人を俺と同じ人だと思うよ」
「私もそう思えたら良かったのですがね」
 モリスの言葉はとても薄っぺらく聴こえた。
 俺に大して本音で話すことなど無いのだろう。

「ロク、モリスさんとはわかり合えないみたいだ。ここでお別れだね」
「そうだな。これ以上付き合う必要はない。帰って貰おう」
 俺は白妙に頼んでモリスに忘却の呪いを掛け、此処に来たことを忘れて貰った。
 本当は俺との出会いから忘れて欲しかったけど、そうすると周囲にバレるので我慢した。
 眠らせたモリスを王都行きの馬車に乗せて送り返し、これからどれだけああいう人に出会うのだろうと思った。

(獣人でなければ人にあらず)
 そう割り切れることの方がいっそ凄い。

「チヤ、あんな獣人ばかりじゃない」
「……わかってるよ」
 わかってるけど、やっぱりキツイ。
 俺はその日は何度もロクに抱き付き、あちこちまさぐってはロクがモリスとは違うことを確かめた。
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...