【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
146 / 194

72.陳腐な筋書き-2

しおりを挟む
「フランソワーズ・ドリューだ」
 その女みたいな名前の貴族は軍鶏型の獣人で、実に喧嘩っぱやそうな雰囲気を持っていた。

「ドリュー伯爵、久し振りだな」
「ロクサーン侯爵、こんな再会で残念だ」
 ガキーン! と視線がぶつかり合った音がする。
 武闘派の知り合いか?

「早速だが、使者としての役割を果たそう」
 そう言うとドリュー伯爵は懐から蛇腹状に折り畳んだ書状を取り出し、バラッと勢いよく広げて端から読み上げた。

「異世界より召喚されし柚木一哉に罪状を問う。王城にて、複数人の寝所に忍び入り惑わしたことに相違は無いか? また、王の寝所への手引きをその方に懸想したレオポルト・パレスに頼み、露見しそうになるや逃げ出したことに相違は無いか? 王城内の風紀紊乱を招きたる罪、国王への不敬の罪、王城内にて詳しく詮議致すので神妙に出頭を命じる。シア・ハーン帝国国王、バルド・ミュー・ハーン代理フランソワーズ・ドリュー」
「……え? 杜撰にも程がある筋書きじゃね?」
 俺は思わず口をポカンと開けて驚き、漸く出てきた感想がそれだった。

「イチヤ殿、申し開きがあるなら王城で聞こう。大人しく出頭を致せ」
 ドリュー伯爵は溜め息でも吐くように、面倒臭そうにそう言った。
 きっとこの人だってこれが言い掛かりだって知ってるんだ。それかどうでも良いと思ってる。真実なんてどうでも良いから、さっさと捕まれと思ってる。

(そうだよな、貴族で獣人の彼からしたら、俺なんてなんの価値もないもんな。でも、俺はお前らの都合の良い物語の登場人物じゃないんだよ。寧ろお前らの物語を壊そうとしてる。物語を破壊して、目を覚まさせようとしてんだからな!)

 いい加減、頭に来ていた俺はドリュー伯爵に突き付けるように右手を差し出した。
 するすると裾から白蛇が這い出し、俺の手を伝って鎌首をもたげる。
 白妙の牙からポタリと水滴が滴り、床をじゅわりと溶かして黒い煙が上った。

「毒じゃないよ。白妙が扱うのは呪いだから、もっと深くまで蝕む」
 俺の脅すようなその言葉に、ドリュー伯爵がごくりと唾を飲み込む。

「イチヤ殿が楯突けば、ロクサーン侯爵に迷惑が掛かるぞ」
「うん、でもあなたが王城に戻らなければ良いんじゃない? お使いの途中で盗賊に襲われたりして行方不明になったら、国王の面子は丸潰れだよね? きっと、国王の怒りはあなたの方に向くんじゃないかなぁ」
 ハメた奴よりハメられた方が間抜けで不甲斐ない。
 国王ならきっとそう思う。

「卑怯者が!」
「えっ? 嘘の罪状を並べて俺を連れて行こうとしていた人がそれを言うの? 流石に図々しくない?」
「使者に危害を加えないのは昔からの習い――」
「俺はこの国の人間じゃない。もっと言えば、異世界から召喚されたお客様だよ? あんた達がしていることは、人を拐って働かせる奴隷商と一緒じゃん。少しは恥を知るといい」
 俺に手加減をする気がないと知って、シュッとしたスリムな鳥型獣人が震えた。
 乗りに乗っていた俺はダメ押しの言葉を口にする。

「毒と違って呪いは骨まで溶かす。試してみる?」
「……いいや、国王には無実だと伝えよう」
「うん、それがいいよ」
 俺はにこりと笑ってドリュー伯爵にお引き取り頂いた。


「チヤ、見事な手腕だった」
「もっと穏便な方法もあったと思うけど……」
 俺はロクのお褒めの言葉にも気分が上がらず、しゅんと俯いた。

「穏便な方法では気が済まなかったのだろう?」
「……うん」
「ならば良いではないか。自分の為に怒るのも必要なことだ」
「うん」
 俺は薄っぺらい怒りだと思ったが、ロクがそれで良いと言う。
 だから反省はするけどクヨクヨするのは止めよう。

「次こそはモリスさんかな?」
「国王が余程の阿呆でなければそうだろう」
「じゃあ、善後策でも立てようか」
「それよりも少し甘いものを食べよう。頑張り過ぎだ」
「うん」
 俺は人払いをした部屋でロクの膝に抱かれた。

「甘いものってこれ?」
「いいや、もっと甘いものだ」
 ロクが掠れた声で耳元で囁く。
 甘い、声。甘い、俺。

「奥まで、溶かしてくれる?」
「凄い奥まで」
 俺はロクの口付けに目を瞑った。
 早く最後までしたいけれど、それ以外も十分に甘い。

「ロク、早く……」
「任せろ」
 俺はロクの手で深いところまで探られてとろとろに解された。
 そして暫し不安を忘れ、心行くまで快楽に溺れたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...