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69.恋人自慢-1
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万能薬は本当に万能ではない。
勿論、不治の病が治るとか、普通なら手の施しようがないところまで病気が進んでいてもどうにかなるとか、十分にスーパーミラクルではあるんだけど。
(でも、心には効かないし、病気が治っても体力や衰えた筋肉までが復活する訳じゃない)
だから病気が治ったからといって、ヨカナーンがいきなり元通りにならないのは当然だった。
「でもね、その痣は消させてくれてもいいんじゃない!?」
ヨカナーンが再生薬を使うことを拒んだので、せっかくの綺麗な顔に赤黒い痣が残ったままなのだ。
「これは治さなくていい。元通りになったら、これまでの時間まで……いや、とにかく必要ない」
きっぱりと断られて俺は仕方なく引き下がる。
(まぁ、まだチャンスはあるし。ヨカナーンが慣れたら、少しは仲良くなれたらまた持ち掛ければいいや)
そう思って俺は気持ちを切り替えた。
「あんた軍を辞めてからろくなものを食べてなかっただろ。美味しいものを食べないと、人は減るんだぞ?」
何を言ってるんだって目で見られたけど、本当だよ?
誰でもその人が好きな食べ物、ああこれ好きだなぁって食べ物があると思うんだけど、そういうのを食べるとホッとするんだ。
逆に言うと、そういう食べ物を食べれないと、どうでもいいものばかりを食べていると心が荒む。
砂漠のように、スラムのように荒廃してしまうんだ。
「俺はね、蜂蜜しみっしみのどら焼きが好きで、今は食べられないけどいつか絶対に取り戻すんだって心に誓ってる。ヨカナーンの好きな食べ物ってなに?」
「好きなものなど……特にない」
えっ、うっそぉ……。食べ物に興味のない人なんているの? あ、そういえばロクも甘い物が嫌い以外の話は特にしていなかったかも。
「食事に興味のない人もいるのかもしれないけどさぁ、騙されたと思ってこれを食べてみてよ」
俺は料理長と協力してうろ覚えの知識から幾つかのスイーツを作り出した。
その中でロクが一番苦手にしているお菓子を持ってきたんだ。
「これは……本当に食べ物なのか?」
物凄く胡散臭い目で見られているけど、卵白とバターとナッツを砂糖で固めた甘々なお菓子だからね。ガツンと脳に沁みる旨さだよ。
俺はヌガーを手で二つに割って、片方を口に入れながらもう片方をヨカナーンに差し出した。
そこまでされればヨカナーンも矛を納めて受け取るしかない。
恐る恐るヨカナーンはヌガーを口にした。
「フッッッ!」
目を大きく見開いて、驚いた表情を見せるヨカナーンに溜飲が下がる。
ふふふ、ガツンと甘い物はガツンと美味しい!
甘味を食べたことのないヨカナーンには衝撃だろう。
「んっ、ふっ……」
口いっぱいに溢れだすナッツのフレーバーと甘味の共演に、ドパッと出た唾液で溺れながら必死に飲み下す。
うんうんわかるよ、一生懸命に食べちゃうの。
でもなんかエッチだよね?
俺は喘ぐようにヌガーを食べているヨカナーンを見て、ちょっと顔を赤くした。
(なにもあんなに喘がなくてもいいじゃん。俺が無理に食わせてるみたいじゃん)
もしかしたら、ヨカナーンは人の嗜虐心をそそるところがちょっとあるのかもなぁと思いながら目を逸らせていたら、食べ終わったヨカナーンが唇を手で拭いながらこれはなんだと聞いてきた。
「最近、領地で採れるようになった砂糖を使ったお菓子だよ。ヌガーって言うんだけど、気に入った?」
「ん……何か辱しめを受けた気分だ」
ちょっと言い方! そんなのロクに聞かれたら物凄いお仕置きをされるからやめて!
「お菓子はまだ一般家庭にまで普及していないけど、じょじょに生産量を増やしてる。いつかもっと沢山の種類の、美味しいお菓子を心ゆくまで食べられる世界になるから……ヨカナーンも協力してよ」
「は? 協力?」
何を言ってるんだと眉をひそめるヨカナーンに、俺は正直に人手が欲しいんだと言った。
「俺がこの世界でやりたいようにする為に、優秀な人材がまだまだ足りない。金を儲けて、甘味を広めて、信仰を集めて――獣人だけが得をする世界を変えたい。誰もが医者にかかったり、勉強したり、その後の進路を自由に選べる世界にしたい」
「な、にを……」
「おかしくないよ。俺にはそれが当たり前だもん」
制約があったり差別をされる方がおかしいんだ、と言ったらヨカナーンがクスクスと笑い出した。
勿論、不治の病が治るとか、普通なら手の施しようがないところまで病気が進んでいてもどうにかなるとか、十分にスーパーミラクルではあるんだけど。
(でも、心には効かないし、病気が治っても体力や衰えた筋肉までが復活する訳じゃない)
だから病気が治ったからといって、ヨカナーンがいきなり元通りにならないのは当然だった。
「でもね、その痣は消させてくれてもいいんじゃない!?」
ヨカナーンが再生薬を使うことを拒んだので、せっかくの綺麗な顔に赤黒い痣が残ったままなのだ。
「これは治さなくていい。元通りになったら、これまでの時間まで……いや、とにかく必要ない」
きっぱりと断られて俺は仕方なく引き下がる。
(まぁ、まだチャンスはあるし。ヨカナーンが慣れたら、少しは仲良くなれたらまた持ち掛ければいいや)
そう思って俺は気持ちを切り替えた。
「あんた軍を辞めてからろくなものを食べてなかっただろ。美味しいものを食べないと、人は減るんだぞ?」
何を言ってるんだって目で見られたけど、本当だよ?
誰でもその人が好きな食べ物、ああこれ好きだなぁって食べ物があると思うんだけど、そういうのを食べるとホッとするんだ。
逆に言うと、そういう食べ物を食べれないと、どうでもいいものばかりを食べていると心が荒む。
砂漠のように、スラムのように荒廃してしまうんだ。
「俺はね、蜂蜜しみっしみのどら焼きが好きで、今は食べられないけどいつか絶対に取り戻すんだって心に誓ってる。ヨカナーンの好きな食べ物ってなに?」
「好きなものなど……特にない」
えっ、うっそぉ……。食べ物に興味のない人なんているの? あ、そういえばロクも甘い物が嫌い以外の話は特にしていなかったかも。
「食事に興味のない人もいるのかもしれないけどさぁ、騙されたと思ってこれを食べてみてよ」
俺は料理長と協力してうろ覚えの知識から幾つかのスイーツを作り出した。
その中でロクが一番苦手にしているお菓子を持ってきたんだ。
「これは……本当に食べ物なのか?」
物凄く胡散臭い目で見られているけど、卵白とバターとナッツを砂糖で固めた甘々なお菓子だからね。ガツンと脳に沁みる旨さだよ。
俺はヌガーを手で二つに割って、片方を口に入れながらもう片方をヨカナーンに差し出した。
そこまでされればヨカナーンも矛を納めて受け取るしかない。
恐る恐るヨカナーンはヌガーを口にした。
「フッッッ!」
目を大きく見開いて、驚いた表情を見せるヨカナーンに溜飲が下がる。
ふふふ、ガツンと甘い物はガツンと美味しい!
甘味を食べたことのないヨカナーンには衝撃だろう。
「んっ、ふっ……」
口いっぱいに溢れだすナッツのフレーバーと甘味の共演に、ドパッと出た唾液で溺れながら必死に飲み下す。
うんうんわかるよ、一生懸命に食べちゃうの。
でもなんかエッチだよね?
俺は喘ぐようにヌガーを食べているヨカナーンを見て、ちょっと顔を赤くした。
(なにもあんなに喘がなくてもいいじゃん。俺が無理に食わせてるみたいじゃん)
もしかしたら、ヨカナーンは人の嗜虐心をそそるところがちょっとあるのかもなぁと思いながら目を逸らせていたら、食べ終わったヨカナーンが唇を手で拭いながらこれはなんだと聞いてきた。
「最近、領地で採れるようになった砂糖を使ったお菓子だよ。ヌガーって言うんだけど、気に入った?」
「ん……何か辱しめを受けた気分だ」
ちょっと言い方! そんなのロクに聞かれたら物凄いお仕置きをされるからやめて!
「お菓子はまだ一般家庭にまで普及していないけど、じょじょに生産量を増やしてる。いつかもっと沢山の種類の、美味しいお菓子を心ゆくまで食べられる世界になるから……ヨカナーンも協力してよ」
「は? 協力?」
何を言ってるんだと眉をひそめるヨカナーンに、俺は正直に人手が欲しいんだと言った。
「俺がこの世界でやりたいようにする為に、優秀な人材がまだまだ足りない。金を儲けて、甘味を広めて、信仰を集めて――獣人だけが得をする世界を変えたい。誰もが医者にかかったり、勉強したり、その後の進路を自由に選べる世界にしたい」
「な、にを……」
「おかしくないよ。俺にはそれが当たり前だもん」
制約があったり差別をされる方がおかしいんだ、と言ったらヨカナーンがクスクスと笑い出した。
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