【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
138 / 194

69.恋人自慢-1

しおりを挟む
 万能薬は本当に万能ではない。
 勿論、不治の病が治るとか、普通なら手の施しようがないところまで病気が進んでいてもどうにかなるとか、十分にスーパーミラクルではあるんだけど。

(でも、心には効かないし、病気が治っても体力や衰えた筋肉までが復活する訳じゃない)
 だから病気が治ったからといって、ヨカナーンがいきなり元通りにならないのは当然だった。

「でもね、その痣は消させてくれてもいいんじゃない!?」
 ヨカナーンが再生薬を使うことを拒んだので、せっかくの綺麗な顔に赤黒い痣が残ったままなのだ。

「これは治さなくていい。元通りになったら、これまでの時間まで……いや、とにかく必要ない」
 きっぱりと断られて俺は仕方なく引き下がる。

(まぁ、まだチャンスはあるし。ヨカナーンが慣れたら、少しは仲良くなれたらまた持ち掛ければいいや)
 そう思って俺は気持ちを切り替えた。

「あんた軍を辞めてからろくなものを食べてなかっただろ。美味しいものを食べないと、人は減るんだぞ?」
 何を言ってるんだって目で見られたけど、本当だよ?
 誰でもその人が好きな食べ物、ああこれ好きだなぁって食べ物があると思うんだけど、そういうのを食べるとホッとするんだ。
 逆に言うと、そういう食べ物を食べれないと、どうでもいいものばかりを食べていると心が荒む。
 砂漠のように、スラムのように荒廃してしまうんだ。

「俺はね、蜂蜜しみっしみのどら焼きが好きで、今は食べられないけどいつか絶対に取り戻すんだって心に誓ってる。ヨカナーンの好きな食べ物ってなに?」
「好きなものなど……特にない」
 えっ、うっそぉ……。食べ物に興味のない人なんているの? あ、そういえばロクも甘い物が嫌い以外の話は特にしていなかったかも。

「食事に興味のない人もいるのかもしれないけどさぁ、騙されたと思ってこれを食べてみてよ」
 俺は料理長と協力してうろ覚えの知識から幾つかのスイーツを作り出した。
 その中でロクが一番苦手にしているお菓子を持ってきたんだ。

「これは……本当に食べ物なのか?」
 物凄く胡散臭い目で見られているけど、卵白とバターとナッツを砂糖で固めた甘々なお菓子だからね。ガツンと脳に沁みる旨さだよ。

 俺はヌガーを手で二つに割って、片方を口に入れながらもう片方をヨカナーンに差し出した。
 そこまでされればヨカナーンも矛を納めて受け取るしかない。
 恐る恐るヨカナーンはヌガーを口にした。

「フッッッ!」
 目を大きく見開いて、驚いた表情を見せるヨカナーンに溜飲が下がる。
 ふふふ、ガツンと甘い物はガツンと美味しい!
 甘味を食べたことのないヨカナーンには衝撃だろう。

「んっ、ふっ……」
 口いっぱいに溢れだすナッツのフレーバーと甘味の共演に、ドパッと出た唾液で溺れながら必死に飲み下す。
 うんうんわかるよ、一生懸命に食べちゃうの。
 でもなんかエッチだよね?

 俺は喘ぐようにヌガーを食べているヨカナーンを見て、ちょっと顔を赤くした。

(なにもあんなに喘がなくてもいいじゃん。俺が無理に食わせてるみたいじゃん)
 もしかしたら、ヨカナーンは人の嗜虐心をそそるところがちょっとあるのかもなぁと思いながら目を逸らせていたら、食べ終わったヨカナーンが唇を手で拭いながらこれはなんだと聞いてきた。

「最近、領地で採れるようになった砂糖を使ったお菓子だよ。ヌガーって言うんだけど、気に入った?」
「ん……何か辱しめを受けた気分だ」
 ちょっと言い方! そんなのロクに聞かれたら物凄いお仕置きをされるからやめて!

「お菓子はまだ一般家庭にまで普及していないけど、じょじょに生産量を増やしてる。いつかもっと沢山の種類の、美味しいお菓子を心ゆくまで食べられる世界になるから……ヨカナーンも協力してよ」
「は? 協力?」
 何を言ってるんだと眉をひそめるヨカナーンに、俺は正直に人手が欲しいんだと言った。

「俺がこの世界でやりたいようにする為に、優秀な人材がまだまだ足りない。金を儲けて、甘味を広めて、信仰を集めて――獣人だけが得をする世界を変えたい。誰もが医者にかかったり、勉強したり、その後の進路を自由に選べる世界にしたい」
「な、にを……」
「おかしくないよ。俺にはそれが当たり前だもん」
 制約があったり差別をされる方がおかしいんだ、と言ったらヨカナーンがクスクスと笑い出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...